作品タイトル不明
第77話 外縁制御網が、もう一段広がった
拠点地図の黒い円の外側には、青い点が三つ残っていた。
外周接近点一。
外周接近点二。
地下保守口外側点。
接近点一の前には、距離の目盛りも入っている。十六メートル、十四メートル、十二・四メートル。黒い円へ近づく足元に、数字と目印が並んだ。
レンはその地図を、外縁制御網の表示へ重ねた。
『外周三点データを外縁制御網へ統合します』
「同期範囲は三点だけ」
『はい。灰色の庭内部、境界内部、地下保守口内部は対象外。外周接近点と帰還線のみを扱います』
『狭い同期は好きです』
「広い同期は?」
『広い嫌です』
「分かりやすい」
ガタは作業台の横にいた。最近は端末画面を見る位置が少し近い。黒い円の中央は避けるが、青い点には目を向ける。
ノアが同期前の確認を出した。
『統合対象を確認します。物理マーカー三点、短距離ビーコン三点、帰還線二本、地下外側反響、接近点一距離目盛り』
「距離目盛りも入るのか」
『接近補助に使用できます。近づく位置を選べるため、外縁制御網の安全域計算が安定します』
『十二・四は嫌です』
「覚えた数字が早速役に立つぞ」
『嫌な数字ほど覚えます』
レンは予備電源をつなぎ、同期出力を低く設定した。
外縁制御網は、通信塔、北東中継塔、南側旧管制施設、地下幹線の低速接続をつないでいる。そこへ、灰色の庭外周の三点を入れる。
拠点の地図が灰色の庭の外側を扱うための、一段目になる。
「開始」
『低出力同期を開始します』
画面の青点が一つずつ光った。
点一。
点二。
地下外側点。
次に、外縁制御網の細い線が、遠くの通信塔から拠点へ戻り、拠点から黒い円の外側へ伸びた。
接近点一で止まる。
接近点二へ渡る。
地下外側点へ落ちる。
線は細い。拠点端末上でも弱々しい。だが、青い点を順番につないでいる。
『同期遅延、二・一秒』
「想定より重いか」
『重いですが、制御可能です。出力をさらに下げます』
『下げるのは好きです』
「細くても、残ればいい」
『安全に維持できる範囲で広げます』
ノアが出力を下げると、青い点の光が少し弱まった。
その代わり、線の揺れが落ち着いた。
レンは画面を拡大する。外縁制御網の端に、灰色の庭外周三点が仮登録されている。細い維持線になっていた。
『外周三点、外縁制御網へ仮統合』
「地図には残るか」
『残ります。拠点内端末、携行端末、ガタ補助表示へ配信可能です』
『私にも出ますか』
『出ます』
『ください』
ガタが即答した。
レンは笑った。
「珍しく早いな」
『戻れる点の表示は欲しいです』
『ガタ用表示を作成します。黒い円中心部を非表示にし、帰還点と帰還線を強調します』
「それいいな。俺の携行端末にも切り替えで入れてくれ」
『登録します』
ガタの小さな表示板に、簡略地図が出た。
黒い円は大きく描かれていない。外側の青い点だけが強調されている。点一、点二、地下外側点。そこから拠点へ戻る白い線。
ガタは表示をじっと見た。
『見やすいです』
「黒い円がないからか」
『あります。でも主役ではありません』
「いい言い方だ」
その瞬間、端末の線が一度だけ震えた。
『同期遅延、三・四秒へ上昇』
「原因」
『地下外側点の反響が不安定化。外縁制御網へ戻す情報量を削減します』
「削れ」
『削減します。反響波形を要約値へ変換』
地下外側点の線が細くなる。
青い点は残った。反響の細かい波形だけが消え、地図上では「外側点あり」「低速反響あり」の二つに整理された。
『同期遅延、一・六秒へ低下』
「よし」
『要約で十分です』
『細かい嫌が減りました』
「細かい嫌ってなんだ」
『見ていると増える嫌です』
レンはうなずいた。
全部を持ち込む必要はない。外縁制御網に必要なのは、戻れる点、帰還線、距離、安全域。細かい反響は、読む日を分ければいい。
ノアが統合結果を出した。
[SYSTEM LOG]
――――――――――
OUTER NETWORK EXTENSION:UPDATED
GARDEN OUTER POINTS:3
RETURN LINE DISTRIBUTION:ACTIVE
GATA ASSIST VIEW:ENABLED
SYNC DELAY:1.6s
――――――――――
『外縁制御網の拡張更新が完了しました』
「携行端末は」
『配信済みです』
レンは腕の端末を起動した。
拠点地図の簡易版に、黒い円の外側だけが表示される。青い三点。距離目盛り。帰還線。拠点方向。
これなら現場で見られる。
端末を開いた瞬間に戻る位置が分かる。
ガタが自分の表示板を見ながら言った。
『これがあれば、外で迷う嫌が減ります』
「なくなるか?」
『減ります』
「正直だな」
『なくなる、と言うと嘘です』
レンは少し笑った。
外縁制御網の端に、灰色の庭外周が入った。
灰色の庭そのものは、画面中央で黒く沈んでいる。だが、その周りには三つの青点と帰還線がある。拠点から扱える情報になった。
地図の外だったものが、拠点の地図に入った。
それだけで、次に外へ出る時の重さが違う。
『レン』
「なんだ」
『外に出なくても、戻れる点が見えます』
「ああ」
『好きです』
レンは背もたれに体を預け、端末の表示を見た。
外縁制御網は、灰色の庭の外側まで届いた。
黒い円の周りに置いた三つの点が、拠点の機能になった。