軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

356 クマさん、謎の島のことを知る (3日目)

フィナとシュリの二人はくまゆるとくまきゅうの手をにぎにぎしたり、お腹を擦ったりして遊んでいる。子犬と遊んでいるようにも見える。そんな二人を横目で見ながら、わたしはアナベルさんとジェレーモさんに町の話を聞きながら、時間を潰す。会話をしている間もジェレーモさんは資料を見ながら仕事をしている。

アナベルさんはジェレーモさんの監視をしつつ、わたしの相手をしてくれる。二人と他愛もない話をしていると、クロのお爺ちゃんがやってきた。

「クマの嬢ちゃんが来ていると聞いたんじゃが……」

部屋に入ってくると、わたしを捜すように部屋を見渡す。そして、すぐにわたしを見つけると、わたしのところにやってくる。

「昨日はうちの者が迷惑をかけたみたいで、すまなかったのう」

会った早々にクロのお爺ちゃんに謝罪をされる。

「クマの嬢ちゃんには迷惑をかけるなとは言ってあるんだが、どうしてもクマの嬢ちゃんにお礼をしたかったみたいでな。わしも居なかったせいもあって、止められなかった」

「ううん、漁師のみんなには美味しい物を食べさせてもらったし、子供たちも喜んでいたから、そんなに怒らないであげて。それに、今日はお言葉に甘えて、子供たちを船に乗せてもらっているからね」

「そう言ってもらえると助かる。だが、一応叱っておいたぞ」

わたしが頼むまでもなく、すでに言ってくれたみたいだ。

それにしても、クロのお爺ちゃんみたいに権力ある人や偉い人が味方だと心強い。クロのお爺ちゃんの一言があれば漁師のみんなもお願いを聞いてくれる。クロのお爺ちゃんには本当に感謝だ。

「それで、嬢ちゃんはどうして、ここにいるんじゃ?」

「ユナさんはクロのお爺ちゃんを待っていたんですよ」

わたしが答える前にアナベルさんが答えてしまう。

「なにか、いろいろと気にかけてくれたみたいだったから。お礼を言おうと思って」

「あまり役に立てていないようじゃったがな」

クロのお爺ちゃんがいろいろとしてくれなかったら、もっと大変なことになっていた。クロのお爺ちゃんの防波堤としての存在は大きい。いつまでも元気にあの漁師たちの防波堤になってもらわないと困る。防波堤が壊れでもしたらと思うと、恐ろしくもある。

「そんなことはないよ。クロのお爺ちゃんには感謝しているし、これからもお願いします」

「それが嬢ちゃんとの約束だからな」

わたしとの約束。クラーケンの討伐の件は広めないでほしい。わたしのことで騒がないでほしいなどのお願いを、クロのお爺ちゃんは守ってくれている。

わたしはいつまでもクロのお爺ちゃんには元気でいてもらうために、神聖樹の茶葉が入った小箱をテーブルの上に置く。

「これは?」

「疲れが取れるお茶です。疲れたときにでも飲んでください。効果は保証しますよ」

神聖樹のお茶の毒見……ではなく、効果はクリフで実証済みだ。疲れが取れて、仕事も 捗(はかど) っていると聞く。

「お爺ちゃんにはいつまでも元気でいてほしいから」

主にわたしのために。

「でも、飲みすぎには気を付けてくださいね。元気になったからといって、働き過ぎて、倒れても困るから」

「元気になるお茶か。それはありがたい。これを飲めば、若い衆をバシバシとシゴクことができるんじゃな」

クロのお爺ちゃんは嬉しそうに神聖樹の茶葉が入った小箱を受け取ってくれる。

もしかして、あげてはいけないものをあげてしまったかもしれない。心の中で若い漁師に謝罪しておく。頑張って立派な漁師になってください。

そんな神聖樹の茶葉が入った小箱を見ているジェレーモさんがいる。

「ジェレーモさんも欲しいの?」

「いや、いらない。もし、元気になって仕事を増やされても困る」

ジェレーモさんは首を左右に振って断る。

「俺は寝て、疲れを取る方がいい」

それにはジェレーモさんに同意だ。栄養剤で体力を回復するよりは、寝て回復させた方が断然いい。睡眠はわたしのアイデンティティーであり、ベッドの上でゴロゴロするのは正義だ。だから、アナベルさんがジェレーモさんのために欲しいと言っても、あげるのはやめよう。

「それで、定期報告ですが、なにか変わったことはありますか?」

わたしとの会話を終え、椅子に座るクロのお爺ちゃんにアナベルさんが尋ねる。クロのお爺ちゃんはカバンから紙を取り出して、アナベルさんに渡す。

わたしたちは部屋から出ていくタイミングを逃して、一緒に話を聞くことになった。シュリはそんな話には興味もなく、くまきゅうと遊んでいる。

まあ、暇そうにしていないだけ良かった。フィナはくまゆるを膝に乗せ、頭を撫でながら話を聞いている。

「この紙にも書いてあるが、とくに変わったことはない。水揚げも順調だ。困ったことと言えば、うちの馬鹿が例の島に近づいて、船を壊したことぐらいじゃ」

「大丈夫だったんですか!?」

クロのお爺ちゃんの報告に驚くアナベルさん。

「心配はない。船は沈んだが、運よく渦潮が収まって、他の船に助けられた。あれほど、あの島には近づくなと言ってあるのに、あのバカは」

「なんの話なの?」

島、渦潮、船の沈没。

断片的な言葉の会話だけではなんの話をしているか分からない。

「ああ、嬢ちゃんは知らなくて仕方ない。まあ、知っているのも海に出ている漁師ぐらいじゃからのう。今から5日ほど前に、突如島が現れたんじゃよう」

「島が現れた?」

普通、島は現れたりしないものだと思うんだけど。海底火山が噴火したって意味なのかな?

それとも、異世界特有の現象?

「島が現れるなんて、にわかに信じられないのですが」

アナベルさんはクロのお爺ちゃんの話には否定的みたいだ。まあ、普通に考えても島が急に現れたりはしないよね。

「毎日、海に出ている漁師が島があることに気付かないわけがなかろう。何十年も漁をしているわしも確認しているが、あそこには島は無かった」

クロのお爺ちゃんは断言する。

まあ、何十年も漁に出ていれば海は庭みたいなものだ。島みたいな大きなものを気付かないはずがない。

「たしか、過去にも同様のことがあって、漁師たちが騒いでいたっけ?」

話を聞いていたジェレーモさんが、思い出したかのように口を開く。

「ああ、前は3年前にあった。その前は5年前。その前もあった記憶がある。突如、島が現れては数日で消える不思議な現象がな」

引き潮で出てくる島ってことじゃないよね。

話によると沖の方だって言うし。

「島の位置を調べたが、前回と若干違うことも分かっている。過去に島があった場所の海を調べてみたことがあるが、海中には島らしきものは無かった」

「つまり、島が動いているってこと?」

「そうなるな」

「島、うごくの?」

くまきゅうと遊んでいたシュリが話に入ってくる。どうやら、島が動くことに興味をもったみたいだ。

「わしはそう思っておる。どこからともなく、島が流れてきて、どこかに流れていく」

浮島ってことなのかな?

大きさにもよると思うけど、浮島になっていて、周期的にミリーラの近くにやってくるのかもしれない。それなら、なんとなく説明がつく。

「その島って、前に現れた島と同じなんですか?」

「近くで確認したわけじゃないし、数年前のことだから、島の形なんて覚えておらん」

まあ、それはそうだ。わたしだって、数年前に一度だけ見た物の形なんて覚えていない。

「それに島には岩壁が多く、島の周辺には渦潮が多くあって、簡単に島に近付けないようになっている。過去に島に行こうとした者もいたが、いずれも船が沈没したりして、亡くなった者もいる。だから、あの島に近づくのは禁止にしたのじゃが、若い者が勝手に島に向かった。幸い、他の船に助けられて無事だから、よかったものの。興味本位で行動する者もおるから、困ったものじゃ」

クロのお爺ちゃんの言葉でも聞かない漁師もいるんだね。

それにしても、そんな島があるのか。もしかして、お宝でも眠っているのかもしれない。

「しかも、言い訳が宝があるかもと、バカなことを言う。誰も近付けない場所に、どうやって宝を置くんじゃ。しかも、移動する島に置いたら、取りに行けんじゃろうが。そんなこともわからんバカだから島に行こうとする」

すみません。わたしも宝があるかもと思ったりしました。

確かにクロのお爺ちゃんの言う通りだ。海賊がいたとして、動く島にお宝を隠したとしても、回収はできないし、他の者に取られる恐れがある。そんな島には常識的に考えて、お宝は隠さないだろう。

「お宝あるの?」

シュリが目を輝かせながら尋ねる。

「いや、ないのう。そんな物があれば、すでに他の者に取られているじゃろう」

クロのお爺ちゃんの返答にシュリは残念そうにする。そんなにお宝が欲しかったのかな?

わたしは欲しかったよ。

「そういえば、嬢ちゃんたちは船に乗らなかったのかい?」

クロのお爺ちゃんがくまゆるとくまきゅうを抱いているフィナとシュリに尋ねる。

「わたしたちは、前に来たときに乗せてもらいました」

「乗ったよ~」

「ダモンさんの船に乗せてもらったんですよ」

「ああ、あのときか。でも、あのときはまだ、肌寒かったじゃろう。今乗ると、あのときとは違った気持ちよさがあるぞ」

「そうなの?」

「そうなんですか?」

シュリとフィナが前のめりになる。

「ああ、違うぞ。季節によって海は、毎回違った風景を見せてくれる。1日違っただけでも、違う場合もある。海は不思議な場所じゃよ」

船にそんなに乗ったことがあるわけじゃないけど。クロのお爺ちゃんが言いたいことは伝わってくる。季節によって違うのはもちろんだし、空から降り注ぐ太陽の光だって違う。風の吹く力も違う。気持ちいい風もあれば、冷たい風もあるだろう。

風が強くて波が大きいときもあれば、穏やかなときもある。そして、時間によっては、さらに違う風景が見えるはずだ。朝行けば、日の出が見れるし、夕方に行けば夕日を見ることができる。昼間とは違った海の風景だ。

クロのお爺ちゃんの話を聞いて、2人は船に乗りたそうにし始める。

「あとで、ダモンさんに頼んでみようか?」

「本当ですか!?」

「いいの?」

わたしの言葉に二人は嬉しそうな表情をする。やっぱり、船に乗りたかったみたいだ。それをわたしに付き添って、挨拶周りに連れ回したのは可哀相なことをしたかもしれない。

二人の厚意に甘えてしまった。

「一応、頼んでみるけど。ダメだったらゴメンね」

勝手に約束をして、駄目だったときを考えるとぬか喜びをさせても可哀相だ。

「それなら、わしの船に乗せてやろう」

「クロ爺!?」

驚いたのはわたしでなく、ジェレーモさんだった。

「別にいいじゃろう。船に乗せるぐらい。それにダモンの奴の船に嬢ちゃんを乗せると、周囲が文句を言いそうじゃからな」

ああ、そんなことを言っていたっけ。

「お爺ちゃんのお船に乗れるの?」

「ああ、乗れるぞ。操縦も一番うまいぞ」

「いちばん!」

「まだ、若い者には負けん」

クロのお爺ちゃんは胸を張って、力強く言う。