軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

438 クマさん、和牛を食べる

わたしは村の近くに戻ってくると、くまきゅうには戻ってもらう。

「くまきゅう、ごめんね。帰ったら、一緒にいてあげるからね」

「くぅ~ん」

くまきゅうは少し悲しそうにするが、頭を撫でてから送還する。

「かわいそうっす。くまきゅう、悲しそうにしていたっす」

「そうだけど、クマが増えたら驚くからね」

「そうっすけど」

「だから、早く報告して帰るよ」

早く旅館に戻って、くまきゅうと一緒に温泉に入って、夜も一緒に寝てあげよう。

わたしたちが村に戻って来ると、数人の男性が待っている姿があった。

「よかった。無事に戻ってきたぞ」

「本当にクマがいるぞ。それに本当にクマの格好している」

「このクマの格好した女の子がかまいたちを倒しに?」

男性たちの視線がクマの格好をしているわたしとくまゆるに集まる。

まあ、どこでも反応は一緒だね。

わたしの横では「わたしもいるっすよ」とシノブが小さな声で呟いている。

「それで、嬢ちゃんたち。かまいたちは?」

「倒してきたっすよ」

それを証明するために、わたしたちはそれぞれのアイテム袋から、討伐してきたかまいたちを取り出す。そのほとんどがわたしとくまゆる、くまきゅうが倒したかまいたちだ。

かまいたちを見た男性たちは、驚いたようにわたしたちとかまいたちを見比べる。

シノブもそうだけど、わたしみたいな女の子に倒せるとは思っていなかったかもしれない。

「本当にかまいたちが倒されている」

「これで、安心して暮らせる」

「嬢ちゃんたちは凄いな」

「だから、かまいたちを倒すところは見たから、大丈夫だと言っただろう」

冒険者ギルドに来たイツキさんが少し自慢げに他の男性たちに対して言う。

「なに言ってやがる。お前だって、昨日、変なクマの格好した女の子に頼んでしまった。とか言っていただろう」

「そうだが、そのあとに冒険者ギルドから、別の冒険者を紹介されたから、大丈夫だって言っただろう」

「でも、それだって女の子を1人だけ紹介されて、不安そうにしていただろう」

やっぱり、女性の冒険者は不安になるのかな?

その前に年齢のせいもあるかも。わたしもシノブも他の冒険者に比べると若い。もう少し成長すれば違ったのかもしれない。

「ほとんどのかまいたちはユナが倒したから、わたしが来なくても大丈夫だったっすよ」

その言葉に男性たちの表情がさらに驚く。もしかすると、シノブが倒したと思っていたのかもしれない。

もちろん、わたし1人でも倒すことはできた。でも、シノブから銀色のかまいたちの話を聞いていなかったら、簡単には倒せなかった。情報があるとないとでは、その差は大きい。

ゲーム攻略サイトを見ると見ないとでは、差があるのと同じことだ。

「これで牛や動物たちが襲われることがないんだな」

村人たちは嬉しそうにしている。

でも、わたしには一つ気になることがある。

「喜んでいるところ悪いけど。倒したのは村の周囲にいるかまいたちだけだよ。まだ森の奥から来るかもしれないよ」

「それは経験上ないっすよ。かまいたちは群れで動くっす。これだけの群れがまとまっていたから、全部倒したと思って問題ないっす。それにくまゆるが確認してくれたっすよね?」

シノブが確認するようにわたしとくまゆるを見る。

「うん、あの辺りには一匹もいないよ」

わたしがくまゆるの代わりに答える。

「くまゆるが保証してくれるなら、余計に大丈夫ってことっす」

どうやら、わたしたちが去ったあとのことの心配はしないでいいみたいだ。

男性の1人がかまいたちを見ている。そして、表情を変える。

「これは銀色のかまいたち?」

「本当だ。三匹もいるぞ」

男性たちは驚いたように銀色のかまいたちを見る。

「わたしとユナとこのくまゆるが倒したっすよ」

「クマが?」

男性たちが驚くが、そのクマってどっちのクマで驚いたのかな? クマは2人いるよ。

「倒すのに苦労したっすよ。動きは速いっすし、服は切られるし」

シノブは切れた腕の部分を見せる。切れている箇所は腕の部分やお腹の場所が切れている。さすがにお腹の部分は隠している。さっき見たとき、わたしのお腹と違って、引き締まっていた。

わたしも運動したほうがいいかなと、いつも思うけど、面倒でやらないのがわたしだ。

「怪我は!?」

男性が心配そうに尋ねる。

「大丈夫っす。服だけっすよ。追加料金が欲しいなんて思っていないっすよ」

いや、それは言っているよね。

シノブは切られた服と村人を見る。

「……追加の金額を払わさせていただきます」

男性の言葉にシノブは嬉しそうにする。

まあ、冒険者なら、それが普通なのかな?

予定と違う魔物を倒したなら、それに見合う追加報酬があってもおかしくない。

「そっちのクマの格好した嬢ちゃんは大丈夫なのか?」

「わたしも大丈夫だよ」

「そっちのクマも凄いな。銀色のかまいたちを倒すなんて」

「それだけじゃないっすよ。くまゆるはかまいたちの居場所が分かるっす。だから、隠れているかまいたちも倒すことができたっすよ」

なぜか、シノブがくまゆるのことを自慢するように説明する。

実際にわたしのくまゆるは凄いけど。

「それで銀色のかまいたちと戦ったせいで、木の一部が倒れちゃったんだけど」

わたしは森の惨状を説明する。数本の木を伐ってしまったことを。

「それなら、村で使わせてもらうから大丈夫だ」

どうやら、木は無駄にはならないようでよかった。

「それで魔物と戦って疲れているだろう。部屋も用意したから、休んでいってくれ」

「そうっすか? それじゃ、ありがたく休ませてもらうっす」

シノブは男性の厚意を受け取る。

「それじゃ、わたしは先に帰るね」

「えっ、休んでいかないっすか?」

「疲れていないしね」

それに休むなら、温泉付きの旅館のほうがいい。畳の上でくまゆるとくまきゅうと一緒にゴロゴロしたい。

「そんなことを言わず、昼食も用意するので」

「この村の牛の肉は美味しいっすよ」

もしかして、和の国だから、和牛?

わたしの心が揺れる。

クリモニアでも牛の肉は食べられる。でも、美味しい肉といわれると、食べたくなるのが心情だ。

食べたいけど、牛を見たあとに食べるのは……と、思ったけど、今更だ。

ウルフの肉も食べたし、孤児院で育てている鳥も食べているし、肉を捌くところだって見ている。昔のわたしなら、断ったかもしれないけど、異世界に来て、心も強くなったみたいだ。まあ、未だに解体はできないけど。

いろいろと考えた結果、ご馳走になることにした。

わたしたちは家に案内される。

シノブが先頭を歩き、わたし、くまゆると続く。

家の入り口にやってくると、男性が少し言い難そうに口を開く。

「あのう、そのクマは……」

「くぅ~ん?」

どっちのクマかと思ったら、くまゆるのことを見ている。

くまゆるが「なに?」って感じで首を少し傾ける。

「できれば、外にいてほしいんだが」

「ダメなの?」

「大きいので」

外に待ってもらうか、くまきゅうと同じように送還させるべきか。それとも、やっぱり断って帰るべきか。わたしが悩んでいると横にいるシノブが口を開く。

「そのクマもかまいたちを倒すのに貢献したっすよ。かまいたちを見逃さずに全て倒すことができたのも、銀色のかまいたちを倒したのも、くまゆるっす。そんなくまゆるだけ外にいろって言うっすか」

まあ、動物だし、クマだし、そのあたりは仕方ないかも。

でも、男性はシノブの言葉にくまゆるを見てから、考え、唸って、「わかった。そのクマも一緒で」と口を開いた。

「くまゆる、よかったすね。一緒に肉を食べましょう」

シノブはくまゆるの頭を撫でる。

「くぅ~ん」

くまゆるは嬉しそうにする。

くまゆるがシノブになつき始めている。

もしかして、忍術? クノイチは色仕掛けで情報を引き出すって聞いたことがある。

くまゆるから情報を引き出そうとしている? なんて、バカなことを考えたけど、くまゆるの言葉が分かるわけがない。普通にくまゆるのことが気にいっているだけみたいだ。くまゆるを撫でる表情が幸せそうになっている。

そして、わたしはくまゆると一緒に部屋の中に入る。

「それじゃ、少し待っててくれ」

男性は部屋から出ていく。

「楽しみっす」

「くぅ~ん」

くまゆるも嬉しそうにしている。

「それで、シノブはなんで、今回の依頼に付いてきたの?」

部屋にくまゆるはいるけど、2人っきりになったので、シノブに尋ねてみる。

「なんのことっすか?」

「どうして、今回の依頼を受けたかってことだよ」

「それは、ユナだけじゃ断られるかと思ったからっすよ」

「別にわたしが断られても、シノブには関係はないでしょう」

それが仕事ってものだ。

わたしだって、そのぐらいのことは分かる。

元の世界で社会経験がなくても、この世界では経験している。

「……それは」

「それは?」

「可愛いクマさんが困っていたからっすよ。それに可愛い女の子に声をかけない、女の子はいないっすよ」

「それは男のセリフでしょう」

もっとも、男から声をかけられたことなんてないけど。

「いやいや、女の子だって可愛い女の子には声をかけるっすよ」

わたしが疑う目でシノブを見る。

「そんな目で見ないでほしいっす。ああ、肉が来たっすよ。食べましょう」

シノブが誤魔化すようにドアを見ると、部屋に男性が木炭と肉を持って戻ってくる。

「お待たせしました」

男性は炭に火を点ける。もう少し、シノブに尋ねたかったが、タイミングが悪いので諦める。

そして、良い感じに炭火の温度が上がってくると、網の上に肉を乗せる。

肉がジュジュと音を立てて、焼けていく。

美味しそうだ。

醤油のようなタレがあり、それを付けて食べると、もの凄く美味しい。

お土産に買って帰ろうかな。

たくさん買って、クマボックスに入れておくのもいいかもしれない。そうしたら、いつでも和牛を食べることができる。

「くぅ~ん」

くまゆるが食べたそうに見ている。

わたしは焼いた肉をくまゆるの口の中に入れてあげる。

子熊ではないから、口が大きい。でも、くまゆるは美味しそうに食べる。

「くまゆる、わたしの肉も食べるっすか?」

シノブが自分の焼いた肉をくまゆるの口に入れてあげる。

「大きな肉が欲しいっすね」

シノブがそう言うと、男性はくまゆる用に肉を持ってきてくれた。

これで、かなりの金額になりそうだったので、わたしは依頼の追加料金の件は断る。すると、シノブも断った。

「かまいたちを売るから大丈夫っす」

だそうだ。

そして、わたしは1人だけ食べられなかったくまきゅうのために肉を購入する。

あとで召喚したら、いじけるくまきゅうが容易に想像できてしまった。だから、ご機嫌を取る材料は少しでも多いほうがいい。