軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

142話 竜を、狩る

疾走。

「うわあ!?」

「なんだ、あの馬車!?」

「あの馬、首がねえぞ!?」

「あぶねえだろうがバカ野郎!」

ヒトの波を裂き、疾走する馬車。

御者は2人。

ドレス姿の緑髪の美少女、赤髪の大男。

「ギャハハハハハハ!!!! どけどけどけぇ!!! 轢かれても知らねえぞォ! あ、やべ」

「あ、ママ……」

「リリー! ああ。ダメッ!」

「もう間に合わない! よせ! あんたまで轢かれるぞ!」

暴走する馬車。

目の前には逃げ遅れた幼いこども。

母親からはぐれたのだろう。

「やべ、王女サマ、もう止まれね――」

「直進です、ウィス。何か問題でも?」

馬車は止まる気配はない。

首のない馬の蹄が、少女を踏みつぶさんと――。

「幸運にも」

「えっ」

「あああああ!!?? あ……?」

ばから、ばから、ばから。

馬車がそのまま通り過ぎる。

母親の悲鳴、我が子の変わり果てた姿を予想して、

しかし。

「ママ―!」

「ああ!! リリー! リリー……! よかった……」

「し、信じられん……馬車を避けた……のか?」

「いや、それよりも、馬車が……」

祭りの日、祭りの日。

アガトラの街を馬車が駆ける。

「お優しい事じゃねえか、姫様」

「あら、知らなかったんですか?」

馬車を駆るは大悪党。

帝国の象徴、護り竜を狩らんとする2人組。

フォルトナとウィス。

英雄と王女が街を駆ける。

「で、姫様、ここからの作戦はァ?」

「そんなの決まってるでしょう、ウィス。お姉さまとの、ブチ切れた竜との殺し合いです。期待してますね。英雄の力の覚醒を、ええ、幸運にも」

「……OK、計画なしって事でえ」

竜殺しを無力化し、女主教の心臓を止め、人知の竜も、鬼人も退けた。幸運にも、竜のメイドも行動不能。

ならば――。

「ああ、お姉さま、わたくしはうれしい、一世一代の大勝負、貴女の最後の敵はわたくしです」

うっとりとした顔で手綱を握るフォルトナ。

ウィスが大きなため息をついて――。

ぞっ。

2人の背中に鳥肌が湧く。

生物としての当然の反応。

己よりもはるかに上位の生物、それから向けられる殺意。

「――来たぜ」

「ああ――」

「ぶるるるるる」

首のない馬がいななく。

ゆっくりと馬車はその歩みを止めて。

「ああ、綺麗……」

黄金の太陽がそこにいた。

豊かな黄金の長髪、しなやか、黄金比の躰。

青い竜眼の瞳孔は大きく縦に裂けて。

「ふかか」

――嗤い。

それは、牙を剥く表情が源流の。

「避けろよ」

「姫様ァ!」

「ウィス!」

バッ。

2人の御者。

ウィスがフォルトナを抱えて跳躍、その一瞬後、馬車が金色の焔に包まれて。

「ふふふふ! 副葬品が焼かれています! 天使の遺した聖遺物、天使の妄執と心残りですら、竜の焔の前では! ふふふふふふふふふ!」

「笑ってる場合かァ、バカ姫がァ! 次は焼かれるのは俺様達だぞォ!!」

「あら、英雄。竜を狩るのでしょう?」

「っ!! 援護しろよォ、マジでよお!」

屋根の上に着地する2人。

大通りに1人立つ、視線1つで気に入らぬものを焼き尽す資格を持つ生物が1人。

「オレを見下ろすか、下郎、不愉快だ、故に」

ばさっ。

空を掴む翼が彼女の肩甲骨から。

右手に金色の焔を纏う、その中から現れるのは三又の大槍。

一直線、真上。

竜が空を飛ぶ。

「伏して拝せよ、貴様らに目の前にいるは、竜ぞ」

「見りゃあ」

「わかりますよ、お姉さま」

見下ろすは竜、見上げるはヒト。

「良い、それでは、始めよう、ぞ」

竜が、また牙を剥いた。

風が吹き、翼がはためき。

「なっ」

「一撃で死んでくれるなよ」

三又の一撃。

打ち上げるような攻撃、ヒトの身体がゴムまりのように空に吹き飛んで。

「ふかか!! ふかかかかかかかかかかかかかかか!! どうした!? そんなものか!? 英雄!!」

「あ、ガ、ギャァアアアアアアアアアア!!」

空中。

剣戟、爆発、光。

おおよそ有機物の争いで発生する事など考えられない圧がアガトラの街に現れる。

空中。

打ち上げられたウィスの身体を、竜が空を駆けて追い越して。

「そら、着地してみせよ、死ぬなよ」

「あ、ガッ!?」

大槍の一撃、振り下ろされたそれをウィスが大剣で受け止める。

胴体を二分されることはない、だが当たり前のように地面に強く叩き落とされる。

「ば、けもんがよォ……ここまで差があるかね」

「良い、存外に頑丈ではないか。下等生物」

がれきから這い出る英雄が、地を這う。

竜が、天を泳ぐ。

アリスの豊かな金髪が空の気流に靡く。

その目の瞳孔は大きく縦に裂け、凶暴な笑みからは牙が溢れる。

笑っていた、嗤っていた、咲っていた。

「ふかか」

支配と暴力を根源とする上位生物。

「ふかかかかかか!! ーーゲギャギャギャギャギャ!!!! ギャギャギャギャギャギャ!!!!」

竜が、嗤う。

縄張りを、そして何より。

「ーー貴様らは、ナルヒトを傷付けた」

己が友を傷つけられた竜に、もはや理性などない。

竜の嗤いは夏の夕立のように突然に消え失せる。

その後、残るのは怖気立つほど美しい無表情。

天上が贔屓して造形したであろう竜の美貌が、英雄を見下ろして。

「楽に死ねると思うな、覚悟せよ」

「……らしいぜ、姫様」

「あらあら、ふふふ。ピンチ、ですね、ウィス」

ボロボロの英雄の背後、静かに嗤う毒の花の如き少女。

「フォルトナ、古い我が知己よ、小さきモノよ、もはや言葉は不要。我が懐かしき思い出よ。ーー死ぬが良い」

「お姉様、我が過去の憧れ、今変えるべき偉大なる者や、ーー死んで下さいな」

「焔よ」

「幸運にも」

金色の焔が空を焼く。

英雄と少女、その2人を平等に金色の焔が焼きつくさんと。

「あら、幸運にも。焔が逸れてしまいましたわ」

「チッ」

まっすぐ空から下郎を焼き尽くす竜の焔はしかし、突如軌道を曲げて街の建物へ。

竜が、一瞬、焔を消す為に建物へ視線をーー。

「あっ、そう言う感じィ??」

「ーー!」

当然のように。

跳躍で、竜の領域に侵入する英雄。

先の攻防で傷を負ったと思えない動きのキレ。

いや、これは。

アリスは気付いた。

英雄の真価。

「身体がよ、温まってきたぜ!!」

「ふかか! 貴様! 存外動けるではないか!」

ガキキキキキキキキ。

大槍と、大剣の応酬。

徐々に英雄のエンジンが温まる。

竜のスペックに英雄が対応し始める。

「ああ、お姉様、貴女は本当にお美しい……そのお身体、そのお心。貴女は竜……我らヒトより上におわすもの。空を飛び、焔を操り、財宝を手繰る者……」

空を飛ぶ竜、空を跳ぶ英雄。

理外の存在達の戦いをフォルトナが地上から見上げる。

うっとりとした目つき、彼女は心の底から竜が好きだった。

だからこそ。

「幸運にも。竜よ、貴方は英雄を追い詰める」

竜の一撃が、英雄をまた吹き飛ばす。

「あー死ぬ、死ぬ、死ぬ……いやァ、違うなァ、まだ生きてらぁ!」

「ふかか、良い、獲物はイキが良い方が退屈せぬ!」

竜と英雄が殺し合う。

ゆっくり、ゆっくり、英雄の位階が上がっていく。

【”力の英雄”が竜と戦闘を始めました――条件達成”英雄の歌” 特殊なクエストが始まります】

フォルトナの細長い指が、竜と英雄の戦いを四角の枠に収めて。

「さあ、わたくし達の竜狩りを始めましょう」