軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

346 クマさん、クマバスを走らせる (1日目)

「フィナ、シュリ。くまさんは預けますが、交代ですからね」

ビシッと指を差すノア。

なにか、デジャブを感じるのは気のせいだろうか。たしか前にも同じことがあったよね。でも、前は譲らないようなことを言っていたから、ノアも成長しているみたいだ。

それともクリフに言われたことをしっかり守ったのかな? とりあえず、くまゆるとくまきゅうの奪い合いになることはなかった。

ノアたちが馬車に乗り込んでいるとモリンさんがやってくる。

「ユナちゃん、朝食のパンだよ。お腹が空くと思って作ってきたよ」

「ありがとうございます。全部ですか?」

「馬車?は3台あるみたいだから、3つに分けておいたよ。そっちには多く入っているから、子供たちと一緒に食べておくれ」

モリンさんは不思議そうにクマバスを見ながら、パンが入った袋を渡してくれる。

「ユナさん。わたし、海は初めてだから楽しみです」

「わたしも行ったことがないよ」

モリンさんの横で、カリンさんとエレナさんが楽しそうにしている。二人は年齢も近いようで、仲良くしている姿をよく見かける。

そして、わたしは子熊のバスに乗り込んだみんなに簡単な説明だけしておく。

クマバスには冷蔵庫があり、飲み物が入っているから、自由に飲んでいいこと。速度が上がることがあるけど、慌てないこと。朝食はクマバスの中で食べること。昼食は休憩がてらに食べることになっていること。などの簡単な説明をする。緊急に連絡がある場合は、ライトをパッシングすることを伝える。

ライトは夜を走るかもしれないから、クマの目がボタンで光るようになっている。

「ユナちゃん。それで、どうやって動かすの? それに運転は誰がするの?」

親クマバスと子クマバスは繋がっていない。ティルミナさんの疑問はもっともだ。

「わたしのゴーレムだから、魔力で動きますよ。前の大きなクマ馬車についてくるように指示を出すから、みんなは乗っているだけで大丈夫ですよ」

ゴーレムは簡単な命令なら、わたしが動かさなくても動いてくれる。

ただ、ゴーレムの活動範囲はそれほど広くはない。あまり離れると、魔力が続かなくなり、動かなくなる。今回はそれほど親クマバスと子クマバスは離れていないので大丈夫だ。

「魔力って。それじゃ、ユナちゃんに負担がかかるんじゃ」

魔法使いのエルが心配そうにする。

「前に盗賊を檻に入れて運んだときと同じだよ。問題があるとしたら、速度を上げるつもりだから、ちょっと魔力の消耗は大きいかも。でも、無理はしないつもりだから、大丈夫だよ」

そのための白クマだ。

「前も思ったけど。ユナちゃんは信じられないことをするわね」

エルの言葉に全員、頷いている。

そのことに関しては否定ができない。でも、どれも最善だと思っている。これも全て、変な能力を与えた神様が悪い。

「それじゃ、そろそろ出発しますね」

「ユナちゃん、危険なことだけはしないでね」

「子供たちも乗っているのに、そんなことはしませんよ。ただ、馬車よりは速いけど、騒いだりしないでくださいね」

走り出したら子供たちは騒ぎ出しそうだけど、大人たちは別の理由で騒ぎそうだ。

不安そうにする大人たちを子熊バスに押し込み、わたしは親熊バスの運転席に座る。その隣にはフィナとシュリがくまゆるとくまきゅうを抱きながら座る。

わたしはハンドルを握ると、魔力を流し、クマバス型ゴーレムを動かす。

クマバスが動き出すと、子供たちが騒ぎだす。

「寝ている子もいるんだから、あまり騒がないでね」

わたしが後ろに向けて言うと、「はい」「うん」などと返事が戻ってくると静かになる。本当にしっかりしている子供たちだ。

でも、小声で「凄い」「動いているよ」と嬉しそうにする声が聞こえるのは微笑ましい。この中には馬車に乗ったことが無い子もいる可能性もある。そうなると、騒ぐのも仕方ないかもしれない。

子熊のバスもちゃんと後ろから付いてくる。

わたしはクマバスをゆっくりと走らせる。走らせると言っても、馬車より少し速いぐらいの速度だ。

でも、隣に座るシュリは、お気に召さないようだ。

「ユナ姉ちゃん。遅いよ。この前みたいに速く走らないの?」

「まあ、初めはゆっくり行くよ」

この前は実験だ。それに今回は乗っている人数が多い。無茶をするわけにもいかない。でも、時間や子供たちの様子を見て、速度は上げるつもりでいる。

クマバスを走らせていると、陽が徐々に昇ってくる。わたしはモリンさんが作ってくれたパンを取りだし、フィナに渡す。

「モリンさんが朝食に作ってくれたから、みんなに分けてあげて」

「分かりました」

「わたしも手伝う~」

「それじゃ、シュリはそこに冷蔵庫があるから、みんなに飲み物を配ってあげて」

運転席の後ろにある冷蔵庫を指す。冷蔵庫の中には竹筒で作った水筒が入っている。これなら、こぼすこともないと思って用意した。

「二人とも動いているから気を付けてね」

フィナとシュリはくまゆるとくまきゅうを椅子の上に置くと、パンと飲み物を配りに行く。二人が配っている間はなるべく安全運転するように心がける。

わたしもパンを1つもらい、口に入れる。それにしても、シュリの言葉じゃないけど、わたしも遅く感じる。どうしても、くまゆるやくまきゅうが基準になってしまうから、この速度は遅い。

魔力にも余裕があるし、みんなが朝食を終えたら速度を上げるかな。

そして、朝食を食べ終えた子供たちは、朝も早かったせいか、眠りに就いている。

隣に座っているシュリもくまきゅうを抱きながら船を漕いでいる。やっぱり、子供には早かったみたいだ。寝ているシュリを見ると、膝の上に乗せているくまきゅうの頭によだれが落ちそうになっていた。

でも、くまきゅうも目を瞑って寝ているし、頭の上からヨダレが落ちるとは思っていない。

くまきゅうのピンチだ。

わたしがシュリのヨダレを拭いてあげようとしたら。

「ユナお姉ちゃん、前を失礼します」

シュリと反対側に座っているフィナが手を伸ばして、ハンカチでシュリの口元を拭く。どうやら、くまきゅうはよだれを回避することができたみたいだ。

でも、フィナは妹のことをよく見ているものだ。シュリは拭かれたことも気付かずに寝ている。

みんなも寝ているし、わたしはクマバスの速度を上げる。わたしは魔力を込めて、車輪の回転速度を上げる。クマバスの速度が上がる。いい感じだ。白クマのおかげもあって、魔力が減っている感じはあまりしない。

クマバスは、馬がパッカ、パッカと軽く走るぐらいの速度にする。速度は馬車より速いから、十分にトンネルが通行禁止になる前には着きそうだ。

問題があるとしたら、眠いことだ。後ろでも横でも、スヤスヤと気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。わたしも寝たい。いつもなら、くまゆるやくまきゅうの背中で寝るわたしも、自動運転機能が付いていないクマバスを眠ったまま走らせるわけにはいかないし、くまゆるやくまきゅうに運転してもらうわけにもいかない。長距離ドライバーの人の気持ちを、この歳で知ることになるとは思わなかった。

わたしは眠気に耐えながら、クマバスを走らせる。魔物の探知はくまゆるとくまきゅうに頼んである。そのくまゆるとくまきゅうが反応しないってことは近くに魔物がいないってことになる。

眠気覚ましに魔物が現れてほしいとは思わないけど、暇だ。

「フィナ、眠い。なにかしゃべって」

「何かって、何をですか?」

「なんでもいいよ」

会話をすれば眠くなくなるはずだ。

「えっと、お父さんとお母さんがユナお姉ちゃんに感謝していました。こんな機会は滅多にないから、嬉しいって」

フィナは悩んだ結果、両親の話をし始める。

ゲンツさんがどれだけ苦労して休みを貰ったとか、ティルミナさんがわたしのことを「予想の斜め上を行くから大変」って言っていたとか、話してくれる。

そんな、斜め上を行く行動なんてしているかな? そんなつもりはないんだけど。

「でも、お母さん。ユナお姉ちゃんに頼まれたことを嬉しそうにやってましたよ」

それから、フィナはノアたちと遊んだことや、孤児院の子供たちがどれだけ嬉しそうにしてたかを話してくれる。実は院長先生も楽しみにしていたと聞くと嬉しくなる。

これはみんなの期待を裏切らないように楽しまないとね。

フィナとおしゃべりをしたおかげで眠気も無くなり、クマバスは順調に進む。そして、そろそろ、休憩を含めた昼食を取ることにする。

「みんな、休憩するよ。クマ馬車から降りて、昼食を食べるよ。寝ている子は起こしてあげて」

起きている子は寝ている子を起こす。わたしはクマバスから降りて、背筋を伸ばす。

フィナとシュリには子熊のバスに乗っている人たちに休憩の旨を伝えてもらう。

子供たちはクマバスから降りて、駆け回る子もいる。それをリズさんが止まるように叫ぶ姿がある。

平和だな。

わたしがのんびりと休んでいると、エルにルリーナさんがやってくる。

「ユナちゃん。大丈夫なの?」

「なにがですか?」

「魔力よ。こんな大きなゴーレムを動かし続けているでしょう。普通なら、魔力が切れてもおかしくはないわよ」

魔法使いのエルとルリーナさんが心配そうにする。

「大丈夫だよ。わたしの魔力量は普通の人より、多いから」

神様からの貰い物だからね。

実は元の世界にいたときから、魔力があったとかだったら、面白いけど。

「本当に無理はしていないのね」

「してませんよ」

「なら、いいけど。本当に無理だけはしないでね」

二人は魔法使いだから、魔力の使い過ぎが酷いことになることを知っているみたいだ。クラーケンの時は怠くなって動けなくなったのが思い出される。

それから、モリンさんの作ってくれたパンで昼食を食べ、休憩を終えた。