作品タイトル不明
第74話 外周三点観測が成立した
拠点地図の黒い円の外側に、青い点が三つ残っていた。
外周接近点一。
外周接近点二。
地下保守口外側点。
地上側に二つ。地下側に一つ。
それぞれは小さな点でしかない。けれど、三つになったことで、灰色の庭の外側はただの黒い円ではなくなっていた。
レンは端末の前に座り、三つの点を順番に確認した。
『外周接近点一、ビーコン安定』
『外周接近点二、ビーコン安定』
『地下保守口外側点、低出力応答あり。やや弱いですが、消失していません』
「三点とも残ってるな」
『はい。三点観測が可能です』
『三つあるのは好きです』
「ガタ基準だと?」
『一つより好きです。二つより好きです。でも地下が混じるので全部好きではありません』
「正直でいい」
ガタは端末台の下ではなく、横にいた。地下保守口外側点の表示を見ると少し下がるが、逃げはしない。
ノアが地図に薄い補助線を出した。
『三点を低出力で同期し、灰色の庭外周の反射差を測定します』
「中は読むなよ」
『読みません。外周層の厚み、境界の歪み、粉塵反射の差分のみを扱います』
「今日は測るだけ」
『はい。開放工具は不要です』
『不要なのは好きです』
レンは工具バッグを持たなかった。
代わりに、拠点端末の横へ予備電源をつなぐ。観測時間は短い。だが、三点を同時に見るなら電力の揺れは避けたい。
ノアが同期画面を開いた。
青い点が三つ、黒い円の外側に浮く。
点一。点二。地下外側点。
そこから、それぞれ細い信号が伸びる。黒い円へ触れない。外側をなぞるだけだ。
『観測開始まで十秒』
「ガタ、見えるか」
『見えます』
「嫌か」
『嫌ですが、三つとも戻れる点なので、少し見ます』
レンは軽く息を吐いた。
十秒が過ぎる。
端末の画面で、三つの青点が同時に光った。
音はない。けれど、拠点の床がわずかに震えた。低速バックボーンが、地下外側点の反響を拾っている。
『同期開始』
『点一、応答』
『点二、応答』
『地下外側点、応答遅延あり。補正します』
黒い円の外側に、灰色の細い影が浮いた。
最初はノイズに見えた。
粉塵の流れ。地表温度の差。地下からの反響。そういうものが混ざって、画面上で揺れている。
レンは目を細めた。
「輪郭か?」
『まだ未確定です。点一、点二の差分が一致。地下外側点の反響と重ねます』
灰色の影が、少し濃くなる。
完全な円ではない。
レンが今まで見ていた黒い円は、地図上では丸く処理されていた。だが、三点観測で出てきた外周は歪んでいる。北西側がわずかに膨らみ、地下保守口側だけ内側へ食い込むような形になっている。
『外周層の推定形状を更新します』
「これ、円じゃないな」
『はい。視覚上は黒い円ですが、構造上の外縁は不均一です』
『丸くない嫌です』
「丸い方が嫌じゃないのか」
『丸い嫌は分かりやすいです。歪んだ嫌は予測しにくいです』
レンは画面に手を伸ばしかけて、止めた。
触る必要はない。ここで拡大しすぎると、内部まで見たくなる。
今日は外周だけだ。
ノアが短く警告を出す。
『点二側に微弱ノイズ。観測出力を下げます』
「下げていい」
『下げます』
三つの青点の光が少し弱くなった。
その代わり、灰色の外周線は安定した。
黒い円の外側に、薄い輪郭が残る。
[SYSTEM LOG]
――――――――――
THREE-POINT OUTER SURVEY:COMPLETE
OUTER EDGE SHAPE:PARTIAL UPDATE
INTERNAL ACCESS:NONE
RETURN POINTS:STABLE
――――――――――
「三点観測、成立」
『成立しました。灰色の庭外周形状、部分更新』
『帰れますか』
『全点、帰還線維持』
『なら、かなり好きです』
ガタが画面へ少し近づいた。
黒い円の周囲に、薄い灰色の輪郭。青い点が三つ。その間に細い帰還線。
『これ、前より見えます』
「そうだな」
『見える嫌は、見えない嫌より少しましです』
「名言っぽく言うな」
『本気です』
レンは笑った。
だが、画面から目は離せなかった。
灰色の庭は、まだ黒い。
中は読めない。何があるのかも分からない。だが、外側の形が出た。境界が歪んでいることも分かった。地下保守口側が、外周に深く関わっている可能性も出た。
これは入口を開けた成果ではない。
戻れる点を置いた成果だ。
「ノア、地図に残せ」
『保存します。外周形状は暫定ですが、次回以降の接近補助に使用可能です』
「補助に使えるなら十分だ」
『灰色の庭は、ただの黒い円ではなく、観測可能な外周構造として扱えます』
「やっと対象になったな」
ノアは少し間を置いた。
『はい。未知領域から、測定対象へ移行しました』
その言い方は硬かった。
けれど、レンには十分だった。
未知領域。
測定対象。
その差は大きい。
ガタが画面の青点を見ながら言った。
『黒い円の外側に、帰れる三つがあります』
「ああ」
『中は嫌です』
「知ってる」
『でも、外側は少し分かりました』
「それも知ってる」
レンは椅子の背に体重を預けた。
疲れはある。緊張も残っている。けれど、息は前より楽だった。
灰色の庭は、まだ黒い。
だが、その輪郭の一部は、もうレンの地図に入った。