軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

357 クマさん、港にやってくる (3日目)

「ユナ姉ちゃん、お昼はどうするの?」

シュリがお腹を擦りながら尋ねてくる。確かに、小腹が空いてきた。食べ物ならクマボックスにたくさん入っているから、船の上で食べてもいいかもしれない。二人とも船酔いをしないようだし、問題はないはずだ。

でも、話を聞いていたクロのお爺ちゃんが別に提案をする。

「それなら、港で食べればいいじゃろう。今頃、嬢ちゃんが連れてきた子供たちが食事をしているはずじゃ」

クロのお爺ちゃんの話によれば、漁師のみんなが、今朝捕った魚などを昼食に準備しているとのことだ。船に乗ったあとの食事の用意までしてくれていたみたいだ。

港の近くにやってくると、美味しそうな匂いが漂ってくる。わたしのお腹が小さく「く~」と鳴く。わたしは隣を歩くフィナを見る。

「わたしもお腹が空きました」

どうやら、お腹の虫が鳴いたのを聞かれたみたいだ。

う~、恥ずかしい。

このクマ装備。防御が優れているんだから、お腹の音も遮断ぐらいしてほしい。乙女としては欲しい機能だ。

匂いに誘われるように港に到着すると、子供たちやティルミナさんたちが食事をしている姿があった。昨日に続き、漁師のみんなが魚や貝などを焼いたり、貝やワカメなどが入った味噌汁を作っている姿がある。

クロのお爺ちゃんは漁師たちのところに行くと、食事の交渉をしてくれる。漁師たちはチラッとわたしの方を見ると「好きなだけ食べてくれ」と言う。無事に食事にあり付けることになった。

「ユナちゃん。用事は終わったの?」

楽しそうに食べている子供たちの姿を見ているとティルミナさんがやってくる。シュリはティルミナさんに抱きつき、ティルミナさんはシュリの頭を撫でる。

「軽くだけど、挨拶はしてきたよ。それで、クロのお爺ちゃんの船に乗せてもらうことになって。ティルミナさんたちは食事ですか?」

「ええ、船に乗せてもらうだけじゃなく、食事も用意してくれたのよ。ここまでしてもらうと悪い気がしてくるわ」

ティルミナさんは困ったような顔をする。

それはティルミナさんに同意だ。お金を払っているわけでもないのに、子供たちを船に乗せてもらったり、食事を食べさせてもらったりしている。無償の厚意を受け取るのは抵抗がある。

「ねえ、ユナちゃん。この町でなにをしたの? ユナちゃんがトンネルを発見したことは知っているけど。それ以外にも、なにかあるわよね?」

ティルミナさんが疑うように尋ねてくる。

「ナニモナイデスヨ」

「本当?」

ティルミナさんの顔がわたしに近づいてくる。ティルミナさんは目を細めて、わたしの目をジッと見つめてくる。間違いなく疑っている目だ。目を逸らしたら負けなのはわかっていたけど、耐え切れなくなって、わたしは目を逸らしてしまう。

「ちなみに、娘たちは知っているのかしら?」

ティルミナさんは娘二人を見る。

「ユナお姉ちゃんがしたことですか? 秘密です」

「ひみつだよ」

おお、フィナとシュリがティルミナさんに逆らって、わたしの味方になってくれている。感動の瞬間だ。でも、これが反抗期の前触れじゃないよね?

「あら、お母さんにも教えてくれないの?」

ティルミナさんはじゃれつくように2人を抱きしめると、くすぐり始める。

「お、お母さん、やめてください。くすぐったいです」

「おかあさん、くすぐったいよ~」

「ほら、言わないと、もっとくすぐるわよ」

仲良し家族がじゃれ合う。ティルミナさんが病気だった頃にはできなかったことだ。見ていると微笑ましくなってくる。そして、同じように、その様子を微笑ましそうに見ているゲンツさんがいる。ゲンツさんも親子だけど。ゲンツさんが、あの輪に入ったら家族でも犯罪臭がしてしまう。それは本人にも分かっているのか、輪に入ろうとしない。

まあ、本当の父親でも母親と娘の輪の中に入るのは難しい。もし、わたしが父親にされたら、間違いなく殴っている。

「ユ、ユナお姉ちゃん、た、たすけてください」

「ユナ、ねえちゃん……」

わたしが微笑ましそうにフィナたちを見ていると、フィナとシュリが笑いながら、小さな手を伸ばして、助けを求めてくる。それを逃がそうとしないティルミナさん。じゃれあっているようにしか見えないけど、助けた方がいいのかな。

「町が魔物に襲われていたから、倒しただけですよ」

「そうなの?」

嘘は言っていない。クラーケンのことは濁しただけだ。

「はい。だから、少しばかり感謝されているんですよ」

わたしが説明すると、ティルミナさんはフィナとシュリを解放してくれる。笑い疲れたフィナとシュリは腰を下ろして、はぁはぁと息を切らしている。

「お母さん、酷いです」

「それは母親に隠し事をするからよ。まあ、ユナちゃんのことだから、とんでもない魔物を倒したと思うけど。そこは聞かないであげる」

ティルミナさんはわたしがお茶を濁したところを聞かないでくれる。本当のことを話しても信じてくれるかは分からないけど。

「でも、いろいろと納得がいったわ。町を歩いていると、お守りとしてクマの置物や小物が売っているんですもの。普通はそんな物は売っていないでしょう。神としてクマを信仰するなんて聞いたことがないですもの」

「…………」

今、ティルミナさんはなんて言ったかな?

聞き間違いだよね。きっと、聞き間違いだ。帰ったら、耳掃除をしないといけないね。

耳かきあったかな?

「ほら、わたしも買っちゃったわ」

ティルミナさんのポケットから、小さなクマが出てくる。

わたしの目がおかしいわけじゃないよね? わたしは目をこすってもう一度確認する。ティルミナさんの手の平には小さなクマが乗せられている。見間違いでなかったみたいだ。

クマには紐が通してあって、クマのキーホルダーみたいになっていて、カバンなどに付けられるようになっている。

「くまさんだ~、わたしもほしい!」

シュリがティルミナさんの手からクマのキーホルダーを奪い取る。

「えっと、売っているんですか?」

ティルミナさんの話によれば小物などを売っている場所で見つけたらしい。お守りとして売っていたらしい。効果は海に出ても、無事に帰ってこられるようにだと言う。

それを聞いて、わたしは思考が止まる。

何も考えたくなくなった。

「嬢ちゃん、すまない」

クロのお爺ちゃんの声でわたしの思考が再起動する。どうやら、クロのお爺ちゃんはわたしたちの話を聞いていたみたいだ。

「その熊は漁師たちのお守りみたいなものじゃ」

お守り、ティルミナさんもそんなことを言っていた。

「未だに海を怖がる者や不安に思っている者もいる。でも、そのクマのお守りで気持ちが落ち着くらしい。そのこともあって、熊のお守りを持って、海に出ると安全に漁ができると徐々に広まるようになったんじゃ」

お守りって、神様のことだよね? 神様に安全を願ったりするんだよね。熊がモチーフってことはわたしのことだよね? わたし、神様じゃないよ。

でも、お世話になっているクロのお爺ちゃんに頼まれると、文句を言うことができない。それにこんな熊のお守りで安心して漁に出られると聞くとダメとも言えない。ダメと言えば漁に出られなくなるかもしれない。精神的なことを治すのが難しいことぐらい、わたしにも分かる。

「えっと、他の街とかには広めないでくださいね」

そうお願いするのが限界だった。

「ありがとう」

本当に広めないでほしい。でも、熊のお守りって販売しても他の街から来た人からしたら、鼻で笑って購入はしないだろう。

わたしはクマのお守りを嬉しそうに持っているティルミナさんやシュリ、フィナを見る。

誰も買わないよね?

それから、食事をしながら、ティルミナさんに今日の予定を尋ねる。

「食事が終わったら、3つに分かれて行動する予定よ」

ティルミナさんの話では釣りをするグループと町を探索するグループ、それとクマハウスに帰って休むグループに分かれるそうだ。

クマハウスに帰るのは船酔いをした子や疲れた子や、眠そうにしている子を院長先生とニーフさんが連れて帰るとのことだ。そして、アンズ率いるミリーラのメンバーは町を見学したい子を連れて、町を案内するらしい。

最後に釣りをするグループはルリーナさんたち冒険者が一緒にいてくれるそうだ。ちなみに、ティルミナさんは釣りをする方に入るとのことだ。

「ユナさん!」

ノアがやってくる。手には料理が乗ったお皿がある。

口の中には食べ物が入っている。ノアは貴族のお嬢様なんだから、口に食べ物を入れたまま喋ったら駄目だよ。わたしはノアの膨らんだホッペをクマさんパペットで押す。

「な、なんですか?」

「美味しそうに食べているけど、お嬢様としてはどうかなと思って」

「ここでは貴族とかは関係ありません。みんなと一緒に食事をするところです」

それはそうだけど。初めて会ったときは、貴族のお嬢様らしかった気がするんだけど。もしかして、わたしと会って、変わったってことはないよね?

たぶん、わたしと会う前から、こんな性格だったんだろう。わたしはそう思うことにする。

それに引き換え、ミサやシアはお嬢様らしい振る舞いをしている。食べ歩きはせずにちゃんと座って食事をしている。

「そうだ。ユナさん。わたし、あとで釣りを教わるんですよ。初めてだから、楽しみです。大きなお魚を釣り上げてみせますね」

どうやら、ノアも釣りをするグループに入っているみたいだ。それにしても、ノアも海を満喫しているようだ。これもクリフやララさんがいないせいかな。

「ユナさんも釣りをするために、来たんですか?」

「わたしはフィナとシュリが船に乗りたいって言うから来ただけだよ」

「それなら、フィナもシュリも一緒に釣りをしませんか?」

少し離れた場所で料理を食べているフィナとシュリに尋ねる。

「釣りですか?」

「お魚を自分で釣るんですよ」

「お魚さんを釣るの!?」

シュリが釣りに興味を持ったみたいだ。

「誰が大きな魚を釣れるか、勝負をしませんか? お姉様とミサともするんですよ」

誘われたフィナとシュリは悩みだす。

釣りも興味あるけど、クロのお爺ちゃんに船に乗せてもらう約束もある。困ったようにわたしを見る。

「好きにしたらいいよ。なんだったら、クロのお爺ちゃんの船にはわたしだけで乗るよ」

「でも……」

断るのは抵抗があるみたいだ。

わたしがクロのお爺ちゃんにそのことを話すと。

「それなら、わしが教えてやろう。大きな魚が捕れる場所も誰よりも知っておるからのう」

そんなわけで、クロのお爺ちゃんには船に乗せてもらうだけでなく、釣りも教わることになった。