軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

397 クマさん、調理道具を購入する

わたしがくまゆるナイフを振りおろすと、鉄の棒は三分の一ほど上の部分が床に落ちる。

うん、大成功だね。

ロージナさんの手にはちゃんと鉄の棒は残っている。鉄の棒は飛ばさなかったし、鉄の棒だけを斬った。もちろん、ロージナさんの手もちゃんと付いているし、血も流れていないよ。

「…………」

でも、ロージナさんに反応がない。

「斬ったけど」

呆けるように鉄の棒を持っているロージナさんに声をかける。ロージナさんは棒を握り締め、笑みを浮かべる。

「手にほとんど力を感じなかったぞ。それにこの滑らかな切り口。ガザルの奴の手紙に鉄を切る技術は持っていると書いてあったが、ここまでとはな」

どうやら、この試験はガザルさんの手紙が原因だったみたいだ。

ロージナさんはナイフを見せるように言うので、くまゆるナイフをロージナさんに渡す。

「刃こぼれもない。どこにも切った跡が残っていない。魔力が綺麗にナイフに乗っている証拠だ」

「ガザルさんが作ったナイフが良かったんだよ。きっと師匠が良かったんだね」

最後のわたしの言葉にロージナさんは恥ずかしそうな仕草をする。

「当たり前だろう。誰が教えたと思っている。これぐらいできて当然だ。ゴルドとガザルの目はしっかりしているようだな。試すようなことをしてすまなかったな」

ロージナさんは嬉しそうにくまゆるナイフを返してくれる。わたしは鞘に入れクマボックスに仕舞う。

「それにしても嬢ちゃん。そんなに凄い技術を持っているのに。どうして、そんな格好をしているんだ。冒険者だと言うなら、もっとしっかりした格好をしたほうがいいぞ。人によってはふざけていると思う者もいる。武器もそうだが、実力にあった服装をするのも大切だぞ。多くの者は見た目で判断する」

なにか、初めてまともな忠告を受けた気がする。人は第一に見た目で判断してから、付き合いが始まる。普段、街中を着ぐるみの姿で歩くような人とは、普通はお友達になりたくないよね。異世界だから、許されているようなものだ。

……許されているよね?

「ゴルドもガザルも見た目で人を判断するようなことはなかったようだな」

それはいろいろと噂を聞いたからじゃないかな。ゴルドさんの場合は冒険者ギルドとも繋がりがあるみたいだし。ガザルさんの場合はミスリルゴーレムの件もあるし、ゴルドさんの手紙でわたしのことを知っている。

「ユナちゃんは、クマの格好した女の子だけじゃなかったんだね」

「可愛い格好しているのに凄いわね」

リッカとウィオラさんがわたしの服を触ったりして、不思議そうにする。

それから、わたしたちは街にやってきた理由などを話す。

街に来た理由はクマモナイトの件が3割、残りが街の見学と買い物だ。

「それじゃ、みんなは鍋やフライパンの調理器具を買いに来たんですね」

「まあ、目的は謎の鉱石だったんだけど。ドワーフの街、ルドニークに行くならって、知り合いにいろいろと頼まれてね」

もっとも、頼まれたのはわたしではなく、フィナとルイミンの2人だ。わたしもついでにクマハウス用の調理器具を買おうと思っている。

「それじゃ、うちで買っていきませんか? 元優秀な武器鍛冶職人が作った鍋ですよ」

「元は余計だ!」

「事実でしょう。でも、お父さん。ガザルとゴルドのナイフを見て武器を作りたくなったんじゃない? ユナちゃんの技術も凄かったし」

「……ふん」

リッカの言葉にロージナさんは肯定も否定もしなかった。否定はしなかったってことは、少しは武器を作りたいと思ったのかもしれない。2人のナイフを見て、やる気になってくれれば、少しはやってきた意味はあったかもしれない。せっかく、技術を持っているんだから、作らないともったいない。

わたしたちはロージナさんのお店で鍋やフライパンなどの調理器具を購入することになり、店内に移動する。わたしたちは 各々(おのおの) が調理器具を探し始める。

「ウィオラさん。これ全部ありますか?」

ルイミンは自分で探すのは早々に諦め、ウィオラさんに複数のメモを見せる。

「あら、多いわね」

「お母さんが、この街に来るって知ったら、近所に聞きに行ったんですよ。そしたら、こんなに沢山なメモが」

「お店としては嬉しいわね」

「でも、多すぎです」

ルイミンは手に握られているメモを見て項垂れる。

フィナのほうを見れば、リッカと一緒に調理器具を探している姿がある。

「リッカさん、これより少し大きな鍋はありますか?」

フィナのほうはティルミナさんに頼まれた自分の家の鍋が二個とフライパン、他の調理器具などを集めている。そして、見当たらない物をリッカに尋ねている。

「あるよ」

リッカは手際よくフィナに聞かれたサイズの鍋を見つけ出す。

「あとはお店と孤児院用の……」

「これは大きな鍋ね。大きな鍋は、あまり売れないから注文になってから作るんだけど」

リッカはフィナの持つメモを見ながら答える。

「それじゃ、他の店に行かないとだめですね」

「フィナちゃんたちは、いつまでこの街にいるの?」

フィナはリッカに尋ねられて、わたしのほうを見る。

「特に決めていないけど。数日はいるつもりだよ」

わたしがフィナの代わりに答える。

街を見学するつもりでいるし、せっかくだし、鍛冶職人が参加する試しの門が開くイベントは見てみたい。できれば参加してみたいけど、わたしが参加して大騒ぎになるのも困る。そもそも、わたしに頼むような鍛冶屋がいるとは思えない。

「それなら、注文してくれれば、それまでにはお父さんに作ってもらうよ」

「でも、代金が高くなるんですよね」

たしか、店に入ったときに注文で作ると別料金がかかるようなことを言っていた。わたしと違ってお金に細かいフィナは特別料金が気になるようだ。面倒くさがりなわたしだったら、気にしないで頼んでしまう。少しはフィナを見習わないといけないね。お金は有限だ。大切に使わないといけない。

フィナの言葉にリッカはウィオラさんのほうを見る。

「ゴルドとガザルの知り合いから、別料金はもらえないよ」

「ってことだから、通常価格で大丈夫だよ」

「ありがとうございます。それなら、お願いします」

「それにルイミンちゃんのほうも作らないといけないみたいだしね。すこし、割り引きをさせてもらうわね」

ルイミンのほうを見ると購入する調理器具が山積みになっている。何人分っていうか何世帯分になるのかな?

「あれ、トンカチも購入するの?」

鍋などの中にトンカチや釘なども混じっている。

「メモの中に混じってました。お母さん、いろいろな人に聞いたみたいです」

まあ、エルフの里には鍛冶屋はないから、こんなときでもないと買えないのだろう。

クリモニアや王都でも買えるけど、わたしもクマハウスで使う鍋などを買っていくことにする。もちろん、たくさん買うので安くしてもらう。

「それじゃ、これからフィナちゃんたちは街を回るんですね」

このあとは適当に街をふらつく予定だ。

そんなわたしたちにリッカが街の案内を申し出てくれる。でも、道案内には不安だけど、ルイミンがいるし、リッカには仕事があるよね。

「仕事はいいの?」

「お母さん」

リッカはねだるようにウィオラさんを見る。

「いいわよ。行っていらっしゃい」

「お母さん、ありがとう」

ウィオラさんの許可ももらい、リッカが街を案内してくれることになった。

買うことになっている鍋などは全部揃ってから、引き取ることになった。ロージナさんは鍋など、作ることになったリストを見て、ため息を吐いた。

「お父さん、頑張ってね」

「おまえは俺に剣を作らせようとしたんじゃないのか?」

「今は鍋だよ。頑張って鍋を作って、お金を稼いでね」

リッカはロージナさんに鍋などの調理器具を作るように言い、店番はウィオラさんに任せ、わたしたちと一緒に店をでる。

そして、しばらく歩き出すと「クマだ」「なんだ、あの格好は」「クマさん?」などと、いつもの声が聞こえてくる。もちろん、わたしは聞こえない振りをして歩く。

「…………」

「…………」

フィナもルイミンもスルーする。でも、1人だけスルーできない人物がいる。

「えっと、ユナちゃんはどうして、そんな格好しているの?」

リッカが周囲をみながら尋ねてくる。その言葉にフィナとルイミンは「そのことを聞いちゃ駄目だよ」とジェスチャーをしている姿がある。たしかに聞いてほしくないけど。もしかして、2人に気を使わせている?

「もしかして、聞いちゃ駄目だった?」

「まあ、どっちかと言えば聞いてほしくないけど」

「でも、みんなユナちゃんのことを見ているから、気になって」

リッカは恥ずかしそうに周囲に目を向ける。すれ違う人や遠くにいる人がわたしたちのほうを見ている。

「きっと、ドワーフ、エルフ、人族、クマと。みんな種族が違うから、珍しいんだよ」

わたしはクマさんパペットでリッカ、ルイミン、フィナ、最後に自分を指す。4人とも人種が違うから、目立っているだけだ。だから、決してわたしだけのせいではない。

「ユナお姉ちゃん……」

「ユナさん……自分で、クマって」

フィナとルイミンに呆れ顔で見られる。

だって、わたしを人族に入れたら、それはそれでツッコミが入ったような気がする。

「まあ、ユナちゃんが話したくないならいいけど。目立つね。みんなは平気なの?」

「わたしは大丈夫です。慣れました」

慣れたと笑顔で言うフィナ。慣れたってなに? 見られること? 恥ずかしいこと?

「わたしは慣れないです。なにか自分が見られている気がして」

ルイミンはモジモジしながら、周囲を見る。

「まあ、この街だとユナちゃんの格好は珍しいからね。王都だと、ユナちゃんみたいな服を着ている人はたくさんいるの?」

リッカの言葉にフィナとルイミンはお互いの顔を見る。

「わたしは王都には一回しか行ったことがないので」

「わたしも数回しかないので」

2人は王都にはクマの着ぐるみを着た人はいないことを知っているのに、誤魔化そうとする。わたしは大丈夫だから、素直に一人もいないって言えばいいよ。クマさんは物陰で寂しく泣いているから。

「そうなんだ。でも、たくさんいたら、可愛いかもね」

もし、冒険者や王都の住民たちが、わたしのような着ぐるみの格好した人であふれ返ってたら、想像しただけで、わたしの精神が削られていく。

とてもじゃないが、仲間が増えたと喜べない自分がいる。

それに、そんなことになれば、人類の服装の歴史の終わりを迎えてしまう。