軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

537 クマさん、説明する

セレイユはゆっくりと話し始める。

母親が殺されたときのことから、うろ覚えの男の言葉。16歳の誕生日に自分の前に男が現れる可能性があったこと。誰かに話せば弟が殺されていた可能性。身を守るためと、母親の仇をとるために、剣を持ち、魔法を学んできたこと。

今までの思いを話すセレイユの言葉をセレイユの父親は黙って聞いている。

そして、今日、キースが攫われ、部屋に手紙があったことを。セレイユは手紙のとおりに一人で向かったこと。そこで、わたしがセレイユを見かけ、違和感を覚えたから、追いかけたことを説明に付け足す。

「すまない。おまえが、母親が目の前で殺されたことで、強くなろうと思っていたものと考えていた。まさか、シューリアを殺した相手が現れたときのためとは思っていなかった」

「わたしも、お父様には身を守るためと言ってきましたから」

「本に挟んであった手紙を読んだとき、おまえが死を覚悟していると思った。もし、おまえとキースを失ったらと思ったら、いてもたってもいられなくて、飛び出していた」

「お父様……」

「辛い思いをさせた」

「お父様は悪くありません。お母様が殺されたことは、まるで悪夢のようでした。現実に起きたことかも当時のわたしは理解してませんでした。ただ、もし、男が言ったことが本当ならと思うと、幼いながらも誰にも言うことはできませんでした。わたしにできることは、剣を学び、魔法を学び、自分の16歳の誕生日を待つだけでした」

考えるだけでも長い。自分だったら、気が狂いそうになる。

でも、やっと、長年背負ってきたものが降りたことになる。セレイユもまだ16歳だ。人生はこれからだ。

「それで、その男は……」

その質問に、セレイユは唾を飲み込むと、父親を真っ直ぐに見つめ、ゆっくりと口を開く。

「わたしが殺しました」

セレイユの父親は椅子から立ち上がり、ゆっくりとセレイユに近づく。セレイユは体をこわばらせる。そんなセレイユを優しく抱きしめる。

「本当にすまない」

「お父様……」

セレイユの目に涙が浮かぶ。

よかった、本当によかった。ただ、隣にクマの格好をしている女の子がいるせいで、感動の雰囲気をぶち壊している感がある。絵面的に台無しだよね。

それから、この場で起きたことを、わたしとセレイユが一部のことを誤魔化しながら説明する。

「魔物を操る……その集まった魔物を、彼女が一人で倒した……」

結局は外に倒れている魔物のことを誤魔化せるわけもなく、外にいる魔物はわたしが倒したことを話した。初めは信じられなさそうにしていたが、セレイユの説明に、実際に倒れている魔物、それから、ギルドカードを見せて、冒険者ランクがCだということで納得してくれた。

唯一、ワームとワイバーンのことは黙っておいた。

魔物を操る話だけでも信じられないことなのに、ワームやワイバーンのことまで話す必要はない。

「そういえばユナ。男は魔石は湖に投げたと言ってましたが、どうやって見つけたのですか?」

セレイユが思い出したかのように尋ねてくる。もちろん、答えることはできない。だから、こう答えた。

「それは乙女の秘密だよ」

「……乙女ですか?」

クマの格好をしているけど、乙女だよ。

セレイユは微妙な表情をしたけど、それ以上は尋ねてこなかった。わたしが話したくないと感じ取ったのかもしれない。

でも、これで一通りの話は終わる。セレイユの父親も全ては受け入れていないようだったけど、セレイユとキースが無事だったことで、これ以上は追及してこなかった。

「ユナさんでしたね。今回は娘を助けてくださり、ありがとうございます」

わたしに向かって、頭を下げる。

「セレイユもキースも無事でよかったよ」

それが一番大切なことだ。

それから、これからのことを話し合う。主にクマハウスの外にある魔物についてだ。

わたしが処理を申し出たけど、セレイユの父親が首を振った。

「二人とも疲れているでしょう? ここには、護衛の二人を残します。魔物処理などは、冒険者ギルドに頼みましょう」

「お父様、先程、ユナから聞いたのですが。毎年、この時期に魔物を操ることを試していたようで、冒険者もいないようです」

「報告は受けている。それなら、ギルド職員に任せればいいだろう。魔物を処理する手ぐらいは空いているだろう」

たしかに、クリモニアでもギルド職員のゲンツさんたちが魔物を解体したりしている。この時期、暇にしているんだから、仕事が入って喜ぶかもしれない。

もっとも、わたしなら、せっかくの暇を堪能したいだろうけど。

「でも、どうやって説明をするのですか? ユナのことは言わない約束になっています」

いろいろと面倒くさいので、黙っているようにお願いした。

「討伐した者が名乗りでなければ、見つけた者のものだ。彼女のことは、黙っておけばいい。それに、わたしからの頼みを、深く追及はしてこないだろう」

まあ、この街の領主様だ。深くは尋ねてこないだろう。

あと、魔物を処理した素材は、お金に換えて、わたしにくれることになった。

まあ、お金はあっても困るものではないので、ありがたく受け取ることにした。

わたしたちは街に帰ることになった。

「それじゃ、わたしは着替えるから、少し外で待っていて」

わたしの言葉にセレイユの父親は意味を察し、キースを背負うと、クマハウスの外に出ていく。そのあとをセレイユが付いていく。

二人が外に出るのを確認すると、わたしはクマの着ぐるみを脱ぐ。

「はぁ〜」

涼しい。やっぱり、制服を着たまま、クマの着ぐるみを着るものじゃないね。少し汗をかいている。あとで、お風呂に入りたいね。

わたしはクマの着ぐるみをクマボックスに仕舞うと、クマハウスを出る。

外に出るとセレイユがやってくる。

「ユナ、申し訳ありませんが、男の顔をお父様に見せてあげてくれませんか?」

どうやら、帰る前に男の顔を確認したいそうだ。棺桶は蓋が外れないようにしっかりしてある。

わたしはセレイユに背を向け、棺桶に向かう。そのとき、くまゆる、くまきゅう、セレイユが声をあげる。

「「くぅ〜ん!」」

「ユナ!」

わたしは後ろを振り向く。

「なに! もしかして、魔物!?」

「違います! スカートです! スカートが捲れています!」

くまゆるとくまきゅうがわたしの前後に入り、セレイユは駆け寄ってくるとわたしのスカートを直してくれる。

「もしかして、見た!」

「いえ、クマさんは見てません!」

「!?」

それは否定になっていないよ。わたしの顔は一瞬で赤くなったと思う。わたしは逃げるようにクマハウスに駆け込む。

クマさんパンツを見られた。

「ユナ、大丈夫です。わたしとくまゆるとくまきゅうしか見てません。お父様も他の者も位置的に見えていませんから大丈夫です」

ドアの向こうから、セレイユが一生懸命に説明してくれる。

「本当?」

「本当です。みんな、棺桶のほうを見ていました。それに、振り向いた瞬間、わたしとくまゆるにくまきゅうが後ろにいましたでしょう? 気づいたときには、くまゆるとくまきゅうが守ってくれていました。だから、クマさんのパンツは見られていません」

セレイユが止めの一撃を入れる。

やっぱり見たんだ。

でも、いつまでもクマハウスに閉じ籠っているわけにはいかないので、気持ちを切り替えて、クマハウスを出る。

皆を見ると、なんとなく、目を逸らしているようにも見える。

そうだよね。セレイユがパンツ、パンツと連呼すれば、目を逸らすよね。

とりあえず、平常心を保ち、改めて棺桶の蓋を開ける。セレイユの父親は、わたしのほうをいっさい見ず、男の顔を確認する。

「見覚えがない。話からすると、シューリアと同じ学園の生徒だったのかもしれない」

セレイユの父親は3つ年上らしい。

護衛で来た一人が棺桶を馬で引っ張ることになった。ミニクマゴーレムの説明はしなかったので、見られたときは首を傾げられた。運んでくれると言うなら、わたしが運ぶ必要はないので、ミニクマゴーレムを片付ける。

それから、わたしはクマハウスをクマボックスに仕舞う。さすがに、そのときは、全員に驚かれる。

「いきなり現れたときも驚きましたが、アイテム袋に入るところを見ても、驚きますね」

「内緒にしておいてね」

そして、セレイユの父親は護衛四人のうち、二人をこの場に残し、残りの二人は街に戻って、冒険者ギルドに魔物の処理を依頼するように指示を出す。

セレイユの父親はキースを背中に背負ったまま馬に乗る。起きないってことは、やっぱり薬なのかな?

できれば、家に着くまで眠っていてほしいところだ。

セレイユはくまゆるに乗り、わたしはくまきゅうに乗る。

そして、わたしたちはセレイユの馬があるところまで移動する。

「くまゆる、ありがとうございました」

「くぅ~ん」

セレイユはくまゆるから降りると、自分の馬のところに移動する。軽く馬の首を撫で、馬に乗る。馬もセレイユが戻ってきたことに嬉しそうにする。

そして、何事もなく、街に戻ってくるが、門番はくまきゅうとわたしのことをジッと見ている。

まあ、白いクマに乗って女の子が現れれば、驚くよね。

くまきゅうのことはセレイユの父親が口添えしてくれたので、トラブルになることはなかった。

さすが、街の領主様だ。

「それじゃ、わたしはノアのところに行くから」

「ユナ、本当にありがとうございました。明日、お礼をしますので、必ず来てくださいね」

お礼は断ったけど、セレイユの父親にも言われ、断りきれなかった。今日はいろいろやることがあり、セレイユも疲れているので、明日となった。

なにより、セレイユは肉体的にも精神的にも疲れているはずだ。

「しっかり休むんだよ」

「それを言いましたら、ユナのほうが疲れているでしょう。どれだけの魔物を一人で討伐したと思っているんですか?」

セレイユが心配してくれるが、それほど疲れてはいない。

最低限、クマの靴があれば、走っても疲れない。

わたしはセレイユたちと別れ、学園に向かう。

ノア、怒っていないかな?