軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

脇より現れし牙

「クラウス様」

前方を見据える副官の声。

速度を抑えた騎兵列。その先——

「防御村外縁まで、あと少しです」

「……」

クラウスは、静かに前方を見た。

防御村。ここは、守る為に耐えていた点。

敵包囲下で、押され。削られ。

それでも——耐えていた。

そして今。

「……」

そこへ。

“横から、こちらが来た”

「……まずは」

ぽつり。

「初の横腹」

一拍。

「……突き立てる所まで、来たか」

副官が、小さく頷く。

煙で南下主力を削った。敵線を折った。

父も動き出した。エドワルドも、別線を押し上げている。

なら次は——

“止めた敵へ、こちらから刺す”

「……さて」

クラウスの目が、僅かに細まる。

「どの程度だ」

「……?」

「敵兵力だ」

当然。

敵数次第で、やり方は変わる。

数が多いなら、攪乱、火、削り。

密度が薄いなら、突破、崩壊。

「……」

勢いだけで、突っ込む気は無い。

横腹とは、勢いではなく。

“最も、崩れる場所へ刺す事”

「偵察隊より!!」

前方伝令。

草を裂き、偽装布姿の兵が戻る。

「申せ」

「……はっ!!」

息を整え、即答。

「敵は、防御村への反包囲を維持しつつ——」

一拍。

「攻撃継続中!!」

「……」

つまり。

まだ、こちら側を想定していない。

防御村へ意識集中。包囲維持。攻撃継続。

「……敵兵力は?」

「約——五百前後!!」

「……」

副官が、瞬時に計算する。

こちらは、煙戦後とはいえ、即応騎兵を中心に健在。

「……数的には……こちらが有利、ですな」

「……ああ」

クラウスも、短く答えた。

五百。多過ぎない。少な過ぎない。

だが——“脇から突然来る敵”

としては、十分。

「……」

包囲中の兵は、前を見る。

村。抵抗。壁。矢。

そこへ——横。

「……」

最も、心が折れやすい。

「……なら」

クラウスの声が、少し低くなる。

「騎兵で、走り抜ける」

「……!」

副官の目が、僅かに鋭くなる。

「中央突破、ですか?」

「……違う」

短い。

「“走り抜ける”んだ」

「……?」

包囲軍を、止める為に留まる必要は無い。

重要なのは。

“突然、脇に現れた”

その事実。

「前列を裂き」

「……!」

「包囲へ、“別方向の敵が来た”と理解させる」

「……!」

「その上で」

視線は、敵後方寄り。

「……抜ける」

「…………」

副官が、そこで理解した。

止まって殲滅ではない。

走り抜ける事で。

「……包囲が、後ろまで破られた様に見せる」

「……そうだ」

包囲兵は、前を攻める兵。後ろを支える兵。命令を送る兵。

そこへ。横から、騎兵が高速で突っ切る。

「……」

何が起こる?

後方が乱れる。伝令が乱れる。包囲線が、

“もう囲えていないかもしれない”

と誤認する。そして——崩れる。

「……」

クラウスは、静かに息を吐く。

煙も、毒も、火も。

今回は、要らない。

「……十分だ」

脇。速度。恐怖。

「全軍へ」

「……!」

「突撃準備」

「……!」

「速度優先」

「……!」

「止まるな」

さらに。

「敵将を探すな」

「……?」

副官が、少し意外そうな顔になる。

普通なら、将狙いも有効。

だが——

「混乱だけで、足りる」

「……!」

そう。今回は、“勝つ”より。

“包囲を壊す”

その方が、価値が高い。

「防御村側へも合図」

「……!」

「こちらが突き抜けたら——」

一拍。

「村側も、押し返せ」

「……!!」

内と外。同時に包囲とは、外から押す形。

なら——外が裂け、内が押せば。

「……囲いは、形を失う」

副官の口元が、僅かに上がる。

「……成る程」

「……」

クラウスは、静かに剣を抜いた。

陽光。

煙ではない。火でもない。

今回は——“速さ”

「……突然、脇から現れた敵」

ぽつり。

「……それだけで、人は崩れる」

防御村外縁。

未だ、敵は前だけを見ている。

村を、削る為に。だが——次の瞬間。

その横腹へ。

煙を抜け、枝を折り、ここまで来た牙が。

初めて。“守る側を囲う敵”そのものへ、突き立てられようとしていた。