軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

405 クマさん、ギルマスと話す

わたしたちはギルドマスターの案内で建物の中に入る。

中は天井は高く、広々としている。入り口には長テーブルが置かれ、受付用紙が見える。ここで受付をするみたいだ。その受付をした先は大きな病院の待合室のように長椅子がいくつも置かれている。そして、一番奥に目を向けると大きめの両開きの扉が見える。もしかして、あの扉の奥に試しの門があるのかな。覗きたいな。

でも、ギルマスは別の方向に歩き出す。

「こっちだ」

ギルマスが歩く方向にドアがある。わたしは後ろ髪を引かれる気持ちを抑え、ギルマスについていく。部屋は少し広めで会議室のようにテーブルや椅子が置かれている。

「まあ、適当に座ってくれ」

わたしたちは言われるままに椅子に座る。

そして、ギルマスはお茶を出してくれる。ドワーフって言えばお酒ってイメージがあるけど、さすがに朝からお酒は飲まないらしい。

「こんなにのんびりしていていいのか?」

「毎年のことだ。準備も数日前からしてある。あとはギルド職員と鍛冶職人たちがやってくるのを待つだけさ」

ギルマスは全員分のお茶を用意して、自分も椅子に座る。

「楽しそうだな」

「まあな、見習い鍛冶職人が育ったのを見ることができるんだからな。今年はドルトンの弟子辺りがいい感じじゃな。他にも何人かいるから、楽しみだ」

ギルマスは嬉しそうに話す。成長を見守るお父さんって感じだ。孤児院の先生とか似合いそうだ。そして、ギルマスはわたしに視線を向ける。

「嬢ちゃんの格好はクマか?」

「そうだけど」

クマ以外には見えないはず。

「他の街だと、そのような格好が流行っているのか?」

ロージナさんが気にするなと言ってくれたけど。やっぱり、わたしの格好が気になるみたいだ。でも、説明をするのが面倒なので、適当に答える。

「流行っていますよ」

「ユナお姉ちゃん!?」

わたしの返答に隣に座るフィナが驚く。そんなに驚くこと? もしかすると流行るかもよ。流行っても、それはそれで困るけど。

「冗談です。わたしのお気に入りの格好なので気にしないでもらえると助かります」

「そうか。まあ、どんな格好しても人それぞれだからな」

そんな、哀れむような目で見ないで。好きでクマの格好をしているわけじゃないよ。生きるために着ているんだよ。

「それで、嬢ちゃんたちはガザルとゴルドの知り合いなのか?」

「2人を知っているの?」

「もちろん、知っている。この街にいる鍛冶職人のことは全て把握している」

「全て?」

「ギルマスなんだから、当然じゃろう。まして、優秀な新人鍛冶職人は記憶に残るからな」

何人いるかわからないけど、全てを把握しているって凄い。人の名前とか覚えられないわたしからしたら、全てを把握しているなんて変人だ。さきほど思った、みんなのお父さんもあながち冗談ではないかもしれない。

「あの2人は元気にしているか?」

「元気だよ」

「そうか。街から出ていく話を聞いたときは残念だったが、元気にしているようならよかった。それで嬢ちゃんたちはなにしに来たんだ。お父さんと一緒に来たのか?」

お父さんって、子供じゃないんだからと思ったけど、子供のフィナが一緒だ。気になるのは、その子供って中にわたしが入っているかどうかだ。

「驚くことに、3人だけで鍋を買いにこの街に来たそうだ」

ロージナさんの言葉にギルマスは驚きの表情を浮かべ、不思議な生き物を見るようにわたしを見る。

まあ、女の子3人で来たと聞けば驚くよね。ロージナさんはわたしたちの鍋を作っていると説明する。

「まあ、ロージナが作る鍋は人気があるからな。嬢ちゃんたち、運がいいぞ。この偏屈のおっさんは、気持ちが乗らないと作らないからな」

「ゴルドとガザルの知り合いを無下にはできないからだ」

そのおかげで他の店で探さないで済んだ。しかも、価格も安くしてもらっている。その辺りは感謝しないといけないね。

「それで今日は、嬢ちゃんたちはロージナと試しの門を見に来たのか?」

「ロージナさんとは偶然会っただけだよ。わたしは少し興味があったから、見に来ただけ」

「見に来ただけと言っても、中は見ることはできないぞ」

「もしかしたら、外から見えるかもと思ったんだけど、駄目みたいだね。あとは、運が良ければ参加できるかなと思って」

もしかしたら、当日に冒険者に何かが起きて参加できない人がいる可能性があるかなと思ったりしていた。でも、そんなことがあっても、誰もクマの格好をしたわたしには頼まないよね。

「嬢ちゃんが参加? 嬢ちゃんは鍛冶職人でも目指しているのか?」

ギルマスは驚きの表情をする。驚いたのはわたしのほうだよ。どうしたら、わたしが鍛冶職人を目指しているように見えるかな。

「違うよ。武器を扱うほうで参加だよ」

わたしの言葉に怪訝そうな顔になる。

「タロトバ、こんな格好をしているが、嬢ちゃんは冒険者だ」

「冒険者? このクマの嬢ちゃんが?」

ギルマスはわたしのことを見ると小さく笑い出す。自分でも冒険者に見えないことはわかっている。

「冗談だろう。まだ、大道芸人と言われたほうが納得するぞ」

大道芸人って、芸をしてお金をもらう人のことだよね。ミサの誕生会でしたことが思い出される。たしかにくまゆるとくまきゅうを召喚すれば、できなくはないけど。

「まあ、嬢ちゃんの格好については同感だが、冒険者としてはそれなりに優秀みたいだ。ガザルが嬢ちゃん専用の武器を作るほどだからな」

「依頼があれば作るだろう」

「それがミスリルナイフの一級品でもか。適当に作った武器じゃなく、自分が作れる最高の武器を嬢ちゃんに渡している。それが、どういうことかギルマスなら分かるだろう」

「………」

ロージナさんがあらためてわたしのほうを見て、尋ねてくる。

「嬢ちゃん。本当に試しの門に挑戦したいのか?」

「うん、したいよ」

だって、気になるもん。

元ゲーマーなら面白そうなイベントには参加したい。

「タロトバ、頼みがある。俺の登録ってことで嬢ちゃんを参加させてやってくれないか?」

「おまえさんの登録って。おまえさんは武器は作っていないだろう。それじゃ参加できないだろう」

「嬢ちゃん、1つ確認だ。あのナイフはいつ作った。1年は過ぎたか?」

「あのナイフって、ガザルさんのナイフのこと? それなら、作ってもらったばかりだから、1年も経っていないよ」

「ロージナ。まさか、ガザルが作ったナイフで参加させるつもりか?」

「別に記録に残そうってわけじゃない。なかったことにしてもらってもかまわない。ただ、ガザルが作ったナイフ。それから嬢ちゃんの実力を確認したくてな」

「そんなことできるの? 武器を作った鍛冶職人と一緒じゃないと駄目なんじゃ」

「試しの門的には問題はない。誰の武器を誰が使おうと自由だ。実際にそんな決めごとは試しの門にない。あるのは一年以内に作った武器って定義だけだ」

「そうなの? それじゃ、鍛冶職人が必要って」

「それは鍛冶ギルドが作った規定だ。昔にいろいろとトラブルがあって、決められた」

なんでも、過去では一人で何度も挑戦ができたそうだ。剣が10本あれば、10回挑戦できた。

でも、試しの門は魔力によって試練は行われる。挑戦回数は無限でなく、一定の回数が来ると試しの門は閉まる。

1人で何度も受けていたら、試しの門の試練を受けたい者が全て受けられない。それで鍛冶ギルドが管理して、規定を作ったそうだ。

規定その1、1人1回挑戦できる。

規定その2、鍛冶ギルドに登録してあること。

規定その3、参加する場合、武器を作った鍛冶職人と一緒でなければならない。

規定その4、他人の作った武器を自分の物として参加してはならない。(発覚した場合、三年間参加することができなくなる)

規定その5、1日目は見習い、新人鍛冶職人が優先される。

規定その6、予定より門が早く閉まっても、鍛冶ギルドは保証しない。(翌年、優先的に参加できる)

規定その7、試練内容を口外してはいけない。

見事に規定その3と4に引っかかる。

「でも、よくそんな規定を作って、文句がでなかったね」

「もちろん、初めから全てがあったわけじゃない。不都合があるたびに追加され、今がある。それに当時のギルドマスターが『優秀な鍛冶職人なら、自分が作った武器がどれが一番良い武器か、分からないやつはいないはずだ』って言ったらしい」

確かに自分の作った武器で、最高の一本を選べないってことは、目利きもできないと自分で言いふらしているようなものだ。自分が作った剣なら、どれが最高の剣かくらい分かるはず。

「まあ、それでも自分の作った武器を自分の弟子に持たせたりする者もいたから、いろいろと規定が追加された」

「それに、そんなことをすれば、弟子が作った剣が自分が作った剣より、良い剣だと広まる恐れがある。もし、弟子の剣が自分が作った剣と認めれば、鍛冶職人やお客様からは嫌われることになり、鍛冶職人としての信頼はなくなる。商売はなにより信用が大事だ」

「あと、中には見習いが他の武器屋で剣を買って、自分が作った剣として参加したこともある」

「そんなことをしても、なにも意味がないんだけどな。そんなので一人前と認められても、長続きはしない。嘘はいずればれる」

そう言われるとそうなのかな。たしかに、いくら良い武器を作る職人がいても、嘘を吐く人には作ってほしいとは思わない。命を預ける武器だ。信頼がおける武器職人から買いたい。それが良い武器になればなるほどそう思う。安物の武器なら、誰でもいいよって思うけど。良い武器は信頼がおける鍛冶職人から買いたい。

「今ではそんなことをする者はいなくなったがな」

「それで、他人の作った武器を他の鍛冶職人が自分の剣として、参加するのは禁止している」

「タロトバ、今回は記録にも残さない。頼まれてくれないか」

「…………」

短い沈黙が流れる。そして、ギルマスがゆっくりと口を開く。

「わかった。まだ人もいない。今からやるなら、見なかったことにしてやる」

「感謝する」

「それに俺もガザルが、どれほど成長したか知りたいからな。でも、そのクマの嬢ちゃんでどれだけ武器の力を引き出すことができるかが問題じゃないか?」

「まあ、それを含めて確認したいだけだ」

ロージナさんのおかげで、わたしは試しの門に挑戦できることになった。