作品タイトル不明
143話 バトルバトルバトル
フォルトナは考える。
敵はこの世界、最強の種族。
自然を司り、世界のバランスを託された上位の生物。
ヒトを支配し、暴力を根源欲求として持つ大いなるモノ。
"竜"。
それに勝つ方法はーー。
ウィスは感じる。
敵は世界最強の種族、竜。
鱗は剣を弾き、牙は鎧を貫き、その翼は人ならざる世界、空を掴む。
世界から愛された選ばれし生物。
"竜"
それに勝つ、方法はーー。
「どうした、その程度か。下等生物ども」
「ガッ、ギャッッ!?!?」
ボッ、ボッ、ボッ!!
金色の焔に追われ、逃げ回る英雄。
焔に気を取られた瞬間に。
「気を抜くなよ、下等生物。すぐに死ぬ、ぞ」
「ウオ!? ま、じかァ!?」
がぎん。
空中で繰り返される剣戟。
ウィス・ポステタス・ヘロスは間違いなく今、人生最高の動きをしている。
繰り出される剛剣、剛力。
冒険都市の高い建物の屋根から屋根へ飛び回り、駆け、縦横無尽に動き回る。
だが。
「ふかか。そろそろ飽きてきたな」
がきん!!
屋根から飛び上がり、襲い掛かり振るう剣も、アリスの三又槍に難なく受け止められる。
「クソ、が」
「そらそら、どうした? 力が自慢なのだろう? ふかか。おっと、悪い、下等生物は空では踏ん張れなかったな」
ぐっ。
アリスが鍔迫り合いの状態からぐっと、力を入れる。
「チッ!?」
それだけでウィスは地面にまた墜落する。
竜が見下ろし、英雄が見上げる。
翼無き者と翼持つ者の差が如実に。
「クソがァ、厄介だなぁ、オイ。どうやったら致命打当たるんだァ? あんだけ簡単にふよふよ飛ばれたらよお」
「ふかか。そんな目で見るな。地を這うしか脳のない虫が哀れになってくる。……だが、そうだな」
ばさり。
アリスが背に生やした翼をはためかせる。
竜の象徴、空への切符。太陽と黄金を閉じ込めた命の形。
とさり。
「あ?」
「へえ……」
ウィスが怪訝な声を。
そして、フォルトナが静かな声を。
「ふかか。良い。このまま貴様を遊び殺すのも良いが、オレの気が済まん。下等生物、伏して拝せよ、貴様と目線を同じくしてやろう」
竜が、翼をたたみ地面に降り立つ。
「なんのつもり。だァ?」
「何、貴様があまりにも卑しい目つきをするものでな。不愉快だったのだ、翼さえなければ竜などどうとでもなると言わんばかりの目が」
「なるほどなァ。バレてたかァ。負けた時の言い訳にすんじゃねえぞ」
「ふかか。良い、その調子で囀れ。下等生物」
金色の髪、赤色の髪。
竜と英雄が向き合う。
鷹揚に三又槍を肩に乗せアリスが前へ。
下段、地面に剣先を引き摺りながらウィスが前へ。
「来い、足掻いてみせよ、ヒューム」
「吼えヅラ掻くなよォ!! 竜!!」
振り上げられるバスターソード。
地面を削り、レンガの破片ともに竜の顔面へ。
「ふかか」
視線、睥睨。
アリスの蒼い眼に収まる瓦礫は一瞬で金色の焔によって焼き消える。
迫る剣先がアリスの顔にそのままーー。
「ギャハ!! ーーあ?」
ガチん!!
ウィスの笑いは一瞬。
硬質な音、それは竜の牙の音。
顔面に向けて振るわれた剣をアリスが噛みつき受け止める。
竜の牙が、剣に食い込み。
「この程度か? 下等」
「マジ、かーー」
ドッーー。
そのまま竜の三又槍が英雄の腹を抉る。
「ッ!?」
ジュウウウウウ!!
赤熱する槍先がウィスの肉を内臓を骨を焼きーー。
「ふかか、死ぬが良い」
そのまま槍で持ち上げられたウィスが、竜の力により放り投げられる。
ゴミのように放られるウィス、地面をゴム鞠のように弾け飛び、建物に直撃する。
ガラガラガラと音を立てて崩れる建物。
悲鳴は聞こえない。
「ふん、そのくだらぬ命でオレの縄張りが傷付いた。この代償は、貴様の主の血と肉と魂で以って償え」
アリスがウィスから視線を切る。
その竜の瞳が次に定めるのは、彼女。
「さすが、お姉様」
「フォル、覚悟は良いな」
竜が王女にゆっくり近付く。
爬虫類が、獲物との距離を詰める、その緊張感。
「あらあらふふ。ああ、素敵です、お姉様。まさか、わたくしの英雄をこんな簡単に屠ってしまうなんて」
「ふん。オレはもうヒュームを舐める事はない。そなた達の力は我が友に一度思い知らされている故に」
「まあ……かの竜殺しはお姉様をそこまで……ふふ、ふふふふふふ、あははははははは」
「……貴様、嫌な目をしているな」
竜が、王女の笑いを前にして歩みを止める。
「はて?」
「その目、オレは知っている。竜を前にしてなお衰えぬ殺意。ヒュームのそれは侮れん。その目をする者は貴様は獲物ではない。オレの、敵だ」
アリスは覚えている。
最初の死を。
狩人を前にした瞬間を。
狩られる者の恐怖を。
遠山鳴人のあの目を。
「お姉様……貴女は本当に変わられた。でも、貴女はまだ知らない。この世界の仕組みを。人の持つ本当の力を。ああ、ありがとう、お姉様、わたくしを追い詰めてくれて」
フォルトナは遠山と同じ目を。
「条件、達成です」
「ねえ、わたくしの英雄」
月の光が、竜の背後で。