軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

355 クマさん、挨拶回りに行く その2 (3日目)

冒険者ギルドを後にしたわたしたちは、お米と魚介類を定期的にお店に運んでもらっているお礼も兼ねて、ジェレーモさんに会いに商業ギルドに向かう。

わたしが商業ギルドの中に入ると、視線を集める。

「クマ?」「クマの嬢ちゃん?」「クマの嬢ちゃんが来たぞ」「海で泳いでいるって聞いたぞ」「あの格好でか?」「あの格好で海にいたらしいぞ」「暑くないのか」「さすがクマの嬢ちゃんだ」

なにが、さすがなのか分からないけど。わたしが海にいたことを知っているみたいだ。

それにしても、商業ギルドの中は思っていたよりも人が多く、活気がある。

わたしはジェレーモさんのことを聞くために、ギルド職員がいる受付に向かうと、見知った人がやってきた。

「騒がしいと思ったら、ユナさんが来ていたんですね」

現れたのはジェレーモさんをギルマスとして教育するために、クリモニアからやってきたアナベルさんだ。

まだ、ミリーラに居たんだね。

「アナベルさん、お久しぶりです」

「お話はうかがっていますよ。ユナさんのところで働いている子供たちを連れて、ミリーラに遊びに来たんですよね。子供たちに仕事を与えるだけでなく、働く者に対しての思いやる心を持つユナさんは優しいですね。他の商売している人たちにも見習ってほしいものです」

アナベルさんはチラッと周囲を見ると、商売をしている者と思われる人たちは視線を逸らす。

「一生懸命に仕事をしているお礼だよ。それに仕事を効率よくするには、息抜きも必要だからね」

それに毎日が同じ繰り返しではつまらない。人にはメリハリが必要だ。だから、年に数回は息抜きをさせてあげたいところだ。

「普通はお店の利益を考えると、できませんよ」

まあ、利益なんて赤字さえ出なければいいと思っているけど。みんなのおかげで売上は順調に伸びている(ティルミナさん 曰(いわ) く)。

だから、多少、休んでも何も問題はない。これで、気持ちをリフレッシュして仕事をしてくれればいい。

「でも、アナベルさん。まだ、こっちに居たんですね」

「ええ、クリモニアに戻ることも考えたんだけど。ミレーヌさんに頼んで、こっちの商業ギルドで働かせてもらうことにしたのよ」

「でも、結婚して小さなお子さんもいるんですよね?」

「ええ、だから、夫と子供もこっちに呼んだわ」

アナベルさんはチラッと、職員がいる方を見る。すると、奥にいる細身の男性職員が頭を下げる。

「もしかして、旦那さんですか?」

「ええ、夫も一緒に来てくれると言うし、ミレーヌさんもわたしがこっちにいると助かるって言うから、夫と子供を連れて一緒に来たの」

優しそうな男性だ。でも、アナベルさんに尻に敷かれていそうだ。でも、長い間離れているよりは、一緒に暮らした方がいい。子供のためにもなる。

「旦那さんも商業ギルドで働いていたんですね」

「商業ギルドで知り合って……。ユナさん。何を言わせるんですか!」

いや、別にそこまで聞いていない。勝手に話したのはアナベルさんだ。ノロケ話なんて、わたしだって聞きたくない。

でも、一緒に来てくれる旦那さんは人が良さそうだ。

「まあ、こちらに居ようと思ったのも、ギルド職員にお願いをされたからもあるんですけどね」

「アナベルさんが居なくなったあとのジェレーモさんを、俺たちじゃ制御できないです」

「アナベルさんにはいてもらわないと困ります」

話を聞いていた職員が会話に入ってくる。

どうやら、アナベルさんはミリーラのギルドでは必要とされているみたいだ。

「そんなわけで、残ったの」

「もしかして、ジェレーモさん。ギルマスとして、ダメなんですか?」

「そんなことはないわよ。ギルマスとしての素養はあるわよ。ただ、サボり癖があるのが問題ね。ちょっと目を離すとサボろうとするし、部屋から抜け出そうとする。でも、町の人望だけはあるのよね。顔も広いし、ジェレーモさんがお願いすれば、大概は了承してくれる。サボり癖さえなければ優秀なギルマスになるわよ」

そんなことをお爺ちゃんたちも言っていたっけ。

町の人に慕われていることは、上に立つ者にとって必要な素養かもしれない。

「そのジェレーモさんはいますか? 一応、挨拶に来たんですが」

「奥の部屋で仕事をしているわよ」

アナベルさんはそう言うとジェレーモさんがいる部屋に案内してくれる。でも、部屋の中に入ると、ジェレーモさんの姿は無く。あるのは机の上にある書類らしき山と、開いた窓だった。

「あの人は……」

頭を押さえるアナベルさん。

えっと、つまり、仕事を放り出して逃げたと。

「はぁ、ユナさんたちは椅子に座って待っていてください。今、飲み物を用意しますので」

「捜しに行かないで、いいんですか?」

「すぐに戻ってきますよ」

そう言うと、アナベルさんは部屋から出ていく。

「ユナお姉ちゃん、待つんですか?」

「どうしようか?」

アナベルさんはすぐに戻ってくると言っていたけど、先にクロのお爺ちゃんに会ってから、戻ってくるのもありだ。どうしようかと思っていると、シュリが騒ぐ。

「お姉ちゃん! ユナ姉ちゃん! 窓に変な人が」

「窓?」

窓を見ると、ジェレーモさんが入ってくるところだった。

わたしたちの視線とジェレーモさんの視線が合う。

「どうして、クマの嬢ちゃんたちがここに?」

「ジェレーモさんに挨拶に来たんですよ。そしたら、いないし」

「それはすまない。ちょっと、息抜きに外を歩いていた」

ジェレーモさんは窓枠を乗り越えて部屋に入ってくる。

「アナベルさん、怒っていましたよ」

「本当か? この時間なら自分の仕事をして、部屋に来ないはずなんだが」

この人はそんなことまで計算をして、抜け出しているの?

「たぶん、わたしのせいだね。わたしを案内するために部屋に入ったから、ごめんね」

「いや、嬢ちゃんのせいじゃないから、気にしないでくれ。そうだな。…………トイレに行っていたことにするから大丈夫だ」

「あら、窓から、トイレに行っていたんですか?」

ドアには飲み物を運んできたアナベルさんが立っていた。ジェレーモさんは困った表情をする。

「そのですね。トイレが、こっちの方が近かったから」

「ドアを出てすぐですよ」

アナベルさんは無表情で答えると、わたしたちの前に飲み物を置いてくれる。

「その緊急事態で」

「つまり、外でしたと」

「外でしたの?」

ジェレーモさんはアナベルさんの軽蔑する目とシュリの純粋無垢な目で見られる。

「し、してない。嘘だから」

さすがにシュリには嘘を言うことができず、素直に答える。サボったことはバレバレなのに、どうして嘘を吐こうとするかな?

ジェレーモさんはバツが悪そうに椅子に座ると、色々と考え出す。

「そういえば、クマの嬢ちゃんは遊びに来ているんだったな」

どうやら、話題を逸らしたいらしい。

わたしも話題逸らしはよくするので、人のことは言えない。だから、今回はジェレーモさんの話題逸らしに乗ってあげることにする。

「うん。いつも優先的に魚介類やお米を送ってもらっているって、アンズから聞いたから、お礼を言いに来たんですよ」

ミリーラからクリモニアに送られてくる魚介類は、わたしのお店へ優先的に回されているとアンズから聞いた。別にわたしから頼んだわけじゃないけど。アンズが言うには魚を見れば分かるらしい。

「それは俺の指示じゃない。町の住民が勝手にやっていることだ」

「そういえば、一度ユナさんのお店に送る魚で喧嘩している漁師の姿を見たことがありますね。俺の魚が大きいとか、身が締まって美味しいとか」

アナベルさんが思い出したかのように教えてくれる。良い物を送ってくれるのは嬉しいけど、喧嘩は止めてほしい。

でも、喧嘩を見たクロのお爺ちゃんが止めに入ったらしい。

本当にクロのお爺ちゃんには迷惑を掛けっぱなしだ。クロのお爺ちゃんが元気に長生きすることを願うばかりだ。神聖樹のお茶でもプレゼントしようかな。

「でも、働いている子供たちのために休みを与えて、遊びに来るなんて、どこかのギルド職員にも見習ってほしい」

どこかで聞いたことがある台詞をジェレーモさんが口にする。

「それはわたしのことですか? 休みなら3日前にあげたでしょう」

「あれは視察だろう。あっちこっちに顔を出して」

「ジェレーモさんが外に行きたいと言ったから、そのようにしただけです。それに現場のことを知っておくのもギルドマスターとしての役目です」

「だから、それは仕事だろ」

「でも、行った先でお酒を飲んでいますよね?」

「な、なんで、そのことを……」

「知っています。でも、息抜きとして思っていますから、怒っていないでしょう」

確かにお酒を飲んでいれば仕事であって、仕事じゃないかもしれない。問題はジェレーモさんの気持ち次第だろう。嫌々お酒に付き合うのと、喜んでお酒に付き合うのとでは違う。

わたしだって、ゲーム内で嫌々付き合うこともあれば、喜んで付き合うこともあった。

そう考えると付き合う相手次第ってことになる。

「ほら、馬鹿なことを言っていないで、仕事をしてください。そろそろクロのお爺さんが来るんですから、それまでに仕事を少しでも進ませてください。さっきまでトイレに行っていたのですから」

ジェレーモさんが話を変えたけど。結局はアナベルさんによって、元に戻ってしまった。

でも、わたしには気になる言葉があった。

「クロのお爺ちゃんが来るの?」

「海に関してはクロのお爺さんに任せていますので、定期的に報告をしてもらっているんです。主にクリモニアに送る魚介類についてですが。日によって捕れる魚の種類や量も変わってきますから、詳しい情報はどうしても必要になりますので、お願いしてギルドにお越しいただいています」

どうやら、クロのお爺ちゃんはここに来るらしい。

それなら、ここで待たせてもらってもいいかな?

「フィナ、シュリ。クロのお爺ちゃんに挨拶したいから、しばらくここにいてもいいかな? なんなら2人は散歩してきてもいいけど」

「シュリ、どうする? 外に行く?」

フィナがシュリに尋ねる。どうやら、フィナはシュリの意見を聞いてから決めるみたいだ。

「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんと遊んで待ってる」

シュリはくまゆるとくまきゅうが一緒なら、待つみたいだ。わたしは小熊化したくまゆるとくまきゅうを召喚してあげると、フィナとシュリはテーブルの上に乗せて遊び始める。

「あれ、嬢ちゃん。クマ、小さくないか?」

「そうね。ユナさんのクマは大きいと聞いていたけど。別のクマなの?」

「同じクマですよ。わたしのクマは普通のクマと違うから、小さくしたりできるんです」

「本当に凄い嬢ちゃんだな」

しばらく、待たせてもらうと、クロのお爺ちゃんがやってきた。