軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

439 クマさん、シノブの話を聞く

食事をいただいたわたしたちはお礼を言って、帰ることにする。村からでるときには、かなりの人が見送ってくれた。

「くまゆる、大人気だったっすね」

おとなしいくまゆるに子供たちが集まったりした。

それにしても、高級肉って言うことはあって、美味しかった。

わたしは街に帰るため、くまゆるを走らせる。その横をハヤテマルに乗ったシノブが走る。

「ユナ、街に戻ったら、相談があるっす」

「相談?」

「わたしの話を聞いてほしいっす」

「もしかして、今回の依頼についてきたことに関係があるの?」

「まあ、あるっす」

さっきは誤魔化したくせに、どういうことなのかな。

それとも、あそこじゃ話せないことだったとか?

「面倒ごとなら、お断りなんだけど」

今のわたしは観光で来ている。面倒なことはお断りだ。

「うぅ、そんなことを言わないでほしいっす」

「つまり、面倒ごとってこと?」

「……面倒ごとっす」

シノブは素直に答える。

「なら、聞きたくないんだけど」

「そんなことを言わずに聞いてくださいよ~。お願いするっすよ」

「それじゃ、わたしに隠していることも全部話してくれるなら、話だけなら聞いてあげるよ」

シノブがわたしに付きまとう理由が知りたい。

シノブが今回の依頼を引き受けた理由が分からない。わたしと一緒じゃないと意味がないようなことも言っていた。シノブの行動と言葉の真意がいまいち分からない。

モヤモヤしたままにするのもあれだ。

もし、話を聞いて面倒ごとなら、聞かなかったことにすればいい。

「分かったっす。街に戻ったら話すっす」

わたしとシノブは街に戻ってくると、依頼を報告するために冒険者ギルドに向かう。

「戻ったっす」

シノブは家に帰ってきたような感覚で、冒険者ギルドの中に入る。シノブがそんな声をかけて入るから、視線を集める。だけど、シノブは気にしたようすもなく、受付に向かう。

「依頼、終わったっす」

シノブは依頼書とギルドカードを出し、わたしもギルドカードを一緒に出す。

受付嬢は依頼書を確認する。依頼書には依頼達成したことを証明するイツキさんのサインがある。

「お疲れ様でした。それで、かまいたちはどうなさいますか? 買取りますか?」

「お願いするっす。かまいたちのせいで服が切れたっす」

シノブは切れたところを受付嬢に見せる。

「あら、シノブさんが珍しいですね」

「それが、銀色のかまいたちがいたっすよ。それも三匹も」

「そうなんですか? それじゃ、シノブさんが」

「わたしは一匹っす。それでユナが二匹っす」

「ユナさんと言うと……」

受付嬢はわたしに視線を向ける。

「本当ですか?」

信じられないようにわたしを見ている。

「本当っす。かまいたちのほとんどをユナが1人で倒したっすよ」

まあ、実際はくまゆるとくまきゅうが倒してくれた。

「ユナはかまいたちはどうするっすか?」

どうしようかな。買い取ってもらったほうがいいのかな?

それとも、フィナに頼む?

もう、解体の仕事はしなくても大丈夫だけど、ミスリルナイフも買ってあげたし、わたしは決める。

フィナに頼むことにする。もし、できないようだったら、ゲンツさんに頼めばいい。

「わたしはいいや」

「傷むっすよ」

「わたしのアイテム袋は特別だから、大丈夫だよ」

そう言って、クマさんパペットをパクパクさせる。

「それでは依頼料はお渡ししますので、配分はお二人でお分けになってください」

そう言って、ギルド嬢はお金をテーブルの上に置く。すると、シノブは一割ほどのお金を摑む。

「わたしの取り分はこれぐらいっすね」

「半分でいいよ」

「それはできないっすよ。わたしが倒したのは少しだけっすから。だから、残りはユナの取り分っす」

「いいの?」

たしかに倒した数ではそうだけど、シノブからはかまいたちの情報を聞いている。情報はお金の価値は十分にある。

「正当な配分っす。悩む必要はないっすよ。その代わりにユナには話を聞いてもらうっす」

「もしかして、お金を渡して、断れないようにするつもり?」

ただより高いものはないって言うし。

「そんなセコイ真似はしないっすよ」

わたしは悩んだ結果、受け取ることにした。いざとなれば、突き返せばいい。

「それじゃ、ありがたくもらっておくよ」

わたしはクマボックスの中にお金を仕舞う。

ギルドカードも返してもらい、依頼の報告も終わったので、あとは旅館に帰って、のんびりするだけだ。

でも、その前にシノブの話を聞かないといけない。

「それで、話はどこで聞く?」

「誰にも聞かれたくないっすから、旅館の部屋でいいっすか?」

「いいけど」

シノブの話は旅館のわたしの部屋で聞くことになった。

そんなわけでわたしたちは旅館に戻ってくる。

「ユナ様、シノブ様、お帰りなさい」

コノハが出迎えてくれる。

「ただいま、時間になったら夕食はお願いね」

「あと、わたしも泊まるっすから、部屋をお願いするっす」

「はい、ありがとうございます」

シノブは宿泊の手続きを終えると、わたしが泊まっている部屋に向かう。

「いい部屋っすね」

シノブはキョロキョロと部屋を見渡す。

わたしは部屋にある座布団に座る。

「それで、話ってなに?」

シノブもテーブルを挟んだ反対側の座布団に座る。

「実はこの男を捜しているっす」

シノブは胸のところから、何かを取り出す。取り出したのは1枚の紙だった。4つ折りになっていた紙を広げると、人相の悪い男の似顔絵が描かれていた。目付きは悪く、左目は眼帯をしている。

まるで指名手配書みたいだ。

「この 悪人面(あくにんづら) を絵に描いたような男は?」

絶対に関わりを持ちたくないタイプだ。

「わたしの親の仇っす」

「……」

沈黙が流れる。

いきなり、ヘビーな言葉が出てきた。

聞いたことを後悔し始めた。漫画や小説を読むと、復讐の物語はハッピーエンドで終わることが少ない。ほとんどが、自分も不幸になることが多い。

「もしかして、くまゆるに人探しを頼むつもり? それならできないよ」

くまゆるができるのは、あくまで探知スキルと同じことだ。あと、わたしやフィナなどの知っている人物のことは分かるっぽい。だから、こんな会ったこともない人物を捜すことはできない。

「いや、違うっす。もちろん、できれば助かるんすが。この街にいるみたいなんすよ」

街と言っても広い。この中から人一人を捜すのは簡単なことじゃない。

「それじゃ、なに?」

「ユナはわたしより強いっすよね?」

「シノブのほうが強いかもよ」

「そんなことはないっすよ。ユナのほうが強いっす」

もしかして、わたしの強さを確認するために、わたしに付いてきた?

でも、初めて会った時点では、わたしが強いなんて思わないよね。変な格好をした女の子ぐらいにしか思わないはずだ。

言っていることと、やっていることの順番がちぐはぐしているような気がする。

「それじゃ、わたしにその男を倒してほしいってこと?」

「もしものときはお願いするっす」

「もしものときって?」

てっきり、敵討ちを手伝ってほしいって言うかと思ったけど、違うらしい。

「この男はわたしが捕らえるっす。ユナは、もしわたしが倒れたときはお願いしたいっす。だから、わたしが倒れるときまで、見守ってほしいっす。もちろん、ただとは言わないっす。お金は払うっす」

シノブはそう言うと、アイテム袋から巾着袋を出す。その巾着袋を開けると、お金が入っていた。

かなりの金額だ。たぶん、小さな家なら購入できる。

「全財産っす。わたしが死んだら、男を捕らえてほしいっす」

真剣な表情でわたしのことを見る。

「死んだら、お金なんて持っていても仕方ないっすからね。だから、ユナにあげるっす。ああ、でも、わたしが男を捕らえたら、お金は返してほしいっす」

シノブが笑みを浮かべながら、そんなことを言う。

「お金を持って逃げるかもよ」

「この二日間、ユナのことは見てきたっす。そんなことはしないと思ったから、話したっす。ユナは困っているイツキさんに声をかけたっす」

あれはかまいたちを見たかっただけだ。

「牛が襲われたとき、誰よりも早く動いたっす」

討伐に来たのだから、動くのは当たり前だ。

「村の人が困っているから、危険がある森の中に入ってまで、かまいたちを討伐に向かったっす」

時間をかけるのが面倒だったからだ。

「銀色のかまいたちを倒したのに、自慢することも、依頼料の値上げの交渉もしなかったっす」

それはシノブが交渉って言うか、それっぽいことを言ったよね。

「しかも、食事をごちそうになったから、追加の依頼料を断ったっす」

あれはくまゆるが肉を食べ過ぎたから、断っただけだ。

「もしかして、だから今回の依頼料も貰わなかったの?」

「あれは正当な配分っすよ」

「でも、どうしてわたしなの? 他にも強い冒険者はいるでしょう? それを、会ったばかりのわたしに頼むのはおかしくない?」

普通に考えれば、クマの着ぐるみを着たわたしに頼むとは思えない。

「女の勘っす。初めて見たときに、気になって、目が離せなかったっす」

それって、わたしの格好が気になって、目が離せなかっただけじゃ。

「それで、今回の依頼でユナの実力を知って、お願いしようと思ったっす」

う~ん、嘘は吐いていないと思うけど、本当の真意が隠れているように感じる。

「その男はそんなに強いの?」

シノブはランクCの冒険者だ。冒険者ギルドからも信頼されていた。名だけのランクではない。それにわたしが苦労した銀色のかまいたちを討伐している。

「強いっす。たぶん、ギリギリの戦いになるっす。負けるつもりはないっすけど、絶対に勝てるとは言えないっす。だから、ユナにはもしものときはお願いしたいっす」

シノブは頭を下げる。

話を聞かなければよかったとは思わないけど、微妙な話だ。

「倒すんじゃなくて、捕らえるの?」

「いろいろな犯罪歴があるっす」

「それなら、それなりの場所に言って、捕まえてもらえばいいんじゃない?」

「証拠がないっす。だから、捕らえて、吐かすっす」

それだとかなり難しい。相手が強ければ、強いほど、捕らえるのは難しい。実力差が近いほど、難しい。一歩間違えれば、自分が死ぬかもしれない。

……だから、シノブはもしものときはわたしに頼むと言っている。

ため息しかでない。

シノブとはなんだかんだで、一緒に依頼を受け、一緒に魔物と戦い、同じ釜の飯を食った仲だ。

もし、わたしが断ったことで、知らないところでシノブに死なれでもしたら、最悪の気分になるのは想像ができる。

もし、わたしが居れば、死ななかったかもと思ってしまう。

わたしはため息を吐く。

「分かったよ。引き受けるよ。でも、条件が一つあるよ」

「なんすか? もしかして、体を要求っすか。ユナになら」

シノブは肩から服を脱ごうとする。

「違うよ。そんなものはいらない」

「酷いっす。わたしの体をそんなものって」

シノブはシクシクと泣きまねをする。

死ぬかもしれないって言っているくせに余裕があるね。

「もし、シノブが危険と思ったら手を出すよ」

「つまり、敵討ちの邪魔をするってことっすか?」

「違うよ。シノブがやられそうになった時点で、シノブは負けたと同義。だから、そのときになったら手を出す。シノブが死んだあとなんて、約束はしない」

ここだけは譲れない。わたしの前で死んだり、大怪我でもしたら、トラウマものだ。

「そんな真剣な目で見られたら、断れないっすね。その辺りはユナの判断に任せるっす」

わたしはシノブの依頼を受けることにした。