軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

508 クマさん、ユーファリアの街を散策をする

部屋は普通の宿屋よりも広く、ゆったりとしている。

ベッドも普通の宿屋にあるものよりも大きく、二人で寝ても大丈夫そうなベッドが二つある。他にも置いてあるテーブルや椅子も高そうだ。さらに部屋にはドアがあり、隣部屋があるみたいだ。

ノアは宿が珍しいのか、部屋の探索を始める。

「ユナさん、お風呂がありますよ」

ノアが部屋の中にあるドアを開けている。どうやら、隣部屋と思ったドアはお風呂だったみたいだ。

和の国の旅館にもお風呂はあったけど、さすがお高いだけのことはある。

わたしはベッドに腰かけ、子熊化したくまゆるとくまきゅうを召喚して一休みする。

危険はないと思うけど、くまゆるとくまきゅうは保険だ。人は休んでいるときほど、無防備なことはない。それにユーファリアの街まで走ってくれたくまゆるとくまきゅうを労わないといけない。

わたしはくまゆるとくまきゅうを左右に抱えて、お礼をしているとノアがやってくる。

「ああ、ユナさん、ズルいです」

部屋の中を一通り見たノアはわたしの横に座り、くまゆるを抱きかかえる。そして、わたしと同じようにくまゆるとくまきゅうにお礼を言う。

「ユナさん、明日は街を散策するんですよね」

「うん、シアと約束している時間まで、余裕があるからね」

シアは予定では、すでにユーファリアの街に来ている。でも、学園の関係ですぐには会えないようだ。それで、ユーファリアの学園の前で待ち合わせをすることになっている。

「それじゃ、お姉様に会うまで、街の散策ですね。楽しみです」

「そうだね。湖は行ってみたいね」

「はい」

ノアと明日のことで話をしていると、くまゆるとくまきゅうが顔を上げると「「くぅ~ん」」と鳴く。それと同時にドアがノックされる。

「食事をお持ちしました」

くまゆるとくまきゅうには隠れてもらい、わたしはドアを開ける。ドアから台車に食事を乗せた女性が入ってくる。

「温かいうちにお召し上がりください。食事がお済みになられましたら、扉の前に置いてください。後ほど回収に参ります」

それだけ言うと、女性は下がっていく。

「美味しそうです」

「それじゃ、温かいうちに食べよう」

わたしたちは料理を食べ、お風呂に入り、ベッドに横になる。ノアのベッドには子熊化したくまゆるが寝て、わたしのベッドには子熊化したくまきゅうが丸くなっている。

「そういえば、昨日はユナさんの話を聞いている途中で寝てしまったんですよね」

ノアが昨日の夜のことを思い出したようだ。ノアは寝る前の記憶をたどり、その続きから話をしてほしいと頼まれ、わたしはエルフの村の話をしてあげることにした。

今回は眠る前に全てを話し終えることができた。

翌朝、食事をすると、出かける準備をする。

さて、どうしよう。

今、わたしは悩んでいる。久しぶりに悩んでいる。もう一度言おう、わたしは悩んでいる。

「ユナさん、どうかしたんですか? お出かけしないんですか?」

悩んでいるわたしを見て、ノアが声をかけてくる。

「うん、出掛けるけど……」

「なにか、考えているようでしたが」

「うん、まあ。今日、学園の前でシアに会うことになっているでしょう?」

「はい。それまでは時間があるので、街の散策に行くんですよね?」

「そうなんだけど。実はシアに会うときは制服を着てほしいってお願いされたの。学園生なら、学園の中にも入りやすいからって」

シアに帰り際に言われた。

あのときは困ったが、ユーファリアの学園の中にクマの格好では入れないと思って、頷いてしまった。

学園でも着たから、大丈夫かと思ったけど、いざ、着替えようと思うと躊躇してしまった。

「それで、悩んでいたんですか?」

「うん」

「わたし、クマの格好したユナさんも可愛いと思いますが、制服姿も似合っていると思いますよ」

ノアは恥ずかしがることもなく、ハッキリと言う。

「それに、ここはクリモニアや王都ではないので、制服のほうがいいかもしれません」

確かに、昨日も宿屋に来る間、見られていた。

「何かあったら、クリモニアならお父様が、王都ならお母様が助けてくれますが、ここだと」

確かにノアの言う通りだ。

クリモニアや王都、エルフの村や和の国のように知り合いはいない。

わたし一人なら気にすることもないけど、今回はノアも一緒だ。下手に目立って、ノアを巻き込むことはしたくない。クマの格好は身を守るには最適だけど、トラブルを誘い込む原因にもなる。

わたしは悩んだ結果。今回はわたしだけの問題じゃないので、制服に着替えることにした。

それにクマ靴とクマさんパペットがあれば、いきなり襲われない限りは対処できる。

「ユナさん、似合っていますよ。でも、足と手がクマさんのままなんですね」

ノアが、わたしの足元を見て手を見る。これだけは外せない。

「手袋はアイテム袋になっているからね」

あと、心の中で、くまゆるとくまきゅうが召喚できないからと付け足しておく。

「この靴も魔道具の一種だから、いざとなったら、速く動けるし、ノアの護衛でもあるからね」

「街の中なら、そんなに危険なことはないから大丈夫ですよ」

「それは分からないでしょう。ノアが可愛くて、近寄ってくる男がいるかもしれないでしょう?」

「それを言ったら、わたしでなく、ユナさんに近寄ってくると思います」

わたし?

それこそ、ありえないことだ。

元の世界を含め、この世界に来てからも、男性に声をかけられたことは一度もない。

まあ、元の世界じゃ、ろくに学校にも行かずに引きこもっていたし、こっちの世界じゃ、クマだったから仕方ない。それを差し引いたとしても、わたしに声をかけてくるとは思えない。

かけてくる場合は喧嘩ぐらいだ。

制服に着替えたわたしとノアは、シアとの待ち合わせの時間まで、街の散策に行く。

制服に着替えたのはいいけど、足元がスースーして落ち着かない。太ももあたりが涼しい。

クマの着ぐるみは温度調整をしてくれて、気温は気にしなかったけど、腕や太ももに風が吹き付けると気になる。

「やっぱり、いつもの格好に戻っていい?」

「ダメです。ユナさん、行きますよ」

ノアはわたしの手を掴むと歩き出す。

「そんなに引っ張らなくても、行くよ」

なんだろう。クマの着ぐるみの格好で歩くより、制服姿で歩くほうが恥ずかしく感じるのはなんでだろう?

制服の格好のほうが一般的なはずなのに。やっぱり、着なれない服は恥ずかしい。

漫画に出てくる女の子が着なれない服を着るシーンで恥ずかしがることがあるけど、今のわたしはそんな気分だ。

でも、いつまでも気にしても仕方ないので、気持ちを入れ替える。

「それじゃ、どこに行こうか?」

「湖は見に行きたいです。あとは適当に歩いて街並みを見るぐらいですね」

クリフからも見るように言われている。

「でも、お店とかも見てみたいです」

「それじゃ、適当に湖に向けて歩こうか」

「はい」

わたしたちは湖に向けて歩き出す。

「クリモニアとは違いますね」

「それに人も多いね」

湖に向かう道は大きく、馬車が行き来している。道沿いにある建物は大きいものが多い。王都も大きな道沿いにある建物は大きい。クリモニアも大きな街だけど、ユーファリアの街のほうが人の通りが多い。

「人が多いのはユーファリアの街を中心に町や村がいくつかあるからだと思います。ユーファリアの街は流通の通り道にもなっているからだと思います」

「来たことがないのに、詳しいね」

「地理の勉強はしていますから、そのぐらいは知っていますよ。でも、最近ではクリモニアも負けていませんよ。ミリーラの町と繋がったおかげで、人の通りも増えています。その分、お父様が大変なことになっていますが」

「ごめんね」

「ユナさんは悪くありませんよ。それに今は落ち着いてきたって言っていますから、大丈夫ですよ。街に人が集まるってことは、それだけお金を落とすってことです。ユナさんに感謝することがあっても、謝罪されることではないです」

流石、幼くても領主の娘だね。

「ただ、人が増えれば、悪い人も増えるから、困るとも言っていました。でも、それを対処するのが領主の仕事であり、お父様の仕事です」

ノアが眩しく見える。

わたしが10歳のときを思い出す。ゲーム機とパソコンで遊んでいた記憶しかない。

ただ、祖父から株の勉強を教わり始めた頃だったかもしれない。

わたしたちは街並みを見て、面白そうなお店があったら覗く。

ノアは楽しそうだ。わたしも人の目を向けられることもないけど、落ち着かない。

いきなり、背中から襲われることはないと思うけど、防御力が0なのは不安なものだ。

子熊化したくまゆるかくまきゅうを召喚しようかとも考えたが、目立ちそうなのでやめる。それだと、制服に着替えた意味がなくなる。

「ユナさん、湖です。湖が見えます!」

ノアは駆けだす。

わたしは歩きながら、その後を追う。

「ユナさん、大きいですよ」

ノアの言うとおり、湖は大きい。

そして、湖の中心に島があり、その島に向かって橋があり、大きな建物が見える。

「あれがユーファリアの学園ですね」

シアから湖の中心にある島に学園があるとは聞いていたけど、あれがそうみたいだ。

シアとは、橋を渡ったところで待ち合わせの約束をしている。でも、待ち合わせには、まだ時間はある。

「湖の周囲を歩こうか?」

「はい!」

ノアは返事をすると、元気に駆け出す。

ノアが楽しそうで、連れてきてあげてよかった。

あとは、シアが活躍するところを見ることができれば、最高の思い出になる。

わたしが制服姿になってまで来たんだから、シアには頑張ってもらわないといけないね。

シアに会ったら、発破をかけよう。