軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

559 クマさん、二人の誕生日パーティーに参加する その2

「言い忘れたけど。ユナちゃん、そのドレス、似合っているわよ」

「ありがとう。ティルミナさんも似合っていますよ」

お互いに褒め合う。ティルミナさんは気恥ずかしそうに「ありがとう」と言う。その気持ちはよく分かる。着なれない服ほど恥ずかしいものはない。

でも、着続ければ慣れるのも証明済みだ。クマの格好はすでに慣れている自分がいる。マズイと思っても、心は正直だ。

「でも、靴と手袋は付けたままなのね」

ティルミナさんはわたしの足と左手を見る。

椅子に座れば靴は見えないし、クマさんパペットはアイテム袋にもなっているので、プレゼントのクマのぬいぐるみを出すのに必要だ。

別に危険なこともないので、黒クマパペットは仕舞ってある。

お互いに褒めていると、ドアがノックされ、「失礼します」と声が聞こえると、ララさんが部屋に入ってくる。

ララさんはわたしを見て驚くが、すぐにいつもの表情に戻る。

「着替えは終わりましたでしょうか? よろしければお手伝いさせていただきますが」

「大丈夫。二人とも終わっているから」

「髪はそのままですか?」

「そのつもりだけど」

髪は何もせずにストレートに流しているだけだ。別にわたしの誕生日ではないから、髪型を変える必要はない。あくまで、主役はフィナとノアの二人だ。貴族であるノアの誕生日パーティーってことだから、ドレスを着ているだけだ。

「ユナ様の髪は長く綺麗なので、そのままでもいいかもしれません」

わたしの髪は長い。唯一、女の子として自慢できる箇所かもしれない。でも、その箇所もクマの着ぐるみを着れば隠れてしまうので、普段は意味がない。

「それでは、パーティーを行うお部屋に案内させていただきます」

わたしたちは部屋を出て、ララさんは隣の部屋にいるゲンツさんに呼びかける。

部屋から正装したゲンツさんがでてくる。いつものラフな格好をしているゲンツさんからは想像もできないほど、キリッとしている。ちゃんと、ヒゲが剃られ、髪も整っている。

笑いそうになる。

もしかすると、わたしが普通の格好をすると、相手はこんな気持ちになるのかもしれない。

「ティルミナに…………クマの嬢ちゃんか?」

間が気になったけど、理由は分かるので、あえて尋ねない。

ただ、一言「そうだよ」とだけ言う。

「フィナとシュリは?」

「二人は後から来るそうよ」

「そうか。二人とも、似合ってるよ」

わたしとティルミナさんは「ありがとう」とお礼だけは言っておく。もっと、笑われたりバカにされたりするかと思ったけど、どうやら、小馬鹿にする余裕はゲンツさんにはないらしい。先ほどから、緊張からか、顔が強張っている。

「ゲンツも似合っているわよ」

ティルミナさんの言葉にゲンツさんは恥ずかしそうにするが、そのティルミナさんの言葉で緊張が少しは取れたように頬が緩む。

そして、タイミングを見計らってララさんが声をかけ、本日のパーティー会場に移動する。

広い。数十人は余裕でパーティーに参加できるほどの広い部屋だ。

さすが、貴族様のお屋敷だけあって、こんな広い部屋もあるんだね。ただ、予想が外れた、ミサの誕生日パーティーと同じように椅子に座るかと思ったけど、テーブルがあるだけで椅子がない。どうやら、立食パーティーになるようだ。これでは足が目立ってしまう。

「こんな場所でやるの?」

「らしいな」

ティルミナさん、ゲンツさんは緊張した感じで部屋を見回す。

部屋の中にはクリフとグランさんが話している姿があり、部屋に入ってきたわたしたちにミサが気づくと、わたしのところにやってくる。

「ユナさん、綺麗です」

ミサが笑顔で褒めてくれる。ミサも水色のドレスを着て、とても可愛らしい。成長すれば、綺麗な女性になるだろう。

「そんな格好をすると、本当にどこかのお嬢様に見えるな」

「本当じゃな」

クリフとグランさんもわたしのところにやってきて、わたしの格好を見て、そんな感想を漏らす。

今のわたしに合っている言葉は「馬子にも衣裳」だろう。

「それにしても、足のほうはどうにかならなかったのか?」

クリフがわたしの足元をみながら尋ねる。

「このような場所で履く靴は持っていないから仕方ないでしょう」

欲しいとも思わないので、買ってもいない。

「それなら、今からでも用意させるか?」

貴族のクリフなら、本当にやりかねないので、丁重に断る。

「まあ、その靴もおまえさんには似合っているから、問題はないだろう」

クリフは、わたしの格好を褒める? と次にティルミナさんのほうに視線を向ける。

「クリフは会ったことがあると思うけど、フィナの母親のティルミナさん、それから父親のゲンツさんだよ」

一応、双方を知っているわたしが紹介する。

「このたびは、お招きいただき、ありがとうございます」

緊張した感じでティルミナさんが挨拶をする。ゲンツさんも頭を軽く下げる。

「娘の我儘で招待させていただいたが、一度、あなたたちと話がしてみたかった、許していただければと思う」

「いえ、このような場所で、娘の誕生日パーティーをしていただけるだけでも、感謝の言葉もありません」

ティルミナさんは言葉を選びながら答える。

最後まで、行きたくないようなことを言っていたけど、さすがに本人の前では言えないよね。

「そう言っていただけると助かる」

クリフが笑顔になると、ティルミナさんも安堵の表情を浮かべる。

「わしにも挨拶をさせていただいてもいいかな」

グランさんがやってくるので、グランさんのことも紹介する。

「海のときに会っているかもしれないけど、ミサのお爺ちゃんのグランさん。前に、家にミサの誕生日パーティーのことで謝罪に来たレオナルドさんの父親になるのかな?」

奥さんの父親ってこともあり得るけど。どっちなんだろう?

「ええ、一度お会いしています。お久しぶりです。グラン様」

「前回は忙しく、あまり話ができなかったが、この場を借りて、謝罪をさせてほしい。ミサの誕生日パーティーのとき、大切な娘さんを守れなくてすまなかった。そして、身を張ってミサを守ってくれた娘さんにお礼を」

グランさんは軽く頭を下げてお礼を言う。

「いえ、もう、レオナルド様に謝罪の言葉とお礼の言葉をいただきましたので」

貴族であるグランさんに頭を下げられて、ティルミナさんは困っている。

「とても、いい娘さんじゃ。これからもミサのことをよろしく頼みます」

「こちらこそ、娘のことをよろしくお願いします」

お互いに頭を下げる。

簡単な挨拶が終わると、ドアがノックされる。

「ノアールお嬢様とフィナ様、シュリ様をお連れしました」

ドアが開くと金色の髪に似合う赤いドレスを着たノアと、その後ろを薄緑色のドレスを着たフィナと、同じような色のドレスを着たシュリが入ってくる。姉妹で同じ色にしたのかな?

シュリはティルミナさんのところに向かうと、ノアとフィナは初めから話し合っていたのか、前のほうに移動する。

そして、ノアとフィナは挨拶を始める。

「この度はわたしと、フィナの誕生日パーティーに来てくださいまして、ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます」

ノアの言葉に緊張した感じで、フィナも頭を下げてお礼の言葉を続ける。

「11才になることができました。本当なら、お母様やお姉様にも祝ってほしかったのですが、お二人は王都にいます。でも、みなさんが祝ってくれることに感謝します」

「その、わたしなんかの誕生日を、ノア様と一緒に祝ってもらっていいのか、わかりませんが、その、よろしくお願いします」

たぶん、それがフィナの本心なのかもしれない。貴族であるノアと一緒に祝ってもらうことが、場違いと思っているんだと思う。

「そんなことはありません。迷惑だったかもしれませんが、一緒に祝いたかったんです。だから、フィナも楽しんでください」

「……ノア様」

この言葉もノアの本心だろう。

「分かりました。今日はよろしくお願いします」

「一緒に楽しみましょう」

「はい」

二人の挨拶が終わると、クリフが口を開く。

「食事を用意した。それと、作法は気にしないので、自由に食事と会話を楽しんでほしい」

クリフがそう言うと、料理が運ばれてくる。

「……お母さん、お父さん、似合っているかな?」

フィナがやってくると、恥ずかしそうにしながら尋ねる。

「ええ、似合っているわ。どこのお嬢様かと思ったわ」

「ああ、似合っている。ロイの奴にも見せてやりたかった」

薄緑色の綺麗なドレスだ。ミサの誕生日パーティーで見たけど、凄く似合っている。どこかのお嬢様と言ってもおかしくはない。

「わたしは~?」

「もちろん、シュリも似合っているわよ」

シュリもドレスを着て、嬉しそうにしている。もう少し大人しくしていれば、シュリもお嬢様に見えるかもしれない。

少し、動きすぎだ。

そんな二人を見ていたかと思うと、ティルミナさんの目から涙が溢れていた。

「お母さん、どうしたの?」

「お母さん、どこか痛いの?」

フィナとシュリが涙を流すティルミナさんを見て、慌てる。

「ごめんなさい。どこも痛くないから大丈夫よ。ただ、こんな綺麗な娘たちの姿を見ることができるなんて、思ってもいなかったから、嬉しくて」

「……お母さん」

「数ヶ月前のことを思うと、どうしてもね。こうやって、娘のドレス姿を見ることができるのも、ユナちゃんのおかげね。ユナちゃん、ありがとう」

たぶん、病気のことを言っているんだろう。病気の内容が分からなかったけど、あのままだったら死んでいたかもしれない。そうなっていたら、フィナとシュリのドレス姿を見ることはできなかった。

でも、あれはわたしのおかげだけではない。

「あのときのことなら、フィナが一生懸命に頑張ったからだよ。お礼なら、フィナに言ってあげて」

もし、フィナがティルミナさんのために頑張っていなかったら、わたしに会うまえに亡くなっていた可能性だってある。小さい体で仕事をし、母親と妹の世話をし、どれだけ大変だったか想像もつかない。

わたしはちょっとだけ、手助けをしてあげただけだ。

それと、ゲンツさんが陰から支えていたからこそ、フィナは耐えられたのかもしれない。

「そうね。フィナ、ありがとう。そして、綺麗な姿を見せてくれてありがとう」

「……お母さん」

フィナは恥ずかしそうにする。

「シュリもありがとうね。二人が結婚するまで、頑張らないとね」

「まだ、早いよ」

「行き遅れても困るが、早いと寂しくなるな」

ゲンツさんがフィナとシュリを見る。

「そのときは、わたしがもらってあげるよ」

と冗談で言ってみる。

「そうね。ユナちゃんなら、安心してお嫁に行かせることができるわ」

本気か、冗談か分からない表情で言われた。

まあ、わたしが男だったら、フィナをお嫁さんにほしいと思ったかもしれない。

がんばり屋さんだし、料理も家事もできる。フィナと結婚できる男は幸せになると思う。

そのときは、相手の男をちゃんと見極めないとダメだね。フィナに相応しくないなら、どうにかしないといけない。