軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

415 トウヤ、頑張る。その3

現れたのは黒いクマに乗ったクマの嬢ちゃんだった。

「どうしてここに?」

「セニアさんに聞いて助けに来たんだけど」

「セニアは!」

「くまきゅうと一緒に街に戻ったよ」

その言葉で安堵する。

無事に戻ったか。それで嬢ちゃんが来てくれたのか。

「それで、助けは必要?」

嬢ちゃんはビッグボアに視線を向ける。

ビッグボアは嬢ちゃんのほうを向いて、威嚇するように唸っている。

「なにか、わたしに喧嘩売っているような気がするんだけど」

いや、嬢ちゃんに対してではなく、乗っているクマに対してだろう。

嬢ちゃんが動こうとする。

「嬢ちゃん、待ってくれないか。こいつらは俺にまかせてくれ」

「二体とも?」

「ああ」

俺はそう言って動く、嬢ちゃんのほうを見て唸っているビッグボアの後ろから攻撃を仕掛ける。ビッグボアの体に剣を突き刺す。肉が厚い。俺は思いっきり剣を押し込む。ビッグボアは暴れだす。俺は剣を引き抜き、ビッグボアの体に向けて剣を振り下ろす。

卑怯かもしれないが、あいにく二体同時に正面から倒す実力はもっていない。俺から注意を逸らしたビッグボアが悪い。生と死を懸けた戦いだ。相手に情けをかけるほど、俺は強くもないし、優しくもない。

剣で斬られたビッグボアの大きな体は崩れ落ちる。

これで残りは一体だ。

俺は残りの一体も任せろ的な表情で嬢ちゃんのほうを見ると。嬢ちゃんはなにか残念そうな顔をしている。

「どうした?」

「普通に倒すなら、わたしに赤角を切らしてほしかったかなと、思っただけだよ」

そんなに簡単に斬らせてほしいと言わないでくれ。もし、目の前で嬢ちゃんに簡単に斬り落とされでもしたら、精神的に立ち直れなかったかもしれない。「ああ、天才には敵わない」と思ってしまう。それだけ、嬢ちゃんと俺は違う。

ジェイドもメルもセニアも優秀な冒険者だ。俺だけが凡人だ。心だけは強く持たないといけない。

「それはすまないことをしたな。嬢ちゃんには悪いがこっちのビッグボアも俺が倒させてもらうぞ」

俺は残りの一体のビッグボアに視線を向ける。ビッグボアは仲間を殺されたためか、唸り声をあげ、赤い角がさらに赤くなる。今の俺には一つでも経験が必要だ。それに一体だけなら、俺の練習相手になる。だから、嬢ちゃんに譲ることはできない。

でも、嬢ちゃんの口から予想外の言葉がでる。

「それじゃ、わたしは他のビッグボアを倒してくるね。一応、くまゆるを置いて行くから、なにかあったら助けを求めてね。くまゆるも、トウヤが危なかったら助けてあげてね」

ちょっと待て。今、嬢ちゃんはなんて言った。

俺はビッグボアに向けていた視線を嬢ちゃんに向ける。

「おい! 他のってなんだ!」

まだ、いるのか。

「わたしと話している場合じゃないと思うよ。ちゃんと相手を見ないと、自分が倒したビッグボアみたいに後ろから襲われるよ」

嬢ちゃんの言葉ですぐにビッグボアに視線を戻すと、ビッグボアが俺に向かって走ってくる。

俺はギリギリでかわす。

次に嬢ちゃんのほうを見たら、黒いクマの姿しかなかった。

なんだよ。まだいるのか。しかも、人が苦労しているのに、簡単に倒しに行ってくるとか。

でも、嬢ちゃんのおかげで一対一になれた。それに嬢ちゃんのクマがいると思うと安心感がある。こんな状況下で赤い角が斬れないようじゃ、男じゃない。

ビッグボアが突っ込んでくる。俺はギリギリまで引きつけ、横にかわし、魔力が込められた赤い角に向かってミスリルの剣を振り下ろすが、剣は弾かれる。硬い。怒っているせいもあり、角に多くの魔力が集まっている。さっきより、角が赤くなっている。

「くぅ~ん」

そんな、心配そうに鳴くな。せっかくおまえのご主人様がくれた練習相手だ。おまえの出番はない。そこで見守ってくれればいい。

俺は軽く心配そうにするクマを見て、笑ってみせる。

剣を斬ったときのことを思い出せ、偶然にしろ何度か斬れているんだ。

あの感触を思い出せ。

俺はビッグボアの突進を何度もかわし、タイミングを計る。

俺は突っ込んでくるビッグボアの攻撃をギリギリでかわそうとしたが、ビッグボアの体が僅かに俺が避けたほうに流れる。

避けられない。

体が弾かれる。やばい。さっきと違って、衝撃が強い。地面に転がる。早く立ち上がろうとするが、激痛で、すぐに立ち上がれない。

早く、立たないとすぐに襲ってくるぞ。

腕と足に力を入れる。

立ち上がれ!

避けろ!

俺は体に命令する。

体中に力を込め、立ち上がる。そして、ビッグボアを見たとき、俺に向かって突進してくる。避けられない。そう思ったとき、黒い物がビッグボアに体当たりする。

嬢ちゃんのクマが横からビッグボアに体当たりした。俺を救ってくれた。黒クマに体当たりされたビッグボアは横倒しに倒れる。黒クマは「くぅ~ん」と鳴いて、俺のほうを見る。

「助かった。ありがとう」

俺は嬢ちゃんのクマに礼を言う。

まさか、本当に俺が危険なときに助けてくれるとは思わなかった。クマに見守られていたと思うと変な気持ちになるが、命拾いしたのは事実だ。

俺は自分の実力の無さに悔しくなる。どうして、俺はこんなに弱い。

今の俺では動いているビッグボアの角を斬るのは無理だ。でも、倒れているビッグボアの角ぐらい、斬れないでどうする。

俺は激痛が走る体を無理に動かし、倒れているビッグボアに近づく。ビッグボアは起き上がろうとするが、大きな体のせいで遅い。俺は力強く足を踏み出し、手に力を入れ、脳裏に剣筋を思い浮かべ、ミスリルの剣を赤い角に向けて、振り落とした。

角は斬れ、俺はそのまま、切り返して、ビッグボアの首筋に剣を奥深くまで突き刺した。

ビッグボアの動きは止まる。

……終わった。

俺は赤い角を拾う。

……斬れた。笑いがでてくる。今までで一番の斬撃だった。でも、動きながらできないから、半人前扱いされても仕方ない。もっと、頑張らないといけないな。

俺は見守ってくれた嬢ちゃんのクマに視線を向ける。

「くまゆるだったな。ありがとうな」

俺がお礼を言うと嬉しそうに「くぅ~ん」と鳴く。

くそ、可愛く鳴きやがって、セニアやメルが可愛がるのが分かる。

俺はお礼を兼ねて頭を撫でる。なんだ。この柔らかさ。気持ちいいぞ。

誰も見ていないよな?

俺は周囲を確認する。誰もいないことを確認して、くまゆるの体に顔を埋める。

おお、凄く気持ちいい。なんだ、このふわふわの感触は。体が疲れているから、余計に心地よくなってくる。このまま寝たら、気持ちがいいかもしれない。そんな誘惑に負け、俺が目を閉じたとき。

「トウヤ、なにをやっているの?」

俺はとっさに目を開いて、くまゆるから顔を離す。そして、声をしたほうを探す。そこには白いクマに乗ったセニアがいた。

「どうして、セニアがここに!?」

「心配だから、来た。そしたら、トウヤがくまゆるに抱きついていた」

セニアがくまゆると俺を見る。

「ち、違う」

俺がくまゆるから離れると、くまゆるは悲しそうに「くぅ~ん」と鳴く。

「いや、違う」

俺はくまゆるにも違うと言う。

「なにが違うの?」

「くぅ~ん」

俺はセニアとくまゆるを交互に見る。

「違うんだ~~~~~~~~~~~~!!」

俺の叫びが森の中に響いた。

それから、セニアを連れてきた白いクマのほうはクマの嬢ちゃんのところへ向かった。なんでも、白いクマが嬢ちゃんのところに行くところをセニアが頼んで、連れてきてもらったそうだ。

この黒いクマのくまゆるにしても、白いクマのくまきゅうにしても、人の言葉を理解して、さらに主人の命に従い、ちゃんと危険かを判断する。本当にクマなのかと思ってしまう。なによりも、あの触ったときの心地よさだ。あれは最高級の毛皮に包まれているような感覚だ。あの毛皮に包まれて寝たいと思ってしまう。

でも、くまゆるに抱きついているところをセニアに見られたのはマズイ。

「セニア、あれは傷ついていた俺をクマが支えてくれていただけだからな」

俺の手当をしているセニアに言い訳のように説明する。

「幸せそうに抱きついていた」

「気のせいだ」

「くぅ~ん」

くまゆるが「そうなの?」的な顔で俺を見ているような気がする。人の言葉を理解できるから、たちが悪い。傷つける言葉を言うこともできない。

セニアは微笑み。俺の手元に視線を向ける。

「角、斬れた?」

俺の手にはビッグボアの赤い角が握られている。

「ああ、これもクマの嬢ちゃんとくまゆるのおかげだ」

「くまゆる?」

俺がクマの名前を言うと突っ込んでくる。

「嬢ちゃんのクマは二頭いるだろう。それを区別しただけだ」

「いつもは黒いクマ、白いクマって言っている」

細かいことを覚えているな。

「気のせいだ」

俺はくまゆるのほうを見る。

「おまえは主人のところに行かないでいいのか? もう、大丈夫だぞ」

「くぅ~ん」

返事をするが、動こうとしない。主人の嬢ちゃんのところには白いクマが向かったから、自分は行かないで良いと思っているのか、嬢ちゃんの言葉を守って俺の傍にいるかは表情では理解できない。

「ユナはどうしたの?」

「他にもビッグボアがいるから、倒しに行った」

「それじゃ、助けに行かないと」

セニアが俺の話を聞いて立ち上がる。

そのとき、草木を掻き分ける音がしたと思ったら、白いクマに乗った嬢ちゃんが現れた。

「嬢ちゃん、無事だったか」

「トウヤは無事なの?」

セニアに手当てされていた俺を見て、首を傾げる。

「ああ、嬢ちゃんの置いていってくれたクマのおかげで助かった」

俺がくまゆるのほうを見ると、くまゆるは嬉しそうに主人である嬢ちゃんに駆け寄っていく。嬢ちゃんは白いクマから降りると、くまゆるの頭を撫でる。

「ありがとうね」

「くぅ~ん」

くまゆるは主人である嬢ちゃんに褒められて嬉しそうにする。

そのときに、くまゆるは俺を助けたのは俺だからではなく、主人の嬢ちゃんの命令だから助けたんだとあらためて理解した。

くそ、寂しくなんてないぞ。

「それで他のビッグボアはどうしたんだ」

「うん、周辺に三体いたから、倒してきたよ」

嬢ちゃんは簡単にウルフを倒したように言う。そして、嬢ちゃんはクマの顔をした手袋から、ビッグボアを取り出し、その手には三本の赤い角があった。

俺が苦労したのに、嬢ちゃんは簡単に手に入れる。きっと、嬢ちゃんは動いているビッグボアの角を斬ったに違いない。俺はくまゆるに倒してもらったところを斬った。

これが天才と凡人の差。この差を埋めるのは大変だ。

その前にジェイドやセニア、メルたちの横に並べるようにならないといけない。道のりは長そうだ。俺は手に握った一本の赤い角を見る。まずは一歩目だ。