軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

390 クマさん、ルドニークの街に入る

馬車の御者台にはジェイドさんとトウヤが座り、馬車を運転する。他のメンバーは後ろの荷台に乗る。

「でも、本当に鍋を買いに行くの?」

メルさんは、わたしでなくフィナとルイミンに尋ねる。わたしの言葉が信じられないのかな?

「はい。お母さんにお鍋を頼まれました」

「わたしも、お母さんや村のみんなに頼まれました」

フィナとルイミンはわたしの言葉を肯定してくれる。そんな2人の言葉を聞いて、メルさんはため息を吐く。

「本当なのね。てっきり、ユナちゃんのことだから、仕事だと思ったのに。凶悪な魔物がいるとか」

「そんなところに行くなら、フィナたちは連れていかないよ。それになんですか、その凶悪な魔物って」

「だって、ユナちゃんが行く先々にとんでもない魔物がいるでしょう? ゴブリン討伐に行けば、滅多にいないゴブリンキングとの遭遇。それにブラックバイパーでしょう」

メルさんは指を折り曲げながら、答えていく。

「ブラックバイパーは違いますよ」

「でも、自分から向かったでしょう」

「それは……」

「さらに、バーボルドたちが倒すこともできなかったゴーレムもいたし」

指がまた一本、折曲がる。

一瞬、バーボルドって誰? って思ったけどゴーレムって単語でバカレンジャーのことだと思いだした。

「それに、カリーナちゃんの件もそうだし」

メルさんは巨大なスコルピオンのことを言っているみたいだ。

それにメルさんが知らないところでは魔物一万、クラーケン、ワイバーンまでいる。そう考えると、わたしが行く先々で魔物が現れるね。

だからと言って、それはわたしが呼び寄せているわけじゃないよね。ほとんどが人助けだ。

「それと、ユナちゃん。ありがとうね。防具がいい感じに作れたよ」

メルさんはカリーナの話で思いだしたようで、腕を曲げると、袖口を捲り、手首を見せてくれる。そこには銀色の篭手のようなものが付けられていた。

「もしかして、スコルピオンの甲殻?」

銀色はあり得ないので彩色したみたいだ。

「ええ、加工してもらって作ってもらったの。強度が高いのに軽いから、魔法を使うわたしでも邪魔にならないわ。まあ、わたしは接近して戦うことはないから、必要はないんだけど。もしものことを考えるとあったほうがいいからね」

「わたしは手首と足に作った」

セニアさんが手首と足を見せてくれる。セニアさんの防具は黒い。

「トウヤを蹴るのに便利」

「蹴るためのものじゃないだろう!」

御者台に座っているトウヤが声をあげる。どうやら、話が聞こえていたらしい。

「でも、今まで着けていた防具より軽いから、動きやすくなったよ」

ジェイドさんが御者台の上で腕をクルクルと回す。どうやら、ジェイドさんも装備しているみたいだ。

「あと、知り合いの冒険者が欲しいっていったから、甲殻の一部は売っちゃったけど、良かったんだよね」

「あれはメルさんたちにあげたものだから、好きにしていいよ」

わたしが持っている巨大なスコルピオンはジェイドさんたちにあげた分以外は手付かずだ。わたしはチラッとフィナのほうを見る。小さなスコルピオンは解体はしたし、巨大なスコルピオンもできるかな?

想像をしてみる。自分の身長以上のスコルピオンを解体するフィナ。

うん、無理だね。失敗したら、甲殻に押しつぶされてしまう。

「まあ、そのおかげでトウヤのミスリルの武器の資金の一部ができたけどね」

それはなによりだ。

「トウヤはユナちゃんに感謝しないといけないね」

「うぅ」

「ほら、ユナちゃんにありがとうって」

「うぅぅぅ」

後ろ姿だけど、悩んでいるのがわかる。

「別にいいよ。あれは約束であげたんだから、約束さえ守ってもらえれば」

でも、トウヤは関係なく口を開いた。

「じょう、嬢ちゃん。あ、ありがとうな」

そんなに恥ずかしいなら、言わなくてもいいのに。

あれは口止め料でもあり、大量に魔石も貰った。物々交換でもある。だから、お礼を言われるようなことではない。

でも、もしかして、わたしが思っている以上に高く売れたとか?

そして、馬車はルドニークの街に到着する。

ルドニークの街は鉱山に作られた街であり、山が2つあり、その2つの山の麓に街がある感じになっている。

街の入り口で、水晶板にギルドカードをかざして中に入る。そのときに、わたしの格好を見た門番のドワーフが長い髭を触りながら、怪訝そうな顔をしていたけど、無事に街に入ることができた。

これもジェイドさんたちと一緒のおかげかな?

馬車は進み、街の中に入っていく。

わたしは馬車の小窓から外を覗くと、ルイミンの言葉じゃないけどドワーフがたくさんいる。背が低いので、遠くから見るとガタイのいい子供と勘違いしてしまう。

久しぶりに異世界にいるって感じる。ドワーフが住む街だから、石造りの家が多いかと思ったけど、そんなことはなく、普通の建物も多い。

「もしもの場合があるから、鍛冶屋は石造りの建物が多いわよ」

それって火事ってことかな。鍛冶屋は火を使う仕事だ。周りの家に火が移ったら大変なことになる。

わたしたちは馬車を預けるために中心街から離れていく。

街には馬車や馬を預ける場所がある。お金はかかるが、預けておけば馬の面倒を見てくれる。宿屋によっては預かってくれるところもあるが、スペースの問題があり、馬車を預けられない宿屋のほうが多い。

だから、馬車や馬を預かる仕事が成り立つ。

馬車は移動して、大きな小屋の前にやってくる。人がいて、ジェイドさんと会話をする。ジェイドさんは馬車から皆に降りるように言い、全員が降りると、馬車を小屋の中に入れる。そして、しばらくすると小屋からジェイドさんが出てくる。

「それじゃ、宿に向かうか」

馬車を預けたわたしたちは歩いて宿屋に向かう。

宿屋はメルさんたちと同じ宿屋に泊まることになっている。宿屋を探さないですむので、断ったりはしない。

「宿屋は遠いの?」

あまり、長く歩きたくない。やっぱりと言うべきか、すれ違うドワーフからも「くま?」「クマ?」「熊?」と囁かれている。

ドワーフから見てもクマの着ぐるみは、やっぱり珍しいみたいだ。

「宿は近くにあるが、空いていなかったら、歩くことになる」

それは仕方ない。

馬車を預ける場所から近い宿屋ほど、埋まっていく。そして、一番近い宿屋は部屋が1つしか空いてなく。次の宿屋に行くことになった。

わたしたちは部屋を3つ取ることになっている。ジェイドさんとトウヤ。メルさんとセニアさん。そして、わたし、フィナ、ルイミンの三部屋になる。

メルさんはわたしたちと同じ部屋にしようとしたが、丁重にお断りした。

そして、部屋は無事に次の宿屋で確保できた。

「うぅ、ユナちゃんと同じ部屋が良かったのに」

「くまゆるとくまきゅうがもれなく付いてきたのに」

メルさんとセニアさんが残念そうにする。ちゃんと部屋が空いていて良かった。同じ部屋にならなくてすむし、他の宿を探さないですんだ。

わたしたちは三人部屋を借りて、部屋を確認する。

「ユナお姉ちゃん、宿代は本当に良かったんですか?」

「お金なら、お母さんから預かっているよ」

2人の宿代の支払いをわたしがしたことを気にかけている。

「別に気にしないでいいよ。フィナを連れてきたのはわたしだし、ルイミンは道案内してもらったしね」

「ユナお姉ちゃん、ありがとう」

「ユナさん、ありがとうございます」

そもそも、初めから2人に宿代にしろ、食事代にしろ払わせるつもりはない。払うのは 大人(・・) であるわたしの役目である。

わたしたちは部屋を確認すると、早めの夕食を食べることにする。

宿屋を経営しているのは、もちろんドワーフになる。当たり前だが、全ての住民が職人ってわけじゃない。農業をする者もいれば、宿屋を経営する者もいる。

「ああ、腹が減った。早く注文しようぜ」

全員、トウヤの言葉に同意なので、食事を注文する。

「ユナちゃんは明日は鍋を買いに行くの?」

「行くけど。鍛冶屋にも行く予定だよ」

「鍛冶屋?」

「ガザルさんの師匠に手紙を預かっているからね。渡しに行く予定になっているよ」

わたしの口からガザルさんの名前が出ると、トウヤが嫌なことを思いだしたかのような顔になる。

「ガザルさんの師匠って誰だい?」

「えっと、たしか。ロージナって言ったかな?」

わたしは思い出しながら答える。

「ロージナ? もしかして、あのロージナ?」

「ジェイドさん、知っているの?」

あのロージナと言われてもわたしには分からない。

「有名な人だよ。この街でも三本の指に入る鍛冶職人だよ。そうか、ガザルさん、ロージナさんのお弟子さんだったんだね。それなら、あの技術も分かるね」

どうやら、ガザルさんの師匠はこの街では有名らしい。

「それじゃ、トウヤの剣もロージナさんのところで作るの?」

「いや、俺たちのミスリルの武器を作ってもらった鍛冶屋に行くつもりだ。いきなり俺たちが行ってもロージナさんが作ってくれるわけがない。それに予約も無しに作ってくれないよ。話によると、一ヶ月に一本しか作らないって話だし」

「そうなの?」

「まあ、噂だけどね。作って満足がいかなかったら、破棄するって話だし」

どこの陶芸家よ。わたしの頭の中で、満足がいかない皿などを叩き割る陶芸家が浮かぶ。

鍛冶屋だから、溶かすのかな?

「そんな有名な鍛冶屋さんなんだ」

「ユナちゃん、ガザルさんの知り合いなら作ってもらえるかもよ?」

う~ん、武器ならガザルさんにナイフを作ってもらったから不要だ。でも、最近、普通の剣も欲しいかなと思い始めている。でも、作ってもらうなら、ガザルさんにお願いするつもりでいる。

それにそんな有名な職人がわたしみたいなクマの格好をした女の子に作ってくれるとは思えない。