軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

510 クマさん、ユーファリアの学園にやってくる

「はぁ」

ため息が出る。

クマの格好ではないのに面倒事になるとは思わなかった。これがクマの格好なら、いつものことだと思って諦めがつくけど。もう、トラブルに巻き込まれる星の下に生まれてきたとしか思えない。

「それで、どこで勝負する?」

流石に人がいるここでするわけにはいかない。

「そうですね。わたしが勝ったら護衛をつけるので、わたしの家でも構わないのですが、シアに一言言いたいので、学園のほうにいたしましょう。学園なら広いですし、他に迷惑も掛からないでしょう。あちらのほうに橋がありますから、橋を渡って学園に行きましょう」

すでに勝った気でいるようだ。

まあ、魔法の交流会のメンバーに選ばれていないし、二の腕や手のひらはぷにぷにと柔らかいので、剣の練習をしたこともないと思われているから仕方ない。

「ユナさん、行きましょう」

ノアはわたしのクマさんパペットを掴むと歩き出す。そんなノアに尋ねる。

「ノアは彼女と知り合いだったんだね」

「はい。何度かお会いしています。前回の国王陛下の誕生祭のときにもお会いしました。そのときは綺麗なドレスを着ていましたので、すぐに気づきませんでした」

人は服装や髪形で印象が変わり、本人とは分からないものだ。わたしだってクマの着ぐるみを脱げば、あまり会ったこともない人なら気付かれない。

「そういえば、国王陛下の晩餐会に出されたプリンを美味しそうに食べていましたよ」

プリンを食べたこともあるんだね。

あのときは国王にいきなりプリンを作れって言われて、一人で作った懐かしい思い出だ。

「それで彼女は強いの?」

「ごめんなさい。わたしも詳しくは知りません。あまりお会いすることはないので、そのような話もすることもないので」

ノアは申し訳なさそうにする。

年齢も離れているし、会う回数が少なければ知らないのも仕方ない。

「気にしないでいいよ。わたしが勝てばいいだけなんだから」

「あら、凄い自信ですね。わたしも負けるつもりはないですよ」

わたしたちの話を聞いていたのか、前を歩くセレイユが振り向く。セレイユは自信に満ちた表情で言う。

でも、彼女がそれだけの自信を持っているってことは、幼いときから練習しているからこそなのだろう。

そんな彼女に対して、神様からもらった力で勝たないといけないと思うと、少しだけ罪悪感がわく。

だから、せめて勝負はゲームの中で身に付けた剣で勝負しようと思う。もっとも、クマさんパペットがないと重い剣は持てないから、全てがわたしの力ではないけど、魔法よりはいいかと思う。

「そういえばセレイユ様はどうしてあそこにいたのですか? 学園のほうはいいのですか?」

「本日の授業が終わりましたので、歩いていただけですよ。そしたら、あなたにぶつかったの」

「うぅ、申し訳ありません」

「もういいですよ。あなたにも会えたのですから」

「でも、セレイユ様は今回の魔法の交流会に選ばれているんですよね。魔法の練習とかしないのですか?」

「学園の練習する場所は王都から来た生徒に開放していますので、わたしたち学園の生徒は練習してません。慣れた場所でわたしたちが当日まで練習をするのはフェアではないでしょう」

確かにホームグラウンドとアウェイでは、やっぱりホームグラウンドで行う学校のほうが有利だ。

どのスポーツでもホームグラウンドでやるほうが勝率は高い。そう考えると公平な考えかもしれない。

「それでは、今頃お姉さまは練習をしているのですね」

「ええ、練習しているはずよ」

だから学園の関係ですぐに会えないと言っていたんだね。みんなが練習しているなか、抜け出して、わたしたちに会いに来ることはできない。

でも、予定の時間より早くシアに会えそうだ。

わたしたちは橋までやってくる。

橋は湖の中にある島に伸びている。

「結構、長いね」

湖の島に続く橋は長く、その先には大きな建物が見える。

あれが学園みたいだ。

「島にあるのは学園だけ?」

「いえ、一部は観光に開放していますので、他の建物もあります」

わたしの問いにセレイユは素直に教えてくれる。

ノアは早くシアに会いたいのか、橋に向かって駆け出す。

だから、一人で行くと危ないよ。さっきはそれで躓いてセレイユにぶつかったんだから。

わたしとセレイユはノアの後を追いかける。

わたしたちは橋を渡りきる。

長かった。

クマの靴がなかったら、歩きたくないね。毎日この橋を渡っている生徒は偉い。

でも、坂道がない分歩きやすく、心地よい風も吹いていた。逆に言えば、冬は寒いかもしれない。

橋を渡り、しばらく歩くと、学園の前までやってくる。

王都にある学園に引けを取らない大きさだ。

「でも、湖の中心に建てるなんて、格好いいね」

まるで、ゲームや漫画の世界だ。

「学園を建てることになったとき、湖の周辺には建物があって、街の外れぐらいしか場所がなかったそうです。それだと、反対側に住む生徒は遠くなるってことで、湖にある島に作られることになったそうです。橋も四本作られ、どの地域に住んでいる学生でも、学園に通いやすくなっています」

セレイユは学園の成り立ちを教えてくれる。

彼女は悪い子じゃない。ノアを見れば嫌っている様子はない。会話も普通にしている。話した感じ、嫌いじゃない。ただ、真面目で面倒くさそうな女の子で、適当に生きてきたわたしとは相性が悪い。

「まずはシアのところに行きましょう。ノアールも会いたいでしょう」

「はい、お姉様に会いたいです」

ノアは久しぶりにシアに会えると嬉しそうにしている。もしかして、人前で試合することになるの?

それはそれで困るんだけど。

そんなことを口にすることもできず、わたしたちはシアたち学生が練習するグラウンドまでやってくる。

グラウンドには、わたしと同じ制服を着た10人ほどの生徒が魔法を放っている姿がある。

「お姉様です」

ノアが指差す先には、金色のツインテールをしたシアの姿があった。

「こっちのグラウンドにいたようで良かったわ」

「セレイユ様、行ってもいいですか?」

「他の生徒の練習の邪魔をしたくありませんから、シアだけ呼びましょう。少しだけ、待っていてください」

セレイユはここで待つように言うと、シアのところに向かう。そして、シアと話をすると、シアがこっちを見る。シアは先生らしき人物に話しかけると、わたしたちのところにやってくる。

「ユナさん、ノアを連れて来てくれたんですね。ありがとうございます」

「お姉様、誘ってくださってありがとうございます」

「お礼なら、ユナさんに言って。ユナさんが連れてきてくれるって言ってくれたんだから」

「そうだったんですか。てっきり、お姉様がユナさんにお願いしてくれたんだと思っていました」

「それにしても、どうして、セレイユと一緒に?」

「そのことで、シアに言いたいことがありまして、二人を連れてきました」

シアの後ろからやってきたセレイユがシアに話しかける。

「どうして、ご自分の妹をこのような学生に任せて、護衛も付けさせずに王都から、来させたんですか? 危険だとは思わなかったんですか?」

「護衛なら、ユナさんがいるけど」

シアはわたしを見る。

「あなたもですか。どうして、このような学生の女の子をそこまで信用しているのですか。街の中ならともかく、王都からユーファリアの街までどのくらいの距離があると思っているのですか。もし、魔物や盗賊に襲われていたら、どうするつもりだったんですか?」

「その場合は護衛であるユナさんが守ってくれると思うけど」

シアとセレイユのわたしへの評価が180度違うみたいだ。

「シアも彼女のことを信用しているようですね。それほどまでに彼女が信用がおけるほど強いのですか?」

「わたしが知っている人で、ユナさんほど信用がおけて、強い人はいないよ」

シアはハッキリと言う。

「わかりました。そこまで言うのでしたら、シアにも立会人になってもらいましょう。わたしが彼女と試合をします。もし、わたしが勝ったら、この街にいる間はノアールには護衛を付けさせてもらいます。そして、帰るときはシアたちと共に帰っていただきます」

「えっと、いったいどういうこと?」

状況が分からないシアは、説明を求めるように、わたしとノアに顔を向ける。

わたしとノアは簡単に説明する。

「ああ、ユナさんがノアの護衛って認められなかったってことですね」

やっと、納得したようだ。

「シアからもなにか言ってよ」

「無理じゃないですか?」

シアは、断固として自分の意見を曲げようとしないセレイユを見ながら言う。

やっぱり、こういう性格なんだね。諦めて勝負をするしかないみたいだ。

「それでは、ユナでしたね。あなたの実力を見させていただきます。魔法と剣、どちらがいいですか? あなたに選ばせてさしあげます」

「それじゃ、剣で」

前もって考えていたとおりに、勝負は剣にする。そのほうが、勝つにしろ、罪悪感は魔法を使うより少ない。

「分かりました。剣ですね。練習用の剣はお持ちですか? ないようでしたら、こちらで用意しますが。練習用とはいえ、使い慣れたものがいいでしょう」

練習用の剣? 少し考える。

昔に拾った木の棒? いまだに捨てずにクマボックスに入っている。あとは新人冒険者に教えたときに使った木で作った木刀もどきがある。(290.5話の新人冒険者に剣を教える話が書籍にあります)

わたしは木刀を取り出す。

「木の棒ですか」

「普通の剣よりは安全でしょう」

刃がない練習用の鉄の剣とかがある。でも、鉄でできているのは変わりない。

「いいでしょう。よろしければ、もう一つお持ちでしたら、わたしにも貸してくださいませんか?」

わたしは、もう一本の木刀をクマボックスから取り出し、セレイユに渡す。

「その変な顔の手袋はアイテム袋になっているのですね」

「クマだよ」

わたしはセレイユに向かってクマさんパペットをパクパクさせてみせる。

「あなた、靴といい。変わっていますね」

どうやら、靴のことも気づかれていたらしい。

「では、邪魔にならないように、端のほうを貸していただきましょう」

「もしかして、ここでやるの?」

「なにか問題でもありますか?」

問題はあるよ。シアはともかく、他の学生がいるよ。

「ほら、貴族であるあなたが負けたら、立場上問題があるのかと」

「わたしの心配はいりません。負けたとしても恥ずかしがることではありません。それにわたしは負けるつもりはありません」

これは目立たないように勝たないといけないかも。