軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

538 クマさん、失敗する

セレイユと別れたわたしはノアのところに向かう。

大丈夫だと思うけど、少し心配でもある。ほんの少しの間、セレイユの家に行って戻ってくるはずが、街の外まで行って魔物と戦うことになるとは思いもしなかった。

わたしは学園の中に入り、湖に向かう。そこにはわたしの心配をよそに、セレイユの家に行く前と何も変わらない光景があった。学生たちの楽しく遊ぶ声が聞こえ、バーベキューのようなものも用意され、良い匂いまでしてくる。

少し間違えれば、この光景は無くなっていたんだよね。本当に男の行動を阻止できてよかった。

一人の男の恋愛によっていろいろな人が不幸になるところだった。本当に迷惑な男だった。魔法の才能はあったんだから、良い方に進めば、他の女の人も近寄ってきたかもしれないのに。

さて、ノアはどこにいるかな?

「あっ、ユナさん!」

わたしがノアを捜していると、ノアがわたしを見つけるほうが先だった。水着姿のノアがやってくる。

「ユナさん、遅かったですね。セレイユ様には会えたのですか?」

「ちゃんと会えたよ。少し話し込んでいたら、遅くなっちゃって、ごめんね」

「いえ、ユナさんになにもなかったようでよかったです。遅かったので、何かのトラブルに巻き込まれていたんじゃないかと思って」

するどい。

「でも、今日はクマさんの格好じゃないから大丈夫だと思っていたんですが、心配していたんですよ」

たしかに、いつも、クマさんの格好のせいでトラブルに巻き込まれることが多い。でも、今回は違う。

クマさんの格好でなくても巻き込まれるってことは、わたし自身がトラブルに巻き込まれる体質なのかな?

「それで、セレイユ様の用事は終わったんですよね」

「終わったよ」

セレイユたちは男について調べたり、いろいろとすることがあると思うけど、わたしがやることはなにもない。

「それじゃ、一緒に遊びましょう。ユナさんも、早く水着に着替えてください」

ノアはわたしのクマさんパペットを掴む。

「えっ、わたしはいいよ」

「戻ってきたら、一緒に遊んでくれる約束でしょう」

ああ、そんな約束をしたような気がする。あまりにもいろいろなことがあり過ぎて、覚えていない。

「さあ、行きますよ」

ノアは楽しそうにわたしの手を引っ張り歩き出す。

結局、ノアから逃げることもできず、水着に着替えることになり、ノアとシアと遊ぶことになった。

遊んだのはいいけど、わたしの足腰が若者についていけるわけもなく、早々にダウンしたのは言うまでもない。元気に遊ぶ若者と一緒に遊ぶイベントは、元引きこもりには、ハードルが高かった。

ちなみに、クマボックスにクマ装備を仕舞い、白クマパペットだけを付けて遊んだ。

「それじゃ、シアたちは明日、街を出るんだね」

「はい、ユナさんも一緒に帰りませんか? 王都に寄っていくんですよね」

「王都に寄るけど、明日はセレイユのところに行くことになっているから、ちょっと一緒に帰るのは無理かな」

それにくまゆるとくまきゅうに乗って帰るので、他の学生たちに見られることになる。それはそれで面倒になりそうだから、一緒に帰るのは遠慮したい。

「ノアはどうする? シアと一緒に王都に帰る? それとも、わたしと帰る?」

ノアの護衛で来ているけど、シアたち学生と一緒なら安全なはずだ。

「もちろん、ユナさんと帰りますよ」

ノアは迷うこともなく答える。

「いいの? 少し帰るのが遅くなるよ」

「はい。数日ぐらいだったら、お父様も怒らないと思います。それに、お姉様たちと帰ったら、ユナさんが仕事を放棄したと思われてしまうかもしれません。もちろん、ちゃんと説明すれば、お母様もお父様も分かってくれると思いますが、余計な面倒ごとを増やす必要はないと思います」

確かに、先にノアが一人で王都に帰れば、エレローラさんが知ることになる。そうなるとクリフの耳に入るかもしれない。説明すれば大丈夫だと思うけど、その説明が面倒くさいのは確かだ。

「それに、せっかくくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんに乗って帰れるんです。それを逃すわけにはいきません」

ノアは力強く答える。

「姉はクマに負けたのね」

シアはわざと悲しそうな顔をする。

「お姉様、そんな顔をしないでください。その代わりに、今日の夜も、お姉様と一緒に寝る約束をしましたでしょう。それに王都に行きますから、また一緒にいられます」

どうやら、今日の夜もシアと一緒に寝る約束をしたらしい。もっとも、昨日は遊び疲れて、シアの部屋で寝てしまっただけだけど。

「ユナさん。勝手に決めてしまったけど、お姉様のところに泊まっても大丈夫ですか?」

「いいよ。久しぶりにシアに会えたんだから、甘えるといいよ」

姉妹の仲がいいのは良いことだ。

それから、シアのお土産を買うのに付き合い、夕刻になる。

「それじゃ、明日の朝、今日と同じように学園の前に行くから」

「はい」

ちなみに昨日はくまゆるが護衛をしたので、今日はくまきゅうがノアの護衛をする。代わりばんこだ。

「くまきゅう、ノアをお願いね」

「くぅ~ん」

ノアは子熊化したくまきゅうを抱き抱え、シアと一緒にシアが泊まっている部屋に向かう。

一人、宿屋に戻ってきたわたしは、ベッドに倒れる。

「つかれた~」

夕食を終え、あとはお風呂に入って寝るだけだ。

クマ装備をしていないから肉体的にも疲れたし、若い元気なパワーに押されて、精神的にも疲れた。

本当に若いって、凄いね。

どこからともなく、15歳だろうという声が聞こえてくるが、気にしない。

ハッキリいって魔物と戦ったよりも、ノアたちと湖で遊んだほうが何十倍も疲れた。本当にクマ靴がないと、動き回ると疲れる。まして、水の中は動きが鈍くなり、肉体への負担も大きくなる。運動にはいいけど、疲れるんだよね。

小学校のときのプールの授業を思い出す。怠くなって、眠くなったものだ。

和の国の温泉に行って、今日の疲れを取りたいところだ。

「温泉に入りたい」

一度そう思うと、温泉に入りたい気持ちが大きくなる。

わたしはさっそく行動した。わたしはクマの転移門を出すと、和の国の温泉に転移する。

部屋は真っ暗なので、クマの光魔法を使って部屋を明るくする。当たり前だけど、使っていない部屋の灯りはついていない。明かりがついているのは、カガリさんの部屋ぐらいだろう。

わたしはカガリさんに挨拶をしてから、温泉に向かうことにする。カガリさんの部屋に入る。部屋の奥に、カガリさんが窓を開け、外を眺めながら、お酒を美味しそうに飲んでいる姿があった。ご機嫌なのか、服の下から出ている尻尾が揺れている。

ちなみに、カガリさんは幼女姿のままだ。

「カガリさん、こんばんは」

「やはり、お主だったか。温泉か?」

カガリさんは、気配で分かるらしい。

狐だからかな?

「うん、ちょっと疲れたから、温泉に入りに来たよ」

「それで、その面妖な格好はなんじゃ。一瞬、誰か分からなかったぞ」

わたしは制服のままだ。

どうせ、温泉に入れば着替えるから、そのままで来た。

でも、面妖な格好って、和の国からしたら、制服姿は見慣れない服なのかもしれない。

「服については、ノーコメントだよ。それじゃ、温泉を借りるね」

「ここはお主の家じゃ。妾の許可をもらう必要はない」

「一応、カガリさんが、管理してくれているからね」

それが礼儀であり、カガリさんも、声をかけられずに温泉に入られるのは嫌な気分になるかもしれない。

だから、来たときは一言声をかけるようにしている。

わたしはカガリさんに一言言ってから、温泉に向かう。

脱衣所に来ると子熊化したくまゆるを召喚する。そして、制服を脱ぎ、くまゆると共に温泉に向かう。

わたしは早く温泉に入りたいのを我慢して、セレイユを守ってくれたくまゆるの体を洗ってあげる。くまゆるは気持ち良さそうにする。今度、来たら、くまきゅうの体も洗ってあげないとね。

今のわたしは、今度、くまきゅうの体を洗ってあげればいいと思っていた。その後、あんなことになるなんて思わずに。

わたしはくまゆるの体を洗い終えて、自分の体を洗うと、温泉に入る。

「ふはぁ」

少し熱いけど、温泉が体に染み渡る。

気持ちいい。筋肉痛にならないように太ももや二の腕を揉みほぐす。

やっぱり、クマ装備なしでも、少しは鍛えないとダメかな。

そう何度、思ったことか。大概、三日坊主で終わる。

だって、筋トレって、疲れるし、面倒くさい。

温泉で体の疲れを取ったわたしは、温泉から出ると、くまゆるの毛を乾かし、ブラッシングをしてあげる。そして、ユーファリアの宿屋に戻ってくると、そのままくまゆると一緒にベッドに倒れ、くまゆると一緒に夢の中に落ちていく。

翌日、くまゆるに起こされ、学園に向かう。校門前に来ると、昨日と同じようにノアとシアが待ってくれていた。

「二人ともおはよう」

「ユナさん、大変です」

ノアがわたしのところに駆け寄ってくる。

「どうしたの。なにかあったの?」

「よくわからないのですが、朝、起きたら、くまきゅうちゃんが、こんな感じになっていて」

ノアが抱きかかえているくまきゅうを見せてくれる。

くまきゅうは悲しそうな顔をしていた。

「くまきゅう、どうしたの?」

ノアの腕の中で、「くぅ~ん」と寂しそうに鳴いて、わたしを見ない。これはいじけている?

もしかして、わたしがくまゆると二人だけで、和の国の温泉に行ったことがバレている?

いや、確実に知られているよね。別に隠すつもりはなかったけど。これは、くまきゅうを置いて、くまゆると温泉に行ったことで、いじけている。

「ユナさん、どうしましょう? わたし、なにかしたんでしょうか?」

ノアが不安そうな表情をする。

「ノアは悪くないよ。わたしが悪いんだよ」

「ユナさんが?」

「昨日の夜、くまゆるとちょっとおでかけしたから。くまきゅうを置いていった感じになったから、いじけちゃったみたい」

わたしはノアからくまきゅうを受け取り、抱きしめる。

「くまきゅう、ごめんね。除け者にしたわけじゃないからね。今度は一緒に行こうね。体も洗ってあげるし、一緒に寝てあげるから」

「くぅ~ん」

くまきゅうはそっぽを向きながら鳴く。

これは、しばらく一緒にいないとダメそうだ。

教訓、いかに疲れていても片方だけを置いて、温泉に行ってはダメだと、わたしは学んだ。