軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

539 クマさん、セレイユの家に話を聞き行く

わたしはいじけているくまきゅうを抱きかかえると、優しく撫でてあげる。くまきゅうは甘えるように抱きついてくる。

「くまきゅうちゃん。ユナさんが自分を置いて、どこかに行ってしまったと思ったんですね。朝、起きたら悲しそうにしていましたので、わたしがなにかしてしまったかと思いました」

ノアはわたしが抱いているくまきゅうの頭を撫でる。

「ユナさん。もう、くまきゅうちゃんを置いて、どこかに行ってはダメですよ」

わたしはノアに叱られる。

昨日は疲れてて、温泉への欲求に勝てなかったんだよ。

でも、今後は黙って置いていかないことを約束する。

それから、ノアがシアや王都の学生たちを見送りたいと言う。

この数日の間にノアは学生たちと仲良くなっていた。昨日も、わたしが湖でダウンしたあとも、シアと一緒に学生たちと遊んでいた。

わたしも団体戦ではお世話になったので、挨拶ぐらいはしておくことにした。

なので、一度くまきゅうを送還する。夜にちゃんと召喚して、お風呂に入って、一緒に寝る約束をする。

見送りにはユーファリアの学生たちも来ており、来年のことを話している。その中にはセレイユの姿もある。表情は笑顔だけど、疲れているようにも見える。

昨日の今日だ。疲れていても仕方ない。そんなセレイユがわたしのほうにやってくる。

「ユナも来ていたのですね」

「セレイユ、大丈夫なの? 見送りぐらい、休んでもよかったんじゃない?」

「お父様にも同じようなことを言われました。でも、ちゃんと休みましたから、大丈夫ですよ。わたしより、ユナのほうが疲れているんじゃないですか?」

「お風呂に入って、ぐっすり眠ったから、わたしも大丈夫だよ」

見送りぐらい休めばいいと思ったけど、貴族という立場や領主の娘とか、いろいろとあるみたいだ。

まだ、挨拶があるらしい。

「ユナ。それでは、のちほどに」

セレイユはわたしから離れると、先生や王都の学生たちに挨拶してまわる。

立場もそうだけど、責任感が強いのだろう。だから、学年を問わず、好かれている。いつも、セレイユの周りには人がいる。

わたしはノアのところに移動する。

「それじゃ、ノア。先に戻っているからね。ちゃんと、ユナさんの言うことを聞くんだよ」

「はい。お姉様も無事に帰ってくださいね」

「ユナさん、ノアをお願いしますね」

「ちゃんと、送り届けるよ」

「ユーナとノアールは一緒に帰らないのですか?」

わたしたちの会話を聞いていた王都の学生が話しかけてくる。

「わたしとノアはもう少し、街に残るから」

「そうなのですね。お話をしたかったのですが、残念です」

それぞれ、学生たちが馬車に乗り込むと、王都に向かって出発する。

ノアは手を振って馬車を見送る。

「いっちゃいましたね」

「王都に行けば、すぐに会えるよ」

「そうですね」

ユーファリアの生徒たちは授業があるので、このまま教室に向かう。学生の本分は勉強だから仕方ない。

そんな中、セレイユが残り、わたしのところにやってくる。

「ユナ、お待たせしました。それでは、家に行きましょう」

「学園のほうはいいの?」

「今日は家庭の事情ってことで、休みをいただいていますから大丈夫ですよ」

まあ、誘拐事件があったんだ。理由としては十分だ。

そして、セレイユが用意していた馬車に乗って家に行くことになる。セレイユの体調を気にかけて、セレイユの父親が用意したそうだ。

「それで、ユナさんはどうして、セレイユ様のお家に行くのですか?」

「話してはいないのですね」

セレイユが確認するようにわたしに尋ねる。

「言いふらすことじゃないからね」

「感謝します」

「なにかあったのですか?」

わたしたちの会話から、何かを感じ取ったノアが尋ねてくる。

「詳しいことはお話しできませんが、わたしは昨日、ユナに命を救われました。今日はそのお礼として、家にお呼びしたのです」

「命……」

ノアがセレイユの言葉の重みを感じたように小さな声で呟く。

「ユナがいなければ、わたしは、死んでいたでしょう。たとえ死ななくても、ここにわたしがいることはできなかったかもしれません。ユナには感謝をしてもしきれません」

わたしが乱入していなかったら、セレイユは弟のため、街のためと、自分の身を差し出したと思う。助けることができたのは本当に偶然だ。

わたしの行動が遅かったら、セレイユに会うことはできなかった。湖で男が捨てたものが気にならなかったら、魔石を拾うことがなければ、セレイユに相談しようとも思わなかった。

これも、ノアが遅くまでシアと遊んだおかげとも言える。そのおかげで、魔石を捨てる現場を見ることができた。

「昨日、そんなことがあったのですね」

話を聞いたノアの表情が暗くなる。

「だから、ユナさん。昨日、あんなに疲れていたんですね。なのに、わたし、無理やりに誘って」

ノアが昨日のことを思い出して、落ち込んでしまう。

いや、あれはクマ装備がなかったから、普通に体力がなくて疲れただけだよ。

決して、魔物と戦ったからではない。

「ノア、気にしなくてもいいよ。わたしも楽しかったから」

「ユナさん……」

わたしはノアの頭をポンポンと優しく叩く。

「そんな大切なお話をするのに、わたしが一緒に行ってもいいのですか? わたしは宿屋で待っていますが」

ノアが気を使って、そう言う。

「いえ、ノアも一緒に来てくださって問題はありませんよ。ただ、詳しいお話をすることはできないと思いますので、別の部屋にいてもらうことになると思いますが」

どんな話をするか分からないけど、昨日聞いた話をするなら、ノアに聞かせたくはない。キースが攫われた話をすれば、ミサが攫われたときのことを思い出すかもしれない。セレイユの母親が亡くなった理由を聞いたら、悲しむかもしれない。

ノアに関係ないことで、心を痛める必要はない。

「わたしも貴族の娘です。理解をしているつもりです。命のやり取りがあったことも、本当なら話せなかったかと思います。セレイユ様が、そのことを教えていただけたことだけで、気を使ってくれていることが分かります。ですので、気になさらないでください」

ノアは貴族の令嬢らしい対応をする。

本当は詳しく知りたいはずなのに、分別があるから深くは尋ねてこない。本当に、その辺りは偉いと思う。

いつもは子供らしいけど、こういうときは貴族らしく、振る舞うんだよね。

「ノア、ありがとう」

馬車はセレイユの家に到着し、わたしたちは家の中に入り、部屋の前で止まる。

「それでは、ノアはこちらの部屋でお待ちになってください。あとで、美味しいお菓子を運ばせますので」

「はい、お気遣い、ありがとうございます」

部屋に入っていくノアを見送り、わたしとセレイユは別の部屋に向かう。

少し歩き、ドアの前に立つと、セレイユはノックしてドアを開ける。

「お父様、戻りました」

部屋の中にはセレイユの父親がいる。

セレイユの父親に椅子に座るように言われ、わたしはセレイユの父親の前に座り、セレイユは父親の隣に座る。

「来てくださって、ありがとうございます」

セレイユの父親は頭を軽く下げる。

わたしはまず、ノアが居たので聞けなかったことを尋ねる。

「キースは大丈夫ですか? 目は覚めたんですか?」

あのまま寝たままだったら、かなりの問題になる。魔法で眠らされ、一生眠ったままという可能性もある。

「昨日の夕刻には目を覚ましました」

その言葉を聞いて安堵する。

最悪の状況にはならなかったようだ。

「目が覚めたとき、1日が終わっていたので、驚いていました。どうやら、攫われたときのことは、覚えていなかったみたいです」

「お父様がキースに抱きつくから、キースが意味が分からない顔をしていましたよ」

「いや、おまえも抱きついていただろう」

「姉が弟を想うのは当たり前です」

「父が息子を大切に想うのも当たり前だろう」

お互いに家族を心配していた。

わたしには眩しいね。こんな家族がいたら、わたしも異世界に来なかったのかな?

でも、この世界に来て大切なものがたくさんできた。この世界に来て、よかったと思っている。

セレイユの父親は、少し恥ずかしそうにしながら、話題を変える。

「まず、こちらを受け取ってください。ユナさんが討伐した魔物のお金になります」

セレイユの父親がお金が入った袋をわたしの前に差し出す。

「多くないですか?」

「娘と息子を救ってくれたお礼のお金も入っています。お受け取りください」

「セレイユにも言ったけど、友達を助けただけだから、お礼はいらないよ」

「これは父親としての感謝の気持ちです。娘の友達に感謝する親はいるでしょう。娘の友達だからと言って、お礼をしない理由にはなりません」

そう言われたら、断ることはできないので、素直にお金を受け取る。

それから、男について教えてくれるが、まだ調査中だと言う。

まあ、昨日の今日だ。すぐには情報は集まらないだろう。それから、今回のことを国王に報告するらしい。

「信じてもらえないと思いますが」

セレイユの父親は自信なさげにする。

「信じてくれますよ」

魔物が王都に集まったあの件を知っている国王なら、信じてくれるはずだ。

「もし、信じていただけないようだったら、わたしの名前を出してもらえば」

「ユナさんの名前ですか?」

「たぶん、それで信じてくれると思うよ」

面倒ごとになりそうだけど、信じてもらえないことが一番困る。

「ユナさん、あなたは?」

「ちょっとばかり、国王陛下と顔見知りなだけだよ」

わたしの言葉に二人は信じられない表情をする。

クマの格好をした人物の言葉より、信じられるよね?