軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

237 クマさん、ルイミンにクマフォンを渡す

交渉が成立したわたしはルイミンを連れて、クマハウスがある滝の上までやってくる。

「ここまで来ればいいかな」

「本当に遠く離れているユナさんに連絡をすることができるんですか?」

ルイミンはクマの転移門を見たというのに信じられなさそうにしている。

まあ、携帯電話や通信技術を知らなければ仕方ないことだけど、魔法や魔道具でクマフォンみたいな物って無いのかな。

普通じゃ見かけないから、あったとしても一部の人しか知らないんだろうな。

「ルイミンとの連絡はこれを使うよ」

クマの形をした通信機。クマフォンを取り出してルイミンに渡す。

「クマさん?」

ルイミンは手の上に乗せられたデフォルメされたクマの人形を見て、首を傾げている。

「遠くの人と会話をする魔道具だよ」

「魔道具……でも、クマ?」

ルイミンは魔道具のクマフォンを手の中で珍しそうに見ている。

まあ、普通に見ればクマの人形だからね。

わたしは自分用にクマボックスからクマフォンを取り出す。

「ちなみに、その魔道具の名前はクマフォンって名前だから」

「クマフォン……」

ルイミンがクマフォンとわたしを見て、なにか言いたそうにするが、無視をしてクマフォンの説明を始める。

「このクマフォンはお互いの持っているクマの人形を通して、声を伝えることができる魔道具なの」

「声を伝える。そんなことが……」

「今からわたしがルイミンが持っているクマフォンに繋げるから、驚いて落とさないでね」

「わ、わかりました」

真剣な目で構える。

「そんなに身構えなくても大丈夫だよ」

笑みを浮かべながら、ルイミンのクマフォンに向けて繋がるように念じる。

すると、ルイミンが持つクマフォンが「くぅーん、くぅーん、くぅーん」と鳴き始める。

「な、なんですか!?」

いきなり鳴き出すクマフォンに驚くルイミン。

相変わらずの呼び出し音だ。

電子音よりはいいかもしれないけど、気が抜ける呼び出し音だ。

「ど、どうしたら、いいんですか!?」

ルイミンは鳴き出すクマフォンをどうしたら良いか分からずに、あたふたする。

「魔力を流してみて」

「は、はい」

ルイミンはクマフォンを両手で握り締め、目を閉じて祈るようにする。

電話に出るのに大げさな。

ルイミンが祈るとクマフォンの鳴き声が止まる。

「止まりました!」

嬉しそうにするが、それが目的ではない。

「それじゃ、少し離れて話しかけるから、ルイミンもそのクマフォンに話しかけてみて」

わたしは少し駆け出し、100mほど離れる。

そして、クマフォンに向かって話しかける。

「ルイミン、聴こえる?」

『は、はい。聴こえます!』

驚いたルイミンの声がクマフォンの口から聞こえてくる。

「こんな感じで遠くの人と会話ができるんだけど、わかった?」

『はい。わかりました。でも、ユナさん、凄いです。こんなに離れているのにユナさんの声が聞こえてくるなんて』

ルイミンの方を見ると元気よく、手を振っている姿がある。さらにジャンプまでしている。

わたしはルイミンに向かって手を上げて返事をする。

「それじゃ、一度切るから、今度はルイミンの方からわたしに話しかけてみて」

『えっと、どうやってですか?』

「クマフォンを握って、魔力を込めてみて」

『はい。やってみます』

一度、通信が切れる。

そして、しばらく待っていると、わたしが持っているクマフォンが「くぅーん、くぅーん、くぅーん」と鳴き出す。

そして、電話に出るイメージをする。

『えーと、ユナさん聴こえますか?』

「聴こえるよ」

『良かったぁ』

今度は安堵の声が聞こえてくる。

「それじゃ、一度戻るね」

通話を切って100mダッシュをして、ルイミンのところに駆け寄る。

タイムを計ったらオリンピックで金メダルは間違いない。

それほどの速さでルイミンのところに到着する。

でも、着ぐるみ姿でオリンピックか…………世界の笑いものだね。

「ユナさん、凄いです」

戻ってくるとはしゃいでいるルイミンの姿がある。

「でも、本当に王都にいるユナさんまで会話ができるんですか?」

「できるから、心配はいらないよ」

クリモニアにいるフィナと会話をしているので確認済みだ。

ただ、注意はしておく。

「でも、失くしたりしないでね。失くしたりしたら会話はできなくなるから」

「はい。大切にします」

まあ、失くしたり、盗まれたとしても、魔力登録が行われるため、持ち主以外は使えないから、他人が使用することはできない。

ルイミンが持っているクマフォンはルイミンが魔力を流したことによって、ルイミン専用になっている。

ただ、連絡が取れなくなるのが一番の問題になる。

「もし、サーニャさんに伝えることがあったら、遠慮なく通話してきていいからね」

「はい。でも、不思議な感じです。遠くにいるユナさんと会話ができるなんて」

クマフォンを大事そうに握りしめる。

「でも、使うときは気をつけてね。知られたら、笑い地獄が待っているから」

「うぅ……いきなり鳴くんですよね」

「まあ、わたしから話しかけた場合はね」

「鳴いたら、急いで人がいないところに移動します」

ルイミンにクマフォンの使い方を教えたわたしは、ルイミンと別れて次の作業に移る。

それはクマハウスの移動だ。移動先は神聖樹がある岩山の中になる。すでにムムルートさんには許可はもらっている。

あの場所なら、入ってこられる人物は限られているから、クマハウスが見つかることはない。

唯一、クマの転移門を知らないアルトゥルさんにはムムルートさんから言ってもらうことになっている。

問題があるとすれば、フィナをエルフの村に連れてきてあげたいと思ったときに、結界がどう反応するかが、気になった。ムムルートさんが言うには結界は外から中を守るものだから、大丈夫らしい。

まあ、あくまで予測という話だから、フィナにそんな危険なまねをさせるつもりはない。

もし、連れてくるようなことがあれば結界の外で転移門を新たに作ればいいだけのことだ。

神聖樹に到着すると、結界内にはムムルートさん、サーニャさん、アルトゥルさんの三人が片付けをしている姿があった。

地面に落ちている神聖樹の葉を風魔法で集めている。

代わりにできる者がいないから仕方ないけど、村の 長(おさ) とその身内が葉っぱ集めをしている姿は、なんともいえない姿だ。

「ユナちゃん? もう、ルイミンとの話は終わったの?」

「うん、終わったよ。それで、今朝言ったとおりに、 家をここに置かせてもらおうと思ったんだけど」

置ける状況ではないみたいだ。

まあ、隅なら場所も空いているから大丈夫だけど。

邪魔をするのも悪い。

「ごめんなさいね。ユナちゃんから話を聞いて、お父さんを連れてきたばかりで、まだ終わっていないの」

「わたしが無理を言ったんだから、気にしないでいいよ。葉っぱ集めはわたしも手伝うから」

「ありがとう。それじゃ、お願いするわね」

わたしも風魔法を使って葉を集める作業を行う。

小さな竜巻を起こして葉を掃除機のように竜巻に吸い込ませていく。そして、竜巻の中の葉がいっぱいになったら、竜巻を消す。すると葉の山が出来上がる。この作業を何回も行うことで葉が集められていく。

そして、集めた葉は麻袋に詰め込められる。

四人でやったおかげで、作業も早く、落ちていた神聖樹の葉の回収は早く終わった。

寄生樹の処理も終わっており、神聖樹は完全復活を遂げたみたいだ。

あとはクマハウスを建てれば終了だ。

「ムムルートさん、いいですか?」

わたしはムムルートさんを見てからアルトゥルさんの方を軽く見る。

「大丈夫だ。説明はしてある」

わたしは許可をもらい、目星を付けていた場所にクマハウスを出す。

入口から入った右側の場所だ。ここなら、陽当たりも良くていい。

後ろを振り返ると、クマハウスを出すと話だけは聞いていたムムルートさん、アルトゥルさんの二人は驚きの表情を浮かべていた。

まあ、いつもの普通の反応だ。

何度も経験をしているから、スルーをする。

それから、2日後。

わたしとサーニャさんは王都に帰ることになった。

村の人にお別れの挨拶をするために村を訪れると、多くの人がいた。

わたしのことに気付いた子供たちがやってくる。

くまゆるたちと遊んだから、人気者になってしまった。

悲しそうにする子供もいるが、こればかりは仕方ないことだ。

「また、来るよ」

「本当?」

嘘は言っていない。また来る予定だ。

だから、子供の言葉に頷いてあげる。

子供たちと別れの挨拶をしているとラビラタがやってくる。

「ユナ、この恩は忘れない。なにかあれば手を貸す」

「また、村に来るよ。そのときはお願いね」

断らずに素直に申し出を受け取っておく。

「ああ、ユナなら、いつでも歓迎する」

「ありがとう」

ラビラタと会話をしているとサーニャさんがやってくる。

「ユナちゃん、お待たせ。ラビラタもいたの?」

「ああ、礼を言っていた」

「本当よね。ユナちゃん、今回は本当にありがとうね」

「気にしないでいいよ。エルフの里に来たいって言い出したのはわたしだし」

「それでもよ。ユナちゃんがいなかったら、村を捨てないといけなかったかもしれないわ。ユナちゃんはそれだけ、村のために尽くしてくれたのよ」

隣にいるラビラタも頷いている。

「お礼も貰う予定だし、気にしないでいいよ」

あまり、何度も言われると、申し訳ない気がする。

クマさん装備のおかげで、わたしの実力じゃないしね。

サーニャさんは笑顔を向けるとラビラタと別れの言葉を交わし始める。

そして、会話は予想外の方向に移動し始める。

「ラビラタ、昨日も言ったけど、待たなくてもいいからね」

「気にしないでいい」

「いつになるか分からないわよ」

「10年待って、来なかったら俺が迎えに行く」

二人の間で意味深な会話が起きた。

「サーニャさん?」

「ラビラタはわたしの婚約者なのよ」

なにか、重要なことをアッサリと言われた。

「婚約者?」

「ええ、一応ね」

「サーニャさん、そんな人がいるのに王都なんかでギルドマスターなんてやっていていいんですか!?」

「ギルドマスターは楽しいからね」

楽しいって、まあ、気持ちは分からなくもないけど。

わたしも恋よりも楽しい方を選ぶ派だ。

「でも、ラビラタが可哀想じゃ」

「大丈夫だ。10年ぐらい待てる」

うぅ、凄い。サーニャさんのことを信頼しているよ。

サーニャさんが他の男の人と結婚するとか考えていないのかな?

「もし、わたしが忘れていたら、迎えに来てね」

「ああ、必ず迎えに行く」

どうやら、目を開けられないほどの熱々のカップルだったみたいだ。

10年振りに再会したというのに、このエルフはさらに10年会わない覚悟を持っているらしい。

これだから、長寿のエルフは駄目だ。

バカップルはほっといて、この場を離れることにする。

そこにムムルートさんとルイミンが数人の男の人を連れてやってくる。

「嬢ちゃん。本当に今回はお世話になった。感謝する」

「ユナさん、ありがとうございました」

ムムルートさんとルイミンがお礼を言う。

「それと少ないが約束した物だ」

ムムルートさんがそう言うと、側にいる男たちが大きな麻袋をわたしの前に置く。

「これは?」

「森で採れた山菜やキノコだ。嬢ちゃんに頼まれたキノコは多めに入れておいた」

おお、もしかして松茸?

嬉しいな、帰ったら松茸ご飯やお吸い物、茶碗蒸しでも作ろうかな。

楽しみが増えた。

「あと、少ないが神聖樹で作った茶葉も入っている」

「いいの?」

「嬢ちゃんのおかげで新しいのはすぐに作れるから、気にしないでいい」

それなら、ありがたく貰っておこう。

試飲したけど、それなりに美味しかった。

お店で出しても問題はない味だった。

あとはどれくらいの量を確保できるかと、販売できるかティルミナさんたちに相談だ。

わたしはお礼を言って、クマボックスに麻袋を仕舞う。

「村人全員、嬢ちゃんが村に来ることをいつでも歓迎する」

ムムルートさんが声を上げて宣言する。

その言葉に異を唱えるものは誰1人いなかった。

そして、わたしとムムルートさん、ルイミン、サーニャさんはクマハウスがある神聖樹に向かう。

3人は神聖樹の中に入るために石碑に魔力を込めて結界の中に入る。

わたしはそのあとを何も無かったように結界の中に入る。

不思議だね。

「お姉ちゃん。また来てね」

「ええ、今度は早めに来るわ。ユナちゃんにお願いすれば来られるみたいだしね」

サーニャさんがわたしの方を見る。

「お金を取りますよ」

「ふふ、お金で使わせてもらえるなら安いものよ」

「ユナさん、お姉ちゃんのことをよろしくお願いします」

「ちょっと、わたしの方が年上よ」

ルイミンの言葉にサーニャさんは反論する。

「だって、ユナさんの方がしっかりしているんだもん」

「そんなことはないわよ。これでも冒険者ギルドのギルドマスターよ」

そっぽを向くサーニャさん。

初めて会ったときは、威厳があったような気もしたけど、たしかに今のサーニャさんを見ると不安があるギルドマスターだ。

それだけ、この旅でサーニャさんの一面を知ることができたってことかな?

わたしはそんなサーニャさんを見て笑みを浮かべて、ルイミンの方を見る。

「ルイミン、新しい茶葉が出来たら連絡を頂戴ね。すぐに来るから」

「はい。連絡します。ユナさん、その本当にありがとうございました。王都でユナさんに会えたのが一番の幸運でした」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

わたしとサーニャさんは別れを告げるとクマハウスの倉庫に入り、クマの転移門を使って王都に帰ってきた。