作品タイトル不明
第79話 MIO側の白い点が、外周ログに混じった
ガタ用表示には、青い点と白い線だけが残っていた。
外周接近点一。
外周接近点二。
地下保守口外側点。
拠点へ戻る帰還線。
黒い円は薄く、小さく処理されている。外で迷うための地図ではなく、戻るための地図だ。
レンは拠点端末で、前回の単独帰還ログを開いた。
『GATA SOLO RETURN TEST、再解析を開始します』
「違和感はあったか」
『一点あります。接近点二の帰還マーカー位置に、微小なズレがあります』
「どれくらい」
『推定一・八メートル。通常運用では許容範囲です』
『許容でも嫌です』
「ガタは気づいたか」
『白線が少し曲がって見えました』
「それだな」
レンは接近点二のログを拡大した。
青い点そのものは安定している。ビーコンも生きている。だが、帰還線の基準位置が少し斜めにずれていた。粉塵で足跡が流れた時、ガタの補助表示が一瞬だけ細く揺れている。
大きな問題ではない。
ただ、灰色の庭の外側では、こういう小さなズレが積み上がる。
『接近点二の戻り印列を補正すれば、ガタ補助表示の安定性が上がります』
「現地で直す」
『推奨します』
『直すのは好きです。外へ行くのは嫌です』
「両方だ」
レンは工具バッグに反射テープ、固定具、小型ブラシ、測距ポールを入れた。
その時、端末の端に短い白い点列が浮いた。
青い点ではない。灰色の外周線でもない。もっと柔らかい、白い小さな点だった。
ぽつ。
ぽつ。
ぽつ。
レンの指が止まる。
「ノア」
『検出しています。外周ログに白色点列が混入』
「灰色の庭か」
『既存の外周ノイズと一致しません。MIO関連観測語の過去ログと一部類似』
『白い嫌ですか』
「嫌というより、遠い」
白い点は、接近点二の帰還線の近くに一瞬だけ重なった。
草の上に置いた石のような点。
レンの頭に、知らないはずの足元が浮かぶ。白い石。やわらかい光。祠道。戻る印。
ミオ。
名前は出たが、声は来ない。
通信でも、会話でもない。意味だけがかすかに混じった。
『追跡しますか』
「記録だけでいい」
『了解。MIO関連候補、未確定感応として保存』
『追いかけないのは好きです。帰る場所が減りません』
「今日は接近点二を直す」
白い点は薄くなった。
レンは端末を閉じ、外へ出た。
空は暗くない。風も弱い。粉塵は低い。接近点一の青い光が見える。そこから接近点二へ向かう帰還線も、腕の端末に表示されている。
ガタは表示板を見ながら歩いた。
『接近点二の白線、少し曲がっています』
「白い点のせいか?」
『違います。前から曲がっていました。白い点で見やすくなりました』
「なるほどな」
接近点二に着くと、ズレは目で見ても分かった。
杭の位置は正しい。ビーコンも生きている。だが、反射テープの向きが接近点一より少し外へ向いていた。帰還方向ではなく、黒い円の縁へわずかに引っ張られている。
レンはしゃがみ、テープを剥がした。
ざらついた粉が指先につく。
「これか」
『反射方向、帰還線から一・七メートル相当ずれています』
『嫌です』
「直す」
レンは新しいテープを巻いた。
接近点一から見える角度。拠点側の白い光を拾う角度。ガタの表示板で青い点が太く出る角度。
測距ポールを立て、確認端末で反射を見る。
『反射方向、補正完了』
「ガタ表示は」
『白線がまっすぐになりました』
「歩いてみるか」
『少しだけ』
ガタは接近点二から十歩だけ離れた。
表示板を見て、戻る。
青い点へ向かう動きが、前より迷わない。足元の粉が少し流れても、ガタは一度も止まらなかった。
『戻れます』
「もう一度」
『二回は嫌です』
「短く」
『短くなら』
もう一度。
今度は十五歩。
ガタは白線をたどり、接近点二へ戻った。アームで杭に触れる。
『ここです』
「合ってる」
ノアがログを出した。
[SYSTEM LOG]
――――――――――
RETURN MARK SEQUENCE:POINT 02 CORRECTED
REFLECTOR ANGLE:UPDATED
GATA ASSIST VIEW:STABLE
MIO-LIKE WHITE POINTS:RECORDED
――――――――――
白い点列は、ログの最後に小さく残った。
レンはそれを見た。
遠くで、ミオも戻る印を扱っているのかもしれない。祠道という、こちらとはまったく違う場所で。白い石や光を見ながら、進みすぎないように点を置いているのかもしれない。
その気配が、接近点二のズレを見つけるきっかけになった。
レンは杭の頭を軽く叩いた。
「助かった、かもな」
返事はなかった。
白い点も、もう画面にはない。
ガタが青い点を見上げる。
『白い点は消えました』
「ああ」
『でも、青い点は直りました』
「それでいい」
帰り道、接近点二から接近点一への白線は、前よりまっすぐ見えた。
拠点へ戻ると、ノアが地図を更新した。
黒い円の外側で、青い三点が安定している。接近点二の帰還線は細いまま、揺れが少ない。
『接近点二、補正完了。次回外周移動時のガタ補助精度が向上します』
「どれくらい」
『帰還線表示の揺れ、四十二パーセント低下』
『四十二、好きです』
「理由は」
『かなり減った感じがします』
「雑だな」
レンは笑った。
MIO側の白い点は、追わなかった。
だが、目の前の戻り印列は直った。
遠い白い点が消えた後も、灰色の庭の外側には、レンたちの青い点が残っている。
レンは端末を閉じた。
次に進むための線が、少しだけまっすぐになった。