軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

509 クマさん、女の子に捕まる

わたしはノアと一緒に湖を見ながら歩く。

天気はよく、景色はいい。湖も綺麗だ。湖にはボートが浮かび、乗ることもできるみたいだ。楽しげな街のようだ。多くの人がわたしたちと同じように湖を見ている。そんな人の中を歩くが、誰もわたしに気を止めようとするものはいない。

やっぱり、クマの格好じゃなければ、誰もわたしを見ようとはしない。わたしの靴や手を気にする者もいない。まあ、近くで見ない限りは、黒いものと白いものぐらいにしか見えない。誰もクマの足をした靴やクマの顔をした手袋とは気付かない。

「ユナさん、どうしたんですか? 早く行きましょう」

わたしが周りを気にしながら歩いていると、前を歩くノアが後ろを向きながら、声をかけてくる。

「ノア、前を向いて歩かないと危ないよ」

「だいじょうぶですよ……うわぁ」

そう注意した瞬間、後ろ向きで歩いていたノアは躓いてしまう。

ノアは踏ん張って、体勢を整えようとする。わたしは慌てて手を伸ばそうとするが、ノアはわたしの手から離れるように後ろ向きに倒れる。

「あぶない!」

ノアが倒れそうになるところに、制服を着た女の子がいる。女の子にぶつかると思った瞬間、女の子はノアを抱き止める。ノアは女の子のおかげで倒れずに済む。

「ちゃんと、前を見て歩かないと危ないですよ」

「すみません」

ノアは女の子の腕から離れると謝る。

ノアを受け止めたのは、わたしやシアと同じぐらいの女の子だった。女の子は王都とは違った制服を着ている。もしかしたら、ユーファリアの学園の生徒なのかもしれない。

「元気なことはいいことですが、女の子はお淑やかにするものですよ」

「ごめんなさい」

ノアはしょんぼりとする。

そんなノアを制服を着た女の子が見つめる。

「……あなた、どこかでお会いしたことがありませんか?」

そう尋ねられたノアは、制服を着た女の子を見る。

お互いの顔が近づき、見つめ合って数秒。先にノアが口を開く。

「セレイユ様ですか?」

「ノアールだったかしら?」

お互いに名前を言い出す。

二人は知り合いだったみたいだ。

「お久しぶりです。セレイユ様」

「ええ、ノアールはどうして、こんなところに? ああ、もしかして、シアの応援に来たの?」

ノアがセレイユと呼んだ女の子は、自分で尋ねて自分で答えを導きだす。

「はい、学園で行われる魔法の交流会に参加するお姉様の応援に来ました。ユナさん、紹介しますね。この街を治めるフォーリンス家の令嬢のセレイユ様です」

ノアが女の子のことを教えてくれる。この街の領主の娘だったんだね。

つまり、貴族つながりで、知り合いだったみたいだ。

「セレイユよ」

「わたしはユナ」

わたしたちはお互いに名前を名乗る。

「あなた、魔法の交流会で来た王都の学生よね? 今頃、学園で練習しているはずだけど、どうしてここに? それに、どうしてノアールと?」

「えっと、その」

わたしはとっさのことで口ごもる。

わたしが王都の学生服を着ているので、今回の魔法の交流会の参加者だと思ったみたいだ。わたしは交流会の参加メンバーではないし、まして王都の生徒でもない。でも、制服を着ているのに違うとも言えないし、そうだとも言えないので、返答に困る。そんなわたしをノアがフォローしてくれる。

「ユナさんは、わたしとお姉様のご友人です。交流会に参加はしないのですが、お姉様の応援に行くと言うので、一緒に連れてきてもらったんです」

「連れてきてもらったって、シアと別々に来たの? それともエレローラ様と一緒に?」

「いえ、お母様はいません。今回はユナさんと二人で来ました。ユナさんは強いので、わたしの護衛もしてくださっています」

ノアの返答にセレイユは驚いたようにわたしのほうを見る。

「失礼だけど、あなた、年はいくつ? 14? 13かしら」

「15歳です」

「15歳!?」

わたしの言葉にセレイユは驚く。

平均的な15歳よりは小さいけど、15歳だ。

「確認します。あなたは今回の魔法の交流会のメンバーではないのですよね?」

「えっと、はい」

わたしの返答にセレイユは顔をしかめて、ノアのほうを見る。

「つまり、魔法の実力がないってことですね。ノアール、危機感をしっかり持ちなさい。女の子二人で、王都から来るのは危険です。あなたは幼くても貴族なんですよ。貴族という立場を理解しないといけません。それ以前にエレローラ様とクリフ様はあなたが彼女と二人だけで、ここに来ることをお認めになられているのですか?」

「はい、ユナさんと一緒なら、許してくれました」

「嘘でないのですね?」

「お姉様も知っていますので確認してもらえればと思います」

セレイユは不思議そうな目でわたしを見る。

「ですが、このままにするわけにはいきませんね。ノアール、わたくしのほうで護衛を付けさせていただきますので、家に来てください。このまま1人にさせておくわけにはいきませんので」

セレイユは勝手に話を進める。

それに1人じゃないよ。護衛ならわたしがいるよ。でも、彼女の目にはわたしが護衛に見えないみたいだ。クマの姿じゃないけど、制服姿でも信用は得られないらしい。

「セレイユ様、お気遣いありがとうございます。ですが、護衛は必要ありません。ユナさんは誰よりも強く、誰よりもわたしのことを守ってくださいます」

ノアが信頼の目をわたしに向ける。

もちろん、ノアのことは守る。

「ノアールが彼女のことを信用しているのは分かりました。ですが、わたくしは信用するわけにはいきません。あなたはフォシュローゼ家の娘なんですよ。エレローラ様もどうして、こんな学生である女の子にノアールを任せるようなことを」

クマじゃないのに酷い言われようだ。もし、これがクマの格好だったら、もっと信用は得られなかっただろうね。今以上に酷い言い方をされたかもしれない。

「これはシアにも言わないといけませんね」

なにか面倒くさいことになってきた。

だけど普通に考えたら、彼女の考えが正しい。貴族であるノアの護衛をするのは、学生では力不足だ。

まして、王都から二人で来ていると思っているなら、なおさらだ。

「セレイユ様、ユナさんは本当に強いんです」

「エレローラ様が任せるなら、多少は強いかもしれません。ですが、彼女より強い人が現れたらどうするのですか? 王都から来る間に魔物や盗賊に襲われたら、どうするつもりだったんですか? あなたは自分の身をちゃんと考える立場にいるのですよ。とりあえず、王都までの帰りはシアたちと帰れば大丈夫と思いますから、街にいる間だけでも、わたくしのほうで護衛を付けさせていただきます」

セレイユはハッキリとわたしのことを否定する。だけど、ノアは分からないように首を傾げる。

「ユナさんよりも強い人ですか? そんな人はいないと思います。魔物が来ても、盗賊が来ても、ユナさんは倒してくれます」

ノアは、ミサがオークに襲われているところを、わたしが救っているのを知っているし、盗賊討伐をしたことも知っている。学園祭では、シアのために騎士団長(名前は忘れた)と戦ったことも知っているし、ブラックバイパーのことも知っている。

もしかするとクラーケンのこともクリフから聞いているかもしれない。

そんなノアからしたら、多少強い人や魔物が現れても、守ってくれると信じているのかもしれない。

「それにくまゆるちゃんもくまきゅうちゃんもいます」

ノアはセレイユに聞こえないほどの声で呟く。

「ノアールの言うとおりに彼女がそんなに強いなら、今回のメンバーに選ばれていますよね?」

それは生徒じゃないからね。

でも、制服を着ているので、説得力がない。

クマの着ぐるみを着ていないからトラブルに巻き込まれないと思ったけど、制服姿があだになるとは思わなかった。

「その……」

ノアは困った表情を浮かべる。

どう説明したらいいか困っているようだ。

「魔法じゃなければ、剣の扱いが上手なの?」

このままだとノアに護衛が付くことになる。

流石に、その護衛にノアのことを任せて、わたし一人でぶらぶらするわけにもいかない。

だから、わたしはセレイユの言葉を否定する。

「剣も魔法も使えます。ノアを守るぐらいの力はあります。だから、ノアに護衛は必要ないですよ」

わたしの言葉にセレイユは目を大きくして驚く。わたしが反論するとは思わなかったみたいだ。

セレイユは、わたしのことを見ると、近寄ってくる。

「失礼します。腕を見させてください」

セレイユは、わたしに近寄ってくると、腕を掴むとわたしの袖を捲る。

「この白く柔らかい細い腕では剣は振れないでしょう」

わたしの腕は、白く、筋肉は付いてなく、プヨプヨだ。

「それから、手に嵌めている変なものを取って、手を見せてもらえますか?」

変な物って、クマの手袋だよ。

わたしはとりあえず、逆らうことはしないで、右手の黒クマさんパペットを外して、手を彼女に見せる。彼女はわたしの手のひらをぷにぷにと触る。

「剣を振って、練習をしてきた人の手ではありません」

セレイユは、手を離し、はっきりと言う。

まあ、練習をしたのはゲームの中だし、ゲームの中で練習しても筋肉はつかないし、手に豆もできない。

「今回の魔法の交流会のメンバーに選ばれず、剣も握ったことがないような手で、とてもノアールの護衛が務まるとは思えません」

このセレイユという女の子が悪い人じゃないことは感じ取れる。本当にノアのことを心配している。彼女は善意を押し付けるタイプだ。

だからといって、引き下がるわけにはいかない。わたしとノアの自由のためにも。

それに、わたしに護衛を任せてくれたクリフの面目が潰れる。

「ノアに護衛って言うけど、あなたも貴族なのに護衛がいないみたいだけど」

彼女は一人だ。貴族なのに護衛はいない。

「わたくしのお父様が治める街で危険はありませんから、大丈夫です」

「なら、この街にいる間は大丈夫じゃ」

言っていることが矛盾している。

「ですが、もしものことがあります。もし、わたしの父が治める街でノアールにもしものことがありましたら、エレローラ様とクリフ様にどのように謝罪をすればいいか」

彼女も引き下がらない。

「それじゃ、あなたは自分にもしものことがあった場合はどうするの?」

「わたしは強いので大丈夫です。幼いときから剣を学び、魔法の素養もあり、それなりの実力を持っています。今回の魔法の交流会のメンバーにも選ばれています。あなたと一緒にしないでください」

「それじゃ、あなたに勝つことができれば、ノアの護衛として認めてくれるってことだよね?」

「わたしに勝つなんてありえませんが、そういうことになりますね」

「それじゃ、ちょっと勝負しようか。それでわたしが勝ったら、この件については、口を出さないでもらえる?」

わたしの申し出に、彼女は一瞬驚いた表情をしたけど、微笑む。

「ふふ、いいでしょう。自分の実力を知るのもいいことです。わたくしが勝ったら、ノアールには護衛を付けさせていただきます」

「いいよ。わたしが勝ったら、約束は守ってもらうよ」

そんなわけで、少し面倒くさいことになったけど、セレイユと勝負することになった。