軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111話 影と幸運

【DEADクエスト "News the wind"をクリアしました。DEADクエストをクリアした為、技能"死ににくい男"が更に強化されます。

【また塔級冒険者ウェンフィルバーナを退けたことによりあなたの冒険者ギルドでの評価が大幅に上昇しました。冒険者ギルドからの評価がB+"…………マジ?"まで上昇しました】

【これにより新たに塔級冒険者とのコミュが追加されます。また冒険都市のどこかである特殊なクエストが開始されます。あなたはこれに介入することもしないことも出来ます】

【"神性(霧)"を使用しました。キリヤイバカウントが進行しました。お囃子の音が聞こえます。それはゆっくり、しかし確かにあなたへ近づいていきます、また一つ"神兵"に近づきました】

………

……

〜モロウ商会の一件の後、スレイル精肉店にて〜

「む、無理だ! 無理だよ! うちもモロウ商会に目をつけられてるんだ! これ以上やらかしたら本格的に潰されちまう!し、知ってるぞ! ドロモラ商会も、モロウ商会に目をつけられてーーえ? もう解決した?」

「いや、でも! うちにだって、代々やってる肉屋としてのプライドがある! リザドニアンの作るパンなんてそんなもの商品になるわけーー」

「うんまあああああああああああああ!!? え? マジ? なにこれ。作りたてじゃないのに、柔らか……! え、なに? これにうちのソーセージを? 新しいパン? いや、いやいやいや、教会がそんなもの許すわけ……天使教会異端審問会!!? え!? 異端審問会がパンつくんの!? え!? 教会の許可済み? いや、でも」

「いや、うっっっま!! ラザール? 君の名前はラザールっていうのか! ……リザドニアンのパンとか言ってごめんね! 君、すごいやつだ!」

「もう! わかったよ! スレイル精肉店はドロモラ商会とラザールベーカリーと一緒に仕事をする! 竜祭りの日にはたくさんのソーセージを君達のところに収めるからね!」

………

「はー? リザドニアンのパンンンンンンンンンウマアあるアアアアアアアア!!? え、なに? これで屋台やんの? いや、でも、リザドニアン……うっま、それによく見ると、へえ、君、可愛いね……ウソウソウソウソウソ!! やめて! 水色髪の子! 剣を突き立てんといて!! うわあああ! きつね目エエエエエエエ! やめてエエエエエエエ! それはうちの店の大事な取水機イイイイイ!! 綺麗な水を地下から汲み取る大事な機械なの! 大戦期よりも前に作られたものだからもう作れないの! 壊さんといて! わかった! わかったから! バーノン商店はラザールベーカリーに協力する!」

……

「はあ? リザドニアンのパン? はん! こんなものが融資の材料になるとでも? ……いや、でも、待てよ。そこの白い鱗の赤い目のリザドニアンが作ったのか……ねえん、君、ウチの下男の仕事に興味イイイイイイイイイイイイイイ!? やめてやめて! 穏便に行きましょうよ! 第一の騎士! 竜殺し!その剣とメイスはしまいなさいよ! もう情報は入ってる! 冒険者ギルドから聞いてるわよ! モロウ商会! いいえ、商人ギルドはアンタたちに負けたんでしょ! もう! やあね! 少しからかっただけじゃない! 融資ね! いいわよ! いくら欲しいの!? スコルノ両替商会はアンタたちに金貸すわよ!」

……

「リザドニアンーーバパパパバパパン!!」

「うまあああああああああああ」

「そこのリザドニアンの鱗と目を売ってくれるならお前らに手を貸しても、ギニャアアアアアアアアア!! あああああ、俺の髪の毛があああああ」

「俺の鼻を広げないでエエエエエエエ」

………

一気に、パンの屋台に必要な資材集めを回る審問会とドロモラ。

全員がヘロヘロになりながら街の雑踏を進む。

「つ、疲れた……」

「はあ、はあ……この街のよお、商人は、変態か性悪しかいねえのか? 一番まともなのがドワーフの工房とハーフリングの肉屋ってのはどうなんだよ……」

「むしろアイツらを1人も斬らずに全て終わらせれたのは奇跡、ディス……」

「強行軍が過ぎる……取引というものはもっと、エレガントに行いたいものだが……」

肉、水、金、その他もろもろ。竜祭りに備えてパン屋の屋台のための必要なもの集めはなんだかんだで1日でケリがつきそうだ。

あとはーー

「よし、じゃあ、最後だ。1番疲れるが、1番話が早そうなとこに行くぞ」

「え、それって」

ストルが露骨に嫌そうな顔をして。

「ドワーフの工房だ。あの酔っ払いの大酒飲みどもに移動式のパン釜を作ってもらう」

「汗臭いの、嫌いディス……」

よほど、嫌な記憶があるのだろう。

ストルはヒゲが汚れた猫みたいな顔を浮かべた。

……

〜竜大使館の庭園にて〜

「朗らかな陽気ですねえ。わたくし、開花の月が1番好きかもしれません」

色とりどりの花が咲き乱れる庭園。

メイド服に身を包んだ緑髪の少女がニコニコ顔で花の手入れを続ける。

竜大使館の庭、ここの手入れは本来ならばメイド長の仕事だったが、彼女が床に臥せている今、いつのまにか、自然に、幸運に、この新入りのメイドの仕事となっていた。

「よお、お姫様。ほら、外套だァ。てめえ体はクソ雑魚なんだからいくら開花の月でもあんま風に当たんなよ」

隣で花に霧吹きをかける執事服の男が、薄い外套を少女にて手渡す。

「あら、紳士ですね。ウィス。……執事見習いはどうですか?」

「あー、ダメだなありゃ、勝てんわ。100回やってよ、99回は殺される」

互いに花に水をやり、土をいじり、葉を剪定し。始まるのは物騒な会話。

もちろん、それに聞き耳を立てるものがいないと確認した上での行動だ。

「あとの1回は?」

「いい勝負をして、腕か足を一本渡して逃げれるかどうか。正面から争うのは無理だぜ、あの爺さん、怪物やら英雄やら、そんな次元にはもういねえよ」

「まあ、そこまでですか。鬼人は。かの炎竜と並び称されるこの世界最強の存在なだけはありますねえ」

「呑気なもんだな。アンタから見たらどうよ?」

「うーん。わたくし、武人の強いかどうかとかはよくわからないのですが、まあ、その、正直与し易い相手かな、と」

「あァ? 正気かぁ? 俺様より、強いんだぞォ?」

「だからこそ、ですよ、ウィス」

ぱちん。

工房製の剪定バサミが大きくなりすぎた赤い花弁を断つ。

「かの執事長殿はわたくしたちを見ていない。彼にとってあまりにも取るに足らない存在すぎて、意識を向けていない。ああ、わたくし達はやはり、幸運です。恐らく彼の欠点を補う為にもう1人の優秀なメイド長殿がいたのですね、でも、彼女は今、病床の中、ふふ、フフフフフフフフフ、運命はやはり、わたくしに味方してくれている」

「……目的を確認してもいいか? 俺様達の今回の目的はーー」

「 竜(・) 殺(・) し(・) その、完遂。わたくし達の目標はあの美しく強く、そして脆くて可愛い幼竜の討伐です」

パチン。花弁を一つ手に取って。その香りを愉しみながら緑髪の少女。フォルトナが笑う。

「暗殺でもするか? あの執事の邪魔さえなけりゃ、まあぶっちゃけよお、 蒐(・) 集(・) 竜(・) と(・) な(・) ら(・) い(・) い(・) 勝(・) 負(・) が(・) 出(・) 来(・) そ(・) う(・) だ(・) ぜ(・) 」

土を小さなスコップで掘り返し柔らかくしつつ、執事服のウィスがなんともなしに呟いた。

彼が出来そう、と言えばそれはきっと出来るのだろう。フォルトナは己の英雄の言葉に内心微笑みながら、わざとらしくほ

「うーん。それも面白そうですが……ウィス、あなた、残り6回全て殺し切れますか?」

「あー……そう、だった。命が元々7つ。んで、今はあと6つかァ」

「ええ。それに竜は死ぬたびに強くなる。まあ、何事も試して見ないとわかりませんが、わたくしたちは所詮はか弱き定命の存在、上位の生物に立ち向かうのに何も真正面、正方向から行く必要もないでしょう」

「なーんかいつもの悪巧みでもあんのかァ?」

「クスクス。ええ、もちろん。竜を殺すのに実は6回も殺す必要はないのですよ」

「ああ? どういうこったァ?」

「簡単です。 も(・) う(・) 2(・) 度(・) と(・) 生(・) ま(・) れ(・) た(・) く(・) な(・) い(・) 、竜にそう思わせればいいだけの話です」

「は?」

「まあ、上手くいけば竜を1回殺すだけで、我々の竜殺しは成ります。フフフ、たのしみですねえ。あの可愛い竜が己の生を放り出し、絶望する姿……」

「いや、無理だろ。竜だぞ。そんな心の弱い雑魚みたいな状況にそもそもならねえ」

「クスクス、そうですか? 今のあのお方は、わたくしにはそうですね。思春期の少女、幼年期を終えようとしているただのヒトにしか見えません。無論、油断するつもりはありませんけど」

「……なーんか手があんだな?」

ウィスの言葉にフォルトナが微笑む。ちょいちょいと手招き。

「こんなのはどうでしょうーー」

そっと、耳打ち。

「うーーわァ」

ウィスが、本気でドン引きしていた。

「まあ。なんです、その顔」

「いやあ、エグぅと思ってよォ。絶対アンタ友達いねえだろ」

「クスクス、ウィス〜、もうそんなこと言って。わたくし、傷ついたなあ……これから、あの竜と友達になるのですから問題ないですよ、でも、それはそれとして、傷ついたなあ」

フォルトナがすうっと、目を細める。唇は微笑んでいるが、目は笑っていない。

「待て待て待て! "幸運"を俺様に向けんな! 悪かったって!」

「フフ、まあいいでしょう。それにお友達ならわたくしにもいますもの。ねえーー」

ふっと。

風が、いや、空気の動きが止まった。

パチン。

フォルトナがそっと、また花弁を断ってーー

「元勇者パーティのあなたさま?」

「ッ!?」

「「…………」」

フォルトナとウィスの背後には、ただ 影(・) があった。人がいるはずだ、生き物がいるはずだ。

だが、悪事を隠すその影がそれを覆い、その認識を許さない。ウィス・ポステタス・ヘロス。英雄の五感を持ってすら接近も認識も敵わない。

「おい、マジか」

振り返り、ウィスが戦慄する。自分が他者の接近に気付かなかった。

それはつまり、今自分達はこの背後の存在に殺されていてもおかしくなかったことを意味している。

「思っていたよりも早くお会い出来ましたね。元勇者パーティー、ええっと、なんてお呼びすれば? 色々なお名前がありますものね。盗賊? 斥候、それともカーー」

影が、幸運にふりかかる。緑色の髪を、星形の瞳を、影が包み、闇に溶かしてーー

「おおっと、こっから先は俺様のモンだァ、無許可で触れんじゃねえよ」

風切り音。

英雄が、その剛力をもって腕を振るう。まとわりついたもやを吹き飛ばすかのごとく、闇を、影を払う。

「まあ、ウィス。流石です。うふふ、恐ろしいですね。勇者の力をもってしても祓うことの出来なかった宿痾。溶かされてしまうかと思いました」

「お姫様、頼むからよォ、やべえ奴とやり合う時ははやべえって言ってくんね?」

「「…………」」

影は何も応えない。

ただ、じっと、幸運と英雄の前に佇む。

「クスクス、これでお分かりになられましたか? わたくしの英雄は強いのです。さて、盗賊さん。輝く勇者に置き去りにされた哀れな盗賊さん。今回は、わたくし達にお譲りくださいな」

「「…………」」

「フフ、わたくし、知っておりますのよ。あなたが本当にどうしようもない人であることを。愛されたいくせに、向けられた愛をためさずにはいられないお馬鹿さん。ええ、わかっておりますのよ」

「「…………………………………」」

「あら、ふふ。怖い顔をしても無駄です。わかってますよ。あなた、期待しているのでしょう? 竜殺しに」

緑髪の少女、フォルトナの舌が回る。

「ああ、おかしい。彼は勇者ではありませんのに。フフフ、どうしてでしょう? 彼女も、あなたも、勇者パーティーの方はみな、竜殺しに何かを期待する。何かを望む。ああ、もしかしてーー」

どうしようもないほどに、愉快なものを見た。

フォルトナの目が、顔が、嗤うーー

「竜殺しに、勇者の面影でもみつけたのですか?」

「「ーー」」

影が膨らみ、フォルトナを今度こそ溶かし尽くそうと。

「"幸運"にもあなたはきっと、わたくしには触れない」

降りかかった影が、フォルトナに落ちる、しかしちょうどフォルトナに触れる部分の影だけが空気に溶けて霧散する。

「「……」」

影は、幸運に届かない。

「よく聞きなさい。竜を殺す道ならば、必ずわたくし達の前に竜殺しは立ちはだかる。ええ、 運(・) 命(・) の(・) 知(・) ら(・) せ(・) がわたくしにそう告げているのです」

「「……」」

「ですから、フフ。今回は引き下がりなさいな。ご安心ください。あなたの願いはいつか必ず叶います。わたくしか、竜殺しか、それとも、射手殿か。ええーー」

星形の虹彩が、その影を見つめる。

「あなたはきっと、望み通りに殺される日が来ます。ですから、今はお帰りなさい、悪事にも影にも光にも愛されず、ただ生き残ってしまった哀れなひと」

「「……ーー」」

しばらくの沈黙の後。最初からそこには何もいなかったように影は消えた。

ふわり、風が運ぶ花の香りだけが、フォルトナに生の実感をもたらせる。

「おーい。なんだったんですかぁ? 今のは」

「フフ、さあ? でも、お眼鏡には叶ったようですよ。わたくし達はかの勇者パーティーを前にして、死んでいないのですもの……あら……」

つーっと、フォルトナの口から赤い血が垂れる。ゆっくり垂れる血が花壇の土に沈む。

「ーーっおい! これ、お前!」

「フフ、まさに、身に余る幸運、だったのでしょうね。あの影に見逃してもらえたのは。……影と死と闇。この世界の暗いものを全て内包してなお、勇者と共にあった哀れな魂。……フフフ、でも、わたくし達は生きている」

「……"幸運"のぶり返しが来たのはいつぶりだァ? さっきの、ほんとにヤバかったんだなァ」

「ええまあ、仕方ありませんよ。だってーー」

ウィスの言葉に、フォルトナが口元の血を舐めとりながらそれでも、笑う。

「だって今のは 死の運命を乗り越える(DEADクエスト) 試練だったんですもの」

ピコン。

【DEADクエスト "Shadow and Death"をクリアしました。元勇者パーティー■■■■との邂逅を生き残りました。あなたの秘蹟"幸運"が更に強化されました】

フォルトナ・ロイド・アームストロング。

彼女が、彼女にだけ見える矢印とメッセージを眺めてーー

「コッワー、でしたわね」

にひひと、笑った。