軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

414 トウヤ、頑張る。その2

セニアの言葉で後ろを振り向くと大きなイノシシがいる。ビッグボアだ。クマの嬢ちゃんのクマぐらいある。足は速く、俺の足はもちろん、子供の足では逃げることはできない。さらに額にナイフほどの長さの角がある。

俺はどうするか、思考する。今は指示を出すジェイドはいない。意見を出すメルもいない。

どうする!

ここには俺とセニア、それと守らないといけないガキが3人いる。

一頭ならセニアと戦えば倒せない相手じゃない。ビッグボアの特徴は突進と頭に付いた角。そして、逃げてもどこまでも追いかけてくる。倒すのはそれほど苦労はしない。相手を見て、かわして、攻撃を仕掛ければ倒すことはそれほど難しいことじゃない。

ただ。俺が避けたとき、そのままガキどもに向かって走っていったら、終わりだ。一撃で倒す芸当は俺にできるとは言えない。でも、セニアと一緒ならできる。

俺がセニアに声をかけようとしたとき、奥の木々の裏から二頭目のビッグボアが現れる。

冗談だろう?

流石に二頭同時に一撃で倒すことなんてできないぞ。

俺は考える。どうしたらいい。

ふふ、そんな答えは初めから決まっている。

誰かが注意を引いて残れば、ガキどもが逃げられる。

「セニア、ガキどもを連れて逃げろ!」

俺はビッグボアの注意を引くためと、セニアに伝えるために大きな声で叫ぶ。

「トウヤ……わたしが残る。トウヤより、わたしが残ったほうがいい」

「確かに俺よりセニアのほうが強い。でも、俺も男だ。女を残して逃げるわけにはいかないだろう。それにビッグボアの注意は俺に向いている。セニアが動けばガキどもに注意が向く。それに俺なら、足手まといがいなければ、大丈夫だ!」

「……トウヤ」

「それにミスリルの剣を扱うには最高の練習相手が来た。横取りはしないでくれ」

俺はビッグボアを見ながら、セニアに言う。今にも襲ってきそうだ。唸り声をあげて、俺の様子をうかがっている。

「トウヤ、馬鹿なことを考えている?」

「馬鹿とは酷いぞ。ただ、あの角は練習には最適だろう」

俺はビッグボアの白い角を見る。

「今のトウヤには無理。危険」

ビッグボアは襲いかかるとき、角に魔力を集め赤くなる。そのときの状態の強度は硬く、ビッグボアの突進と合わせれば鉄の鎧なら貫く。そして、魔力が集まっている状態で角を斬り落とすと、角は赤いまま残り、貴重な素材になったり、装飾物で飾られることもあり、高く取引される。

「それに、ビッグボアがここだけにいるとは限らないだろう。ガキどもを連れて逃げることは俺には無理だ。でも、セニアならできるだろう」

震えているガキどもを守りながら、街に逃げることは俺にはできない。でも、セニアなら、遭遇しても大丈夫なはずだ。

セニアは俺と震えているガキどもを見比べる。そして、一言「わかった」と言ってくれた。セニアは震えるガキどもを連れて、動き出す。俺は二頭のビッグボアの注意を引くため、地面に転がっている石をビッグボアに向けて蹴り飛ばし、叫ぶ。

「セニア、行け!」

セニアがガキどもを連れてゆっくりと動き出す。

「こっちだ」

俺は叫んでセニアの姿が見えなくなるまで、注意をひく。

「グリュルル」

ビッグボアは唸り声を出し、角が赤くなる。ビッグボアは俺目掛けて突進してくる。俺は右にかわし、赤い角目掛けて、ミスリルの剣を振り落とす。だが、弾かれる。

さらに二頭目が襲いかかってくる。俺はどうにか突進をかわす。セニアのほうを見れば、いない。あとはセニアが逃げた方にビッグボアがいないことを祈るだけだ。

────────────────────────────────────

わたしはフィナとルイミンを連れて、街の外に来ている。

目を覚ましたわたしたちは昼食を食べていると、ジェイドさんとメルさんがやってきた。それで、トウヤとセニアさんが、街の外に剣の練習をしに行ったことを聞いた。

なんでも、わたしのおかげでコツを掴んだそうだ。この前、剣を斬ったのが役にたったみたいだ。クセロさんの試験も試しの門の試練が終わるまでだ。わたしが毎日魔力を込めれば、延長も可能だけど。そんなことはしたくない。

わたしは予定もないので、眠気覚ましのついでに、トウヤの様子を見に行くことにした。フィナとルイミンも付いてくると言うので一緒に街の外にやってくる。

街をでるときに、門番に驚かれたが、止められることもなく、外にでることができた。そして、門から少し離れるとくまゆるとくまきゅうを召喚して、わたしがくまゆるに乗り、フィナとルイミンにはくまきゅうに乗ってもらう。移動するならくまゆるとくまきゅうに乗ったほうが速いからね。

わたしは近くの森にやってくると、探知スキルを使ってトウヤとセニアさんがいる場所の目星を付けることにする。

2つの人の反応があればトウヤとセニアさんの可能性が高い。

探知スキルを使うと、まばらに反応がある。森の中に人がいるみたいだ。2人の反応がある場所を探そうとすると、こっちに移動してくる人の4つの反応がある。

トウヤとセニアさんなら、2つのはず。くまゆるとくまきゅうを見て驚かれる可能性があるので、道から離れて、やり過ごそうとする。でも、くまゆるとくまきゅうが「くぅ~ん」と鳴く。「どうしたの?」と尋ねようとするとフィナとルイミンが口を開く。

「あれはセニアさんです」

「本当だ。子供と一緒に走ってるね」

たしかにセニアさんと子供が走っている。たまに後ろを振り向いたりしている。

「なにかあったのでしょうか?」

わたしたちはセニアさんのところに向かう。

道の外れた場所から出ると、セニアさんがわたしたちに向けて、ナイフを構える。

「ユナ?」

「クマ!」

セニアさんは安堵の表情を浮かべて、ナイフを下ろす。

ドワーフの子供たちはくまゆるとくまきゅうに驚いて、セニアさんの後ろに隠れる。

「このクマは危険じゃない。大丈夫」

セニアさんが子供たちを落ち着かせる。

「セニアさん、なにかあったの? なにか慌てているようだったけど」

それに一緒にいるはずのトウヤがいない。

それに子供たちは不安そうな顔をしている。くまゆるとくまきゅうを見てからではない。

「ビッグボアが現れて、トウヤが一人で戦っている」

「ビッグボア?」

ビッグボアって大きなイノシシだっけ?

わたしはセニアさんから、短く話をきく。

なんでも、練習をしていると、ビックボアが現れたそうだ。セニアさんも一緒に戦おうとしたが、子供たちがいたので、トウヤを置いて逃げて来たそうだ。でも、わたしの探知スキルには魔物の反応はない。もう少し離れているみたいだ。

「ユナ、この子たちをお願い」

「もしかして、助けに行くの?」

セニアさんは小さく頷くが、子供たちはセニアさんから離れようとはしない。

子供たちは不安そうにセニアさんの手を掴んで、離れたくなさそうにする。セニアさんは子供たちを見て、困った表情をする。

「それじゃ、わたしが行ってくるよ」

「ユナが?」

「サクッとトウヤを助けてくるよ。くまゆるが一緒になら、すぐに駆け付けることができるしね」

現在魔物は離れた所にいるようだ。ならばセニアさんが駆け付けるより、わたしがくまゆるで駆け付けたほうが速い。

「それじゃ……」

わたしはセニアさんから、一つ頼まれごとをされた。

トウヤはビッグボアと戦っている。それも、無茶な戦い方をしようとしていると言う。ビッグボアの角は魔力を込めると硬くなる。トウヤはその魔力が込められた角をミスリルの剣で斬ろうとしているかもしれないらしい。

セニアさんはもし、トウヤが無茶なことをしようとしたら、止めてほしいと言った。

「ユナ、お願い」

「わかったよ。任せて。フィナとルイミンはセニアさんと一緒に宿屋に戻って。くまきゅうはみんなを街の近くまで送ったら、わたしのところに合流ね」

「くぅ~ん」

「気を付けてくださいね」

「ユナさん、無茶はしないでくださいね」

わたしはみんなに見送られ、セニアさんに教わったトウヤがいる場所に向けて、くまゆるを走らせる。

そして、セニアさんと別れて、1分も経たずに魔物、人とビッグボアの反応が探知スキルに現れる。これがトウヤ?

わたしは最高速度でトウヤのいる場所にくまゆるを走らせる。

ジェイドさんから聞いた話じゃ、この街の周辺には魔物がいないって話だったのに魔物が現れるって、トウヤも運がないね。

────────────────────────────────────

俺は二頭のビッグボアの相手をしている。左右、前後から大きな体を活かして、突っ込んでくる。単調な攻撃だが、体が大きく、速いから、タイミングが取れない。

セニアは逃げられただろうか。他のビッグボアと遭遇していないことを祈る。セニアは強いが、さすがに三人の子供を守りながら戦うのは辛い。

今は目の前の赤い角を斬りたいが、早く倒してセニアを追いかけたい。

前後を挟まれる。俺はビッグボアの突進を横にかわす。さらにかわしたところを、もう一頭が襲い掛かってくる。

くそ、速くて大きいから、大きくかわすと攻撃に移れない。最小限の動きでかわし、攻撃を仕掛けるのが一番だが、上手くいかない。

1人になるとパーティーメンバーの有り難みがわかる。メルの魔法で注意を引き、攻撃を仕掛ける。ジェイドが正面から戦っているときに、横、後ろから攻撃を仕掛ける。今、考えると甘えた場所で攻撃をしていたことに気付く。それとも、俺の実力が不安だったから、魔物の引き付け役はやらせてくれなかったのかもしれない。

ふざけるな。俺は強くなる。

ジェイドに正面を頼むと言わせてみせる。

だから、二頭のビッグボアぐらい倒せないでどうする。

ビッグボアが角に魔力を集め、赤くなる。そして、俺を目掛けて突進してくる。俺は最小限でかわし、角めがけて、ミスリルの剣を振り下ろそうとしたとき、わずかな死角からもう一頭が迫ってくるのが見えた。俺はとっさに体をひねってかわすが、大きなビッグボアの体が俺を弾き飛ばす。体に激痛が走る。かすっただけで、これだけの衝撃か。

くそ、一頭ならどうにかなるのに、二頭相手は無理なのか!

俺は体を起こし、立ち上がると、奥から草を掻き分けて、なにかがやってくる音がする。

まだ、来るのか!

セニアのほうに行かなかっただけ。まだマシだと思う。

来るなら来い!

二頭も三頭も同じだ!

現れたのは黒いクマに乗ったクマの格好をした嬢ちゃんだった。