軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

348 クマさん、ミリーラに到着する (1日目)

クマバスを走らせていると、正面にトンネルの出口が見えてくる。

「みんな! そろそろトンネルを抜けるよ」

「本当!?」

「うみ?」

わたしが後ろに向かって言うと、暇そうにしていた子供たちの反応が大きくなる。

まあ、延々と代わり映えがしないトンネルの中を通っていたから仕方ない。

「ユナお姉ちゃん。うみなの?」

「トンネルを抜ければ見えると思うよ」

隣に座るノアとミサは前かがみになり、子供たちもクマバスの横から顔を出す。

「あまり、顔を出すと危ないよ」

クマバスはトンネルを抜けると、視界の先に海が広がる。

目の前には障害物がなく、道が続くので広がる海がよく見える。それに晴れているおかげでもある。トンネルを抜けたら、雨が降っていなくて良かった。

前回、フィナと来たときといい、日頃の行いが良いから、神様も晴れにしてくれたのかもしれない。日頃の行いは大切だね。

「海です」

「大きいです」

「すごい」

「うわぁ~」

子供たちが騒ぐ。それを院長先生やリズさん、ニーフさんが静かにするように言うが子供たちは興奮して、話を聞かない。

「院長先生たちの言うことを聞かないと、引き返すよ」

「え~~~」

「海に来るときの約束を忘れていないよね。自分勝手に行動しない。院長先生たちの言うことをちゃんと聞くことって」

「でも……」

「別に海は逃げたりしないから、大丈夫だよ」

わたしは子供たちを落ち着かせる。わたしが後ろの子供たちに言った言葉だったけど。隣に座っていたノアとミサは上げていた腰をゆっくり下ろしていた。

でも、目は輝かせながら、海を見つめている。

さて、このままクマバスを進ませていいのかな?

周囲を確認をすると、こちら側のトンネルの周囲も壁があり、道なりに壁が作られている。周囲に人がいる様子はない。

進んでいいのかな?

ちなみに後ろを見れば、クマの石像が立っているのは言うまでもない。前を見ているみんなは気づいていない。

前方を見ると建物が見える。わたしは道なりにクマバスを進ませる。

建物は他の街に行くための街道と繋がる場所に建っている。町をここまで広げるって言ったから、ここがミリーラの町の入口になるみたいだ。

検問所のような建物にやってくると、見覚えのある人が立っている。名前は知らないけど、初めてミリーラに来たときにいた門番の男性だ。男性は横から来るクマバスには気付かずに暇そうに欠伸をしている。そして、何気なく、わたしたちの方を見た瞬間、驚きの表情に変わる。

クマバスが近くに来るまで気付かないって、ちゃんと仕事をしているのかな。わたしはクマバスを止めて、顔を出して挨拶をする。

「久しぶり」

「……白クマ……クマの嬢ちゃんか? 久しぶりだな」

だから、なんで疑問形なのかな?

黒が白に変わっただけだよ。こんなに分かりやすい格好をしているのに、悩む理由がわからない。

「町の入口はここになったんだね」

「ああ、ここなら、トンネルから来る者、街道からやってくる者を同時に確認することができるからな」

「それにしては暇そうにしていたね」

「時間的に暇な時間になるんだよ。忙しいのは、朝一とトンネルの通行が閉まる時間だな。あとは来るのはまばらだから、比較的に暇になる」

「だから、欠伸なんてしていたんだね」

「見ていたのか」

男性は頭を掻いて誤魔化そうとする。

「それで、なんで今日は白クマなんだ。それにこの変な乗り物はなんだ? 馬もいないのになんで動いているんだ」

「変じゃありません。くまさんの馬車です」

「そうです。変ではないです」

わたしの代わりにノアとミサが否定してくれる。さらに後ろに乗っている子供たちも「くまさんだよ」「変じゃないよ」「可愛いよ」と言ってくれる。

擁護してくれるのは嬉しいけど。クマバスを変と思わないで、これが常識と思われても困る気持ちもある。正しい常識を教えるべきか、このままにするべきか悩むところだ。

「すまない。別に悪いとか言っているんじゃない。クマの嬢ちゃんらしい乗り物だと思っただけだ。それに白クマの格好も似合っている。嬢ちゃんらしい格好だ」

子供たちの抗議にあい、否定をする男性だけど。白クマ姿が似合っていると言われても、嬉しくない。だからと言って、似合っていないと言われても嬉しくない自分がいる。

「それで、このまま、この馬車?で行くのか? 行けば騒ぎになるぞ。それでなくても嬢ちゃんは有名人なんだから」

やっぱり、そうなのかな?

過去の出来事が思い出される。

クラーケンを討伐した翌日のお祭り騒ぎは大変だった。いろいろと声をかけられて、食べ物を持ってくる有り様だった。でも、フィナとタケノコを取りに来たときはそうでもなかった気がする。

もちろん、お礼は言われたりしたが、騒ぎにはなっていない。

「一応、嬢ちゃんの迷惑になることはしないことにはなっているが、全ての住民が守るとは限らないからな」

そう考えるとクマバスで移動しない方がいいかな?

ここから、クマハウスまでは歩いてもそれほどの距離ではない。それに子供たちもクマバスから降りたそうにしている。

「みんな、こっから歩いていこうか?」

「降りていいの?」

「いいけど。勝手にどっかに行ったら駄目だよ。ちゃんと院長先生たちの指示は従うんだよ。みんなが海に行きたいのはわかるけど。まずは泊まることになっているわたしの家に行くよ」

わたしは院長先生たちに子供たちのことを頼み、ノアとミサには子熊のバスに乗っているフィナたちにも伝えてもらうことにする。

「この馬車はどうするんだ?」

「アイテム袋に仕舞うから大丈夫だよ」

全員がクマバスから降りると、クマボックスにクマバスを仕舞う。

「本当に嬢ちゃんには驚かされることばかりだな」

わたしはおじさんに通行の許可をもらい。みんなのところに向かう。

「ユナちゃん、ここから歩いていくのね」

「あの馬車だと、目立ちますからね」

「でも、こんなに子供を連れて歩いていれば、変わらないと思うわよ」

ティルミナさんが周囲を見る。

たしかに、そう言われればそうかもしれない。でも、クマバスよりは目立たないと思いたい。

子供たちの方を見ると、嬉しそうに海を眺めている。「大きい」「これ全部水?」「しょっぱいんだぜ」といろいろと会話が聞こえてくる。クマバスで一瞬で通り過ぎるより、ゆっくりと海を眺めながら歩くのもいい。

こうやって、子供たちと一緒に歩いていると、幼稚園児や小学生の子供たちを引率する先生になった気分だ。園児を入れるカートがあったら、間違いなく幼稚園か保育園だったね。そんなことを言ったら、小学生高学年にあたる子供たちに怒られる。

年上組はちゃんと小さな子の手を握って、勝手に歩き出さないようにしているし、ちゃんと年長者の仕事をしている。自分たちだって、海に駆け出したいだろうに。

「ユナお姉ちゃん。海、いつ行くの?」

「う~ん、とりあえず、家に行ってからだね」

時間的に海を見に行くには微妙な時間帯だ。まだ、陽が沈んでいないとはいえ、遊んでいる時間はないと思う。家に付いたら基本的な説明をするつもりだし、説明が終わる頃には陽が沈んでいるかもしれない。

「遊ぶのは明日になるかな?」

「「「え~~~~~」」」

子供たちが駄々を捏ねるように口を尖らせる。

「これ、ユナさんを困らせてはいけません」

「はい」

「ごめんなさい」

院長先生が注意すると、素直に謝る子供たち。

わたしは子供たちの面倒は院長先生、リズさん、ニーフさん、冒険者たちに任せる。わたしはアンズのところに向かう。

「アンズはどうする? 家に帰る? それとも一緒に来る?」

「わたしが泊まる部屋はあるんですよね?」

「一人部屋じゃないけど、あるよ。セーノさんたちと一緒になるけど」

「それなら、一緒に行きます」

アンズは迷わずに答える。

「いいの?」

「はい。みんなの夕食を作らないといけないし、この時間に帰っても忙しいと思います。だから、明日会いに行きます」

アンズの言葉にセーノさんたちも頷いている。

そして、しばらく歩くとクマさんの顔が見えてくる。みんなは海を見ているから、クマハウスには気付かない。

クマハウスを見ていると、気になることがある。トンネルの周辺の伐採は、ほぼ終わっている。新しい建物もチラホラ建っている。でも、一ヶ所だけ、木々が伐採されていない箇所がある。それはわたしのクマハウスがある周辺だ。

前に来たときも伐採されていないとは思っていたけど、本当にわたしのクマハウスの周辺は整地もされていなく、木々が伐採されずにいる。

もしかして、邪魔者扱い?

そんなことを思って歩いていると、クマハウスに向かう道に到着する。

この登坂を真っ直ぐ進むとクマハウスがある。道を見ると、石畳が敷かれ、綺麗に舗装されている。そして、道の入口には関係者以外通行禁止の立て札もある。もちろん、勝手にクマハウスに来られても困るけど。こんな立て札があったのは知らなかった。

「みんな、こっちだよ」

海を見て、そのまま進もうとするみんなを止める。そして、全員がこちらを見る。

「くまさん?」

ここからだと位置的に3階と4階部分のクマが見える。足元は壁で隠れている。

「あのクマが、泊まる家だからね。もし、迷子になったりしたら、人に聞くんだよ」

もし、迷子になったとき、クマの家と尋ねれば、連れてきてもらえるはずだ。さすがにミリーラの町の人で、クマの家のことを知らない人はいないはずだ。

そして、わたしの言葉をちゃんと聞いたのか、聞いていないのか、子供たちはクマハウスに向けて走り出す。海よりもクマハウスに興味を持ったみたいだ。

喜んでもらえるのは嬉しいけど、海に勝つクマハウスって、どうなんだろう。

今回は海が目的だと言うことを忘れないでほしいところだ。

子供たちはクマハウスに向かって駆け出す。それをリズさん、ルリーナさん、ギルが追いかける。

「ミサ! わたしたちも行きますよ。くまさんファンクラブの会員として負けられません!」

「はい。ノアお姉さま」

ノアとミサの二人も駆け出していき、後ろにいたマリナとエルも走り出す。

なにか、ノアの口から変な言葉が聞こえたような気がしたけど。たぶん、気のせいだ。気にするのはよそう。

「ノア様、嬉しそうですね」

「まあ、楽しんでくれるのは嬉しいからいいけどね。フィナは行かないの?」

「わたしは前に来ていますから」

あのクマハウスを知っているのはフィナとシュリとミリーラ組ぐらいだ。

「娘たちから聞いていたけど。本当にクマの家なのね」

フィナと一緒に歩いているティルミナさんが呆れるように言う。シュリはゲンツさんの手を握って歩いている。

「ユナちゃんって、クマ関係の物を作るのをお願いすると嫌がるのに、自分では普通に作るよね」

「それは……」

ティルミナさんが痛いところを突いてくる。

確かに、クマの石像を作るのを嫌がったり、クマの制服のときも渋った。

でも、結構、自分でクマに関する物を作っている。

言い訳かもしれないけど。作るのが簡単だから仕方ない。それに強度は上がるし、他にもいろいろと恩恵が付加される。恩恵は無いよりはあった方が良いに決まっている。

その考え方が、わたしにクマの力を与えた神様の思惑通りかもしれないけど、仕方ない。

道を進むと子供たちが門の前でわたしを待っている。

クマハウスの家の周囲は壁があり、入口には門がある。勝手に入られないようにするためだ。

「ユナお姉ちゃん、早く」

「今、開けるよ」

わたしが門の扉を押すと扉が開く。その先には2つのクマハウスが出迎えてくれる。