軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

347 クマさん、ベアートンネルに到着する (1日目)

昼食も終え、わたしは出発する前に皆に伝える。

「もう少し、速度を上げるけど。騒がないでね」

運転席に座るわたしの隣にはフィナとシュリの二人でなく、ノアとミサの二人が座っている。

出発するときにノアが言っていた交代とはこのことだったんだね。フィナとシュリは小熊のバスの方に乗り、ノア、ミサがわたしの親クマのバスに乗ることになったみたいだ。

「ふふ、一番前です」

「騒いだら、戻ってもらうからね」

「ユナさん、意地悪です」

「それは嫌です」

ノアは口を尖らせるとくまゆるを抱きしめ、ミサはくまきゅうの頭を撫でる。

「騒ぐと危ないからだよ」

わたしはハンドルを握ると魔力を込めてクマバスの速度を上げる。いい感じだ。後ろに乗っている子供たちも元気に騒ぎだす。「速い、速い!」「凄い!」と楽しそうだ。どうやら、怖がっていないようだ。

隣に座っているノアとミサも大喜びだ。この速度でいけば、すぐにトンネルに到着ができそうだ。

でも、走り出してすぐに子熊のバスのライトがチカチカと点灯した。

なんだろうと思って、子熊のバスを横に付かせて走らせると。大人組から「速い!」って叱られた。

しかも、一番後ろに座っていた院長先生にも遅くしてほしいと言われたら、従うしかない。でも、ノアや子供たちが「速い方がいい」と助け船もあって、少しだけ速度を上げる許可は貰えることができた。

「残念です。もっと速く走ってほしかったです」

わたしの左右に座っているノアとミサが残念そうにする。

「でも、馬車よりは速いから」

「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんより、遅いです」

そこは比べちゃ駄目でしょう。やろうと思えばくまゆるとくまきゅうと同じぐらいの速度は出るけど。そんなことをやれば大人組に叱られる。

そして、出発してからクリモニアに行く馬車ともすれ違っている。すれ違う馬車は正面からわたしのクマバスが通ると驚いて立ち止まる。わたしも正面に馬車が見えれば速度を落とすようにしている。相手の馬を驚かせて、暴走でもしたら大変だ。さすがにくまゆるとくまきゅうに乗っているみたいに道を外して、避けるわけにもいかないので、速度を落として馬を驚かせないようにしている。

馬車に乗っている人はクマバスのことは初めは驚くが、クマバスから子供たちが手を振ると、手を振り返したりしてくれる。

クリモニアに帰ったときに噂になっていないか心配になる。

でも、今日はミリーラからクリモニアへのトンネルは通れないはずだから、すれ違うことはないと思ったんだけど。出発してから、数台の馬車や馬とすれ違っている。

クマバスは順調に進み。そろそろトンネルに到着するはずだ。まだ、陽も沈んでいない。思っていたよりも早く着いたみたいだ。これなら、日の出と同時に出発をしたり、レーサー並にクマバスを走らせなくても大丈夫だったみたいだ。

うん? あれは?

進む先に壁が見える。

こんなの作ったんだ。

わたしは速度を落としてゆっくりと進む。道なりに進むと門が見えてくる。

門まであるんだ。

門に到着すると入口に人が立っている。そして、わたしのクマバスを見て驚いた表情をしている。

「あのう、中に入りたいんだけど、入ってもいい?」

反応がない門番に尋ねる。

「白いクマ? …………クマの嬢ちゃんか?」

わたしのことを知っているみたいだけど。わたしの白クマの格好を見て、首を傾げている。

もしかして、黒クマじゃないからと言って、わたしだと認識できないってわけじゃないよね?

「クマの嬢ちゃんでいいんだよな?」

なんで確認するかな?

「どのクマの嬢ちゃんのことを言っているかわからないけど」

「くまさんは一人しかいないと思いますが」

隣に座っているノアが小声で言うが、聞き流すことにする。わたしやノアが知らないだけで、違うクマがいるかもしれない。

「いつもは黒いクマの格好をして、クマのパン屋や料理屋を作って、子供を連れまわしているクマのお嬢ちゃんだよな」

門番が確認するように尋ねてくる。

どうやら、門番が言っているクマとは、わたしとは違うらしい。子供を連れ回した記憶はない。だから、違うクマだ。わたしはそう結論を出す。

「横にも後ろにも子供たちがいるし」

わたしが導き出した結論を一瞬で論破する門番。なかなか頭が回る門番みたいだ。反論ができない。

「いつもは黒いクマの格好をしているから、一瞬戸惑ったぞ。白いクマの格好もするんだな」

「たまにね。それで、トンネルの通行許可証はあるから、通っていい?」

「話は聞いているが、確認だけはさせてくれ」

わたしはギルドカードを差し出す。クリフからはトンネルの無料通行許可をもらっている。門番は確認するとカードはすぐに返してくれる。

クリフとの約束通り、無料で通らせてもらう。もちろん、わたしと一緒にいる全員もだ。普通はここでお金を支払ってから塀の中に入るらしい。

「トンネルはどうしたらいいの?」

「時間内なら自由に通ってもらって構わない」

ティルミナさんの話では夕刻ごろに通行禁止になると言っていた。まだ、通行禁止になるまで時間はある。

「それにしても、馬もいないのに、この馬車はどうやって動かしているんだ?」

門番は不思議そうにクマバスを見る。みんな、思うところは同じなんだね。

「魔法だよ」

「魔法? 嬢ちゃんは、本当にブラックバイパーを倒すほどの冒険者だったんだな」

ブラックバイパーのことを知っているってことは、この人はクリモニアの人なんだね。

ここで、クラーケンの話をされでもしたら困っていた。クラーケン討伐のことは、全員知らない可能性が高い。アンズたちは話さないと思うし、クリフがノアに話している可能性があるぐらいだ。

ミレーヌさんがティルミナさんに話しているかもしれないけど。知らない人の方が多い。

「それにしても、壁なんか作ったんだね」

「トンネルは重要な場所になる。クリフ様の指示で作られた」

3mほどの高さがある壁はトンネルを囲うように作られている。これなら、魔物がトンネルに入ることもできないし、盗賊も入れない。無断でトンネルを通ることもできない。

それと、門の入口から見えるだけでも、人が多い。てっきり、数人ほどしか、いないと思ったら、宿屋らしき建物も見えるし、他にも複数の建物が見える。

クリフは宿屋と駐屯所みたいなのは作ると言っていたけど。思っていたよりも建物が建っている。

う~ん、しばらく来ないだけで、こんなにも変わるもんなんだね。

「そのおかげもあって、安心して、この仕事にもつける」

確かに壁もなく、数人だけでトンネルを守ったら、怖いよね。

わたしは門番のおじさんの許可をもらって、壁の中に入る。

周囲を眺めながら、クマバスを動かしていると、目立つせいか。皆クマバスを見ている。

小休憩と思ったけど、このままトンネルに入った方がいいかな?

でも、なんでこんなに人がいるの?

宿屋経営に警備、それからなんだろう?

「ユナさん、このままトンネルの中に入るんですか?」

「う~ん、どうしようか?」

わたしは院長先生を含めた子供たち、子熊のバスに乗っているみんなに確認する。すると休憩が欲しいとのことなので、小休憩を取ることにした。

クマバスは邪魔にならないところに止め、わたしも周囲を探索することにする。

トンネルの近くに来ると、数人の子供たちがいる。

「お店にあるクマさんと一緒だ~」

「でも、こっちのクマさん、パンじゃなくて剣を持っているよ」

トンネルの前にはクリフに作らされたクマの石像が立っている。クリモニアのお店にあるデフォルメされたクマと同じだ。クリモニアのクマはパンを持っているが、トンネルのクマは剣を持っている。トンネルを守るようにと作った。

「あれもユナさんが作ったんですか?」

わたしの隣にいるノアが尋ねる。

「クリフに作らされたんだよ」

「お父様にですか?」

「わたしは嫌だって言ったのに、クリフが無理やり……」

嘘は言っていない。無理やり作らされたのは事実だ。

わたしは悲しそうな表情をしてみる。

「お父様、酷いです」

「ノアもそう思うよね」

「はい。家の前にクマさんの石像を作るのは駄目だって言ったのに。自分はこんなところにユナさんに作ってもらうなんて、ずるいです」

えっと、そっち?

おかしい、微妙に会話が噛み合っていないんだけど。

「帰ったら、お父様にもう一度、頼んでみます」

「頼まないでいいから」

領主の家の前に作ったら、クリフの領主としての威厳が無くなってしまう。

わたしの家と勘違いされる可能性だってある。クリフが却下しなくても、わたしが却下する。

「それじゃ、庭ならいいですか?」

「わたしの家にも欲しい」

ノアが馬鹿なことを言うからミサまで馬鹿なことを言い出し始めた。

人は近くにいる人の影響を受けやすいって言うけど、ミサがノアに似てきているようで、将来が心配になってくる。

「作らないからね」

「そんな~。ユナさん、作ってくださいよ」

ノアはわたしのクマ服を掴みながら、頼み込む。クマの石像をクリフの家に作ったりしたら、わたしがクリフに怒られる。わたしはノアのお願いを却下して違う場所に移動する。

それから、トンネルの周囲を探索して分かったことがいくつかあった。囲まれた壁の中には宿屋、駐屯所の他に馬小屋に倉庫、販売所があった。ここでは冷凍された魚を売っている。トンネルの通行料を支払わないで購入できるらしい。

その他にもクリモニアからの荷物を倉庫に預けて、それをまとめてミリーラから引き取りに来たりもするらしい。その逆もある。

今日、トンネルが通れないのに、ミリーラ方面から馬車や馬とすれ違った理由は、この辺りにあるのかもしれない。

そして、小休止を終えたわたしたちは、ちゃんと人数確認をしてから出発する。トンネルの中に入ると、中は光の魔石が嵌め込められており、クマバスのライトもわたしの魔法も必要がない。

前を走る馬車もいないので、スムーズに進む。

この時間でミリーラに向かう馬車はほとんどいない。今日がミリーラ行きなら、すでに宿屋に泊まっていた者は朝一で出発している。いるとしたら、夜中に途中で一泊して、昼ごろに到着した馬車ぐらいなものだろう。

クマバスはトンネルの中を進んでいく。

トンネルに入った初めは楽しそうにしていた子供たちも、延々と続くトンネルに飽きたようで、騒ぐ子もいない。さすがのわたしもトンネル内で速度を出したりはしない。もしも、壁に衝突でもしたら、大変なことになる。

「ユナさん、トンネルは長いんですか?」

「う~ん、どうだろうね。わたしもくまゆるとくまきゅうに乗って通ったことがあるだけだからね。だから、あまり距離とかわからないよ」

「そうなんですね」

「二人とも寝ていてもいいよ。着いたら起こしてあげるよ」

「いえ、ユナさんとおしゃべりしますから大丈夫です」

「わたしもユナお姉様とお話します」

「それじゃ、なにか話してくれるかな? わたしも単調で眠くなってくるから」

トンネルは初めは面白いかもしれないが、飽きが早い。外の風景と違って、変わることもなく、淡々と同じ風景が続く。睡眠効果は高い。だから、話し相手になってくれるのは嬉しい。

そして、ノアとミサは昔話から、最近の話をしてくれた。