軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

396 クマさん、ナイフを見せる

クマモナイトのことが一歩前進した。

まさか精霊石が変化したものとは思わなかった。しかも、持ち主の魔力で変化するとは。てっきり、神様が用意したものだと思っていたけど、違ったのかな?

だけど、クマモナイトがクマ属性の強化アイテムだとすると持っているだけでいいのかな? それとも加工が必要なのかな。わたしはロージナさんとリッカが持っている丸い鉱石に視線を向けて尋ねる。

「精霊石ってどうやって使うんですか?」

「詳しいことは、そこにいるエルフの嬢ちゃんに聞けばいいじゃろう。精霊石についてはエルフのほうが詳しい」

ロージナさんはわたしの横にいるルイミンのほうを見る。

なんと、こんなに身近にクマモナイトのことを知っている人物がいたとは。わたしはルイミンに視線を向ける。でも、ルイミンは首と手を大きく横に振る。

「お爺ちゃんなら知っていると思うけど、わたしは分からないです」

どうやら、ムムルートさんに尋ねないといけないらしい。まあ、クマモナイトのことは急ぎでもないし、帰りにエルフの里にルイミンを送るので、そのときにムムルートさんに尋ねればいい。

でも、クマモナイトの情報を得られるとは思っていなかったから、ドワーフの街に来て良かった。初めからムムルートさんに聞けば良かったけど、ムムルートさんが知っているとは思わなかったので仕方ない。

あとは街を見学して、鍋を購入すれば目的は終了だ。

「それにしても、ガザルの奴も精霊石のことを知らないとは、勉強不足だな。連れ戻して鍛え直すか」

「知らないのはお父さんが教えなかっただけでしょう。自分の教育不足をガザルのせいにしたら可哀想よ」

リッカはガザルさんを庇う。それにしても、2人の会話からして、やっぱりガザルさんとゴルドさんの師匠なんだよね。

「ロージナさんって、ガザルさんとゴルドさんの鍛冶職人の師匠なんですよね?」

「ああ、一応な。いろいろと教えてやった」

「それじゃ、どうして、この店には剣が一本も無いんですか? 店には鍋やフライパンが並んでいるし、ゴルドさんもガザルさんもそんなこと言っていなかったし。もし、聞いちゃいけないことだったら、ごめんなさい」

「それは……」

ロージナさんは言い難そうに横を向く。もしかして、やっぱり、言い難いことだったみたいだ。

「お父さん。もう、話したら? もう、隠し切れないよ。ユナちゃんが帰れば、3人には知られることになるんだし」

「もしかして、怪我とか?」

「違うよ。お父さんは」

「リッカ!」

ロージナさんが止めようとするが、リッカは口を開くのをやめない。

「お父さんはゴルドとガザルが街を出ていって、落ち込んじゃったんです。手塩にかけて育ててきた弟子が可愛くて、仕方なくて、そんな2人がいなくなって」

「ち、違うぞ。別に落ち込んでいないぞ」

「なにが違うの? ゴルドがネルトと出ていったときなんて、何日もお酒を飲んでいたじゃん。それから、ガザルが出ていったら、月に一本しか剣を打たなくなって、最後は抜け殻のようになっていたよね」

「それは思い通りな剣が作れなかったからであって」

「2人がいなくなったからでしょう」

「そんなことは」

もしかして、ジェイドさんが言っていた月に一本しか作らなくなった話って、このこと?

ジェイドさんが知ったら、どう思うかな。

「それで最後にはお母さんには剣が作れないなら、鍋でも作れって怒られたんでしょう」

「それを言うなら、リッカ、お前も、ガザルがいなくなって、悲しそうにしていただろう」

「そ、そんなことないもん。今はお父さんの話をしているんだよ」

ロージナさんとリッカが頬を膨らませながらお互いの顔を見る。

どうやら、ゴルドさんとガザルさんがいなくなったことで、やる気がなくなってしまったようだ。まあ、その気持ちは分からなくはない。モチベーションは大事だからね。

でも、武器を作ることができなくなるほど落ち込むって、それだけ2人を気にいっていたんだね。

「だから、新しい弟子を作れば良かったんだよ。そうすればやる気になったんだよ」

「そんなに簡単に弟子が見つかるわけがないだろう」

「お父さんが厳しいからだよ。誰も初めからゴルドやガザルと同じようにはできないよ」

「厳しくしないでどうする」

2人は言い合っている。言いたいことを言い合えるのは仲が良い親子だ。わたしが微笑ましく2人を見る。でも、フィナとルイミンはどうしたらいいか、困っている。喧嘩じゃないから大丈夫だよ。

ロージナさんとリッカが言い合っていると、部屋の中に誰かが入ってくる。

「店の方まで声が聞こえてきたよ。誰もいなかったから、いいものの。恥ずかしいから、2人とも大声は出さない」

「お母さん!?」

短い髪をした女性のドワーフがロージナさんとリッカを見ている。どうやら、リッカの母親らしい。リッカの母親は部屋を見渡しながら、わたしたちのところにやってくる。

「それで2人は、なにを大きな声で騒いでいるの?」

「お父さんが悪いんだよ」

「リッカだろう」

2人が睨み合う。

リッカの母親は諦め顔になると、わたしたちに視線を向ける。

「それで、その可愛らしい格好をした女の子たちは?」

「ユナちゃんとフィナちゃんはゴルドとネルトと同じ街から来たんです。それから、ガザルのことも知っているんだって」

リッカがわたしたちのことを簡単に説明する。

「ゴルドとガザルの知り合い?」

「2人にはお世話になっています」

「ゴルドとガザル、服でも作っているの?」

母親は驚きの表情を浮かべながら、わたしのクマ服を見る。

「ナイフとかを作ってもらっています。この格好はゴルドさんとガザルさんは関係はないです」

「驚いたよ。2人が、そんな可愛らしい服を作っていると思ったよ」

どうしたら、そんな考えになるかな。

髭を生やしたドワーフの2人が、クマの着ぐるみを作っているなんて想像もしたくないよ。細かい作業は得意そうだから、上手に作れそうなのが怖い。

そして、わたしたちは簡単な自己紹介をする。リッカの母親でウィオラさんと名乗る。

「そういえば、ユナちゃんはゴルドとガザルが作ったナイフを持っているんですよね。2人が作ったナイフを見せてもらうことはできますか? 2人がちゃんと仕事をしていることを知れば、お父さんもやる気が出るかもしれないし」

「わたしも見てみたいね」

リッカの言葉にロージナさんは何か言いたそうにするが、ウィオラさんもリッカの言葉に賛同するので、口を閉じる。

「ゴルドさんのは解体用のナイフだけど、いい?」

「どんな種類の武器でも見れば、どんな仕事をしているか分かる」

リッカに尋ねたのにロージナさんが答える。どうやら、ロージナさんも2人が作ったナイフを見たいみたいだ。

わたしはクマボックスからガザルさんが作ってくれたくまゆるナイフ(ミスリルナイフ)を取り出し、フィナはアイテム袋からゴルドさんに作ってもらったミスリルナイフを取り出し、テーブルの上に置く。

ロージナさんがフィナの出したゴルドさんのナイフを手に取る。

「こっちが解体用のナイフか? それじゃ、ゴルドが作ったナイフか」

鞘からナイフを抜いて、剣身を見る。

「……これはミスリルを使っているのか」

ロージナさんは剣身を見ただけで、一発で言い当てる。

「嬢ちゃん。少し試し切りをさせてもらっても構わないか?」

「えっと」

ロージナさんはナイフを出したフィナに尋ねる。尋ねられたフィナはわたしに視線を向ける。それに対して、わたしは小さく頷く。

「はい、どうぞ」

フィナから許可をもらうとロージナさんは立ち上がり、近くにある引き出しから、何かの動物の皮らしき物を取り出す。そして、戻ってくると動物の皮をスーっとナイフで切る。動物の皮やナイフを何度も見る。

「ゴルドのやつ、成長しているな。腕が落ちているようなら、呼び寄せて、修業のやり直しをさせてやろうとしたのに」

ロージナさんはそんなことを言いながらも、成長している弟子が嬉しいのか、頬が緩んでいる。ロージナさんはナイフを布で拭き、鞘にナイフを戻す。

「わたしも見させてもらっていいですか?」

リッカがフィナにお願いして、ナイフを手にする。

「本当に綺麗です。お父さんを超えたんじゃないかな」

「ふん、まだまだだ」

ロージナさんはリッカの言葉を否定する。

「でも、どうして嬢ちゃんみたいな小さな女の子がミスリルナイフを持っているんだ。簡単には買えないだろう。もしかして、お金持ちのお嬢様か?」

その言葉にフィナは否定する。

「その……うちは貧乏です。このナイフはユナお姉ちゃんに買ってもらったんです」

貧乏ってことはないでしょう。ゲンツさんもいるし、ティルミナさんも働いている。もしかして、昔の感覚が抜けていないのかな?

ミスリルナイフを買ってあげたときも怒られたし。

「嬢ちゃんが、ミスリルナイフを……」

「この子のお父さんが冒険者ギルドで働いていて、一緒に解体をするんですよ。それで、フィナにはわたしが倒した魔物や動物の解体をお願いしているんです」

「だからと言って、ミスリルナイフは必要ないだろう」

「まあ、そこはミスリルナイフじゃないと、解体できなかったので」

「なんだそれは?」

「…… 黒虎(ブラックタイガー) です」

「…………」

短い沈黙が訪れる。

「嘘ではないんだな」

ゴルドさんとガザルさんの手紙を信じているのか、 黒虎(ブラックタイガー) のことも半信半疑っぽかったけど、信じてくれたみたいだった。

次にロージナさんは、柄が黒いくまゆるナイフを手に取る。同じ物を出す必要はないと思ってくまきゅうナイフは出していない。

「クマ?」

ロージナさんは柄の部分に彫られているクマとわたしを見比べる。

なんですか? クマですよ。ガザルさんが彫ってくれたんですよ。

ロージナさんは柄の彫りものを見てから、ゆっくりと、鞘からナイフを抜く。

「こっちもミスリルナイフか。でも、こっちは戦闘用だな」

ロージナさんはわたしにフィナに頼んだのと同じように試し切りをしてもいいかと聞かれるので、フィナと同様に許可を出す。

「嬢ちゃんはこのナイフを扱えるのか?」

「一応。ガザルさんからは、認められていますよ」

アイアンゴーレムを試し切りをしたときに、褒めてくれた。褒めてくれたってことは認めてくれたってことだよね。

「嬢ちゃんのことを少し試させてもらっていいか?」

「試す?」

ロージナさんは席を外すと、鉄の細い棒を持ってくる。

えっと、もしかして、鍛冶職人って確かめるのが好き?

しかも、そんな細い鉄の棒?

見た感じ、直径1cmあるかないか、ぐらいの鉄の棒だ。ミスリルナイフでアイアンゴーレムの腕を斬ったことがあるわたしにしたら、しょぼいテストだ。

「ガザルとゴルドの目が正しいかの確認だ。別にできなくても文句は言わん。ただ、ゴルドとガザルが優秀と言うなら、このぐらい出来るだろう。それに 黒虎(ブラックタイガー) の件も分かる」

ロージナさんは棒を持つとわたしの前にやってくる。

「もしかして、持ったまま斬るの? 危ないよ」

「実力があればできるだろう。それに実力を見るにはこれが一番だ。俺は手に力を込めない」

ロージナさんは本当に軽く握る感じで鉄の棒を握る。引っ張れば簡単に引き抜けるほどだ。

「切れずに鉄の棒が吹っ飛ぶのは論外だが、斬ったときに俺の手に伝わる振動が少ないほどいい。やるか?」

これはガザルさんとゴルドさんがわたしのことを優秀な冒険者と言ってくれた信用の問題にもなる。だから、断ることはできない。わたしはそのテストを受けることにする。

ナイフを手にして、ロージナさんの前に立つ。

「魔力を流してもいい?」

「ああ、それを含めて嬢ちゃんの実力だ」

ロージナさん、怖くないのかな。わたしだったら、実力も分からない人に対して、こんなことはできない。ロージナさんは真剣な目でわたしを見ている。

わたしはくまゆるナイフに魔力を流す。

そして、ロージナさんが持つ鉄の棒に向かって斜めに振りおろした。