軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

443 クマさん、戦いを見守る

人通りのない道でシノブと男の戦いが始まった。

シノブは駆け出す。それと同時にクナイを投げる。男は体を横に少しだけずらしてクナイをかわす。その短い動作の間にシノブは男との距離を詰め、左手で持つ小刀を男に向けて振るう。男は軽々と避け、刀をシノブに向けて振るう。シノブは体重を左に寄せてかわし、男の左、左と移動しながら、攻撃を仕掛ける。

どうやら男の眼帯をしている左側から攻めるらしい。シノブは男の左側に動きながら攻撃を仕掛ける。

「もしかして、死角から攻撃をしているつもりですか?」

「弱点は突くもんっすからね」

「卑怯な戦いはしないのではなかったのですか?」

「これは戦術っす」

会話をしながらもお互いに小刀、刀を振るう。二人の刀は空を切る。

リーチが短いシノブが不利だが、死角を利用し、速い動きで互角の戦いをしている。男は死角になっているはずなのにシノブの小刀をかわしている。

お互いの攻防が続く。

凄い。

お互いにどんな攻撃が来るか分かっているように紙一重でかわしている。

男はシノブの小刀をかわすと、大きく横一線に刀を振るう。シノブは後方にジャンプをしてかわす。

「ふぅ」

男は息を吐くと楽しそうに笑う。

「さすが、あの男の娘と言うべきか、お強いですね」

そう言うが、男のほうは余裕が見える。シノブのほうは余裕がみえない。

死角があるとはいえ、接近戦では男のほうが分があるようだ。

「魔法を使わないのは、馬鹿にしているからっすか?」

「こんな場所で使えば、周りに迷惑になるでしょう。そう言うあなたも使わないでしょう」

左右は木造の家が並んでいる。相手は風の魔法を使うと言っていたけど、シノブは魔法は使えるのだろうか。これは武士や侍の戦いではない。この世界では武器を扱う技術を凌駕する魔法がある。魔法だけで、剣術を超えることもできる。

ただ、魔法はイメージが必要になるため、その一瞬の思考が弱点になる。体に染み込ませた技術のほうが魔法の発動より速い。

接近戦の戦いの中、魔法を使うのは難しい。だから、魔法使いは後方で使う。

それに相手が周囲を気にしないで魔法を使い始めたら、シノブが不利だし、シノブが魔法を使えないようだったら、それでも不利だ。たとえ、使えたとしても周囲を気にして、強い魔法は使えない。

「そんなことはないっすよ」

シノブの小刀を持つ右手に風が渦巻く。

「周りに迷惑がかからないように、使えばいいだけっす」

シノブは速い動きで、男との間合いを詰める。再度、男の死角の左側からだ。シノブは小刀を横に振るう。

その距離では小刀は届かない。でも、小刀から風の刃が飛び出す。だが、その風の攻撃さえも男は刀で切り捨てる。シノブはさらに踏み込み距離を縮め、振った腕を引き戻し、そのまま男に向かって振るう。男は刀で弾く。弾かれた勢いでシノブはバランスを崩す。そこに男の足蹴りがシノブを襲う。

シノブは蹴り飛ばされ、後方に大きく下がる。

「シノブ!」

「大丈夫っす」

どうやら、自分で後方にジャンプして逃げたみたいだ。

あそこで足がでるって、シノブより、男のほうが周りが見えている。それだけ、余裕があるってことだ。

男がシノブの父親を殺した真意は分からないままだけど、このままではシノブが負けるのは濃厚だ。

わたしが代わるべきか。

「強いっすね」

シノブは小さく息を吐き、呼吸を整える。

「代わろっか?」

今のシノブを見れば、代わる気がないのは分かる。でも、確認してみる。

「大丈夫っす。ユナはわたしたちの戦いを見て、男の動きを覚えてほしいっす」

それって、自分たちの戦いを見て、男の戦い方を覚えて、戦いに備えろってこと?

それだと自分が勝てると思っていないって意味になる。

「でも、本当にヤバイときは、聞き入れなさいよ」

シノブはわたしの言葉に肯定も否定もせずに笑う。そして、手に持っている小刀を握りしめると男に向かって駆け出す。

シノブは魔法を使いながら攻撃を仕掛けるが、男はかわす。シノブは攻撃の数を増やす。これならと思いたいが、男は未だに魔法は使っていない。それに、たまに頬を上げて、笑っているようにもみえる。

さらにシノブの動きが速くなる。男を追い詰めていく。徐々にシノブの速さが男を凌駕する。シノブの風刃と小刀が男を襲う。

追い詰めた。

と思った瞬間、男の刀の速度が増し、シノブの攻撃を弾く。シノブの攻撃が止まり、男は大きく後ろに下がって距離を取る。

「思ったより、強いですね。これは少し、本気を出さないといけないようですね」

「魔法を使うっすか」

「いえ、こうするだけです」

男はそう言うと、左目に手をかけ眼帯を取る。眼帯の下から閉じられた目が現れる。傷があるのかと持ったら、傷一つない。そして、閉じていた左目が開く。

「もしかして、見えるっすか?」

「ええ、ハッキリとあなたが見えますよ」

「馬鹿にしていたっすか?」

「いえ、自分を縛っていただけですよ。でも、あなたの強さに敬意を払ったから、取っただけです」

つまり、魔法を使わないハンデをして、目を片方使わないハンデを自ら課していたことになる。

男は両目を開くと刀を構える。シノブは小さな風の刃を放ちながら、男に向かって駆け出す。男の動きが速くなる。シノブの攻撃を軽々とかわしていく。シノブはさらにクナイを投げ込む。男は刀で弾き、さらに刀を一閃する。

両目になった男に死角はなくなり、シノブが有利に戦うことができなくなった。

シノブは避けることができず、小刀で受ける回数が増えていく。攻撃の重さ、攻撃の力、攻撃の速度、全てにおいて男のほうが勝っている。

シノブはそれでも距離をとって、風魔法を使って応戦するが、周りを気にして威力を抑えているためか、男には命中しない。

さらに足の動きが遅くなっている気がする。シノブは動き回っているが、男はシノブの攻撃をいなしているだけだから、シノブより体を動かす量は少ない。

「くっ」

シノブの足が鈍り、攻めきれずに後方に下がる。

「もう、限界のようですね。終わりにします」

男が腰を落とし、刀を突き出すように構える。

あれは!?

「シノブ! 逃げて!」

わたしが叫んだ瞬間、男は踏み込む。シノブとの間合いが一気につまる。

速い。

シノブはクナイを投げながら、後方に逃げる。男は突きでクナイを弾き飛ばす。そこで、攻撃が止まるかと思ったが、止まらない。男は腕を引き、再度、刀を突き出す。

シノブは小刀で防ぐ。それでも、男の勢いは止まらない。さらに腕を引き、突き出す。

三段突き?

男の刀がシノブを襲い、シノブの体が地面に転がる。

「シノブ!」

わたしが駆け寄ろうとすると、シノブの体が動く。そして、震える腕で地面を支え、起き上がろうとする。

「だ、大丈夫っす」

シノブはフラフラとお腹を押さえながら立ち上がる。

「本当に大丈夫なの?」

シノブはお腹の部分の服をめくる。

鎖かたびら?

「ミスリル製っす。あと、後方に飛んで、どうにか直撃は避けたっす」

わたしは安堵する。

良かった。突き刺さったかと思った。

「あの突きをかわしますか。それで、まだ戦いますか?」

「もちろんっす」

「それでは、次は貫きます」

男は追い打ちをかけるように、突きの構えをする。シノブは力が入らない手で小刀を構える。それと同時にわたしは動く。

男は突きの構えから、踏み込む。シノブとの距離が一瞬で詰まる。わたしは2人の間に入り、くまゆるナイフで男の刀を大きく弾く。

大きく弾き、三段突きはさせない。

わたしはシノブを守るようにシノブの前に立つと、男は距離を取って離れる。

「ユナ?」

「交代だよ」

男がシノブの父親を殺した理由は分からない。男がどんな男かも分からない。

ただの戦闘狂なのかもしれない。

もしかして、シノブの父親もそうだったのかもしれない。

お互いに戦いたかったから、戦ったかもしれない。それで亡くなったのかもしれない。どんな理由があるにしても、1つだけわかることがある。

「シノブが殺されるところは見たくないから、わたしと交代だよ。ここからはわたしが相手をするよ」

わたしは苦しそうにしているシノブに向かって言う。

この男を倒せば全てが分かる。このモヤモヤした気持ちもスッキリするはずだ。

「……ユナ、強いっすよ」

「見ていたから、分かるよ」

この強さに、さらに魔法って切り札を持っている。

シノブが魔法の制限が掛かっているとはいえ、魔法を使っても倒せなかった。

相手はそれさえも制限して戦った。

「シノブはゆっくり、休んでいて」

わたしはシノブを下がらせ、男に対峙する。男はわたしとシノブが会話をしている間も、攻撃を仕掛けてこないで待っている。

「悪いけど、ここからはわたしが相手になるよ。わたしの見た目に油断しても、後悔しないでよ」

「しませんよ。わたしたちの間に入ってくる速度。わたしの突きを正確に弾く技術。なにより、わたしの刀に恐れずに入ってこられる女の子が、普通の女の子のわけがないでしょう」

どうやら、クマの格好に騙されて、手を抜いてくれるってことはなさそうだ。

残念のような、嬉しいような。

「なら、眼帯したり、魔法を温存したりして、舐めているうちに倒させてもらうよ」

わたしはくまゆるナイフを男に向けて宣言する。

「なら、こちらも手加減はしません。だから、死んでも知らないですよ」

男は刀を構える。

「死ぬ気はないけど、わたしが勝ったら、全てを話してもらうよ」

「いいですよ。わたしに勝てたら、なんでも話してあげます」

「約束したよ」

わたしもくまゆるナイフを構える。