軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

脇腹は、叫ぶ前に裂ける

「ヤァァァァッ!!」

草原を裂く様に、クラウス隊先頭が吼えた。

「行けぇぇぇ!!」

ドッドドドドドドッ——!!

地鳴り。

煙ではない。火でもない。今回は、騎兵。

速度そのものが、牙だった。

「射かけろ!!」

防御村正面——敵包囲軍。

未だ、前方の村へ意識を向けていた兵達が、弓を引き、槍を構え、壁へ圧を掛ける。

その時。

「……?」

一人が、違和感に気付く。

横。右側からの土埃。

「……騎兵隊?」

包囲中、本来なら有り得ぬ方向。

「側面から……?」

一拍。

「援軍か?」

そう思った。思ってしまった。

何故なら

“そこに敵が来る想定”

そのものが薄い。だが——

「……いや!!」

小隊長兵。

「違う!!」

更に。

「敵だぁぁぁぁ!!」

絶叫。

「敵襲!!」

「右側面!!」

「……!?」

その瞬間、空気が裂けた。

「はぁ!?」

「な、何故敵が来る!?」

「包囲線は!?」

「南下主力は!?」

「知らん!!」

知らん。そう。

“分からない”

その一瞬こそ、クラウスが狙った物。

「攻撃中止!!」

敵将校。

「中止だ!!」

「側面!!側面から来る敵に対応——」

遅い。

「ヤァァァ!!」

最前騎兵、槍衝突。

ガッ!!

横列へ、そのまま突き刺さる。

「ぎゃぁぁっ!!」

「うわぁっ!!」

前を向いていた兵へ、横から馬。

当然。崩れる。

「止まれ!!」

「槍!!」

「右向け!!」

無理だった。前列。中列。後列。

全て、“前”基準。

そこへ横。しかも——速い。

「クラウス様!!」

副官。

「やはり——混乱しております!!」

「……だろうな!!」

クラウスは、速度を落とさない。

「脇腹を突いているんだ!!」

当然だ。正面は、構える。

側面は、遅れる。後方は、更に遅れる。

「切り抜けるぞ!!」

「はっ!!」

止まらぬ。斬る。裂く。崩す。

だが——目的は殲滅ではない。

“包囲線そのものを、形として壊す”

「抜けた!!」

「第二列、崩壊!!」

「後方伝令混乱!!」

敵側。

「何処だ指揮官!!」

「右だ!!」

「いや中央だ!!」

「村兵も出て来るぞ!!」

「……!?」

その瞬間に、防御村側。

「今だ!!」

「押し返せぇぇぇ!!」

内側から、門が開く。

「……!」

村兵反撃。

外から、クラウス。

内から、防御村。

「……挟まれた!?」

違う。本当は、挟撃ですらない。

だが——

“そう感じる”

それで、十分。

「クラウス様!!」

副官。

「敵が——」

一拍。

「崩れ始めています!!」

「……」

見える。

右が裂け。中央が止まり。左が

“次は自分か”

と揺れる。

包囲は、連続してこそ意味がある。

一点崩れれば、その形そのものが。

「……防御村へ合図」

「……!」

「反撃継続」

さらに。

「我々は——」

クラウスの目が、崩れた敵左翼へ向く。

「……左へ回頭」

「……!」

副官が、僅かに息を呑む。

「崩れた側を……?」

「追うぞ」

短い。

「……!」

当然。右から裂いたなら、敵は左へ逃げやすい。

だが——その左へ、こちらが回る。

「逃げ道も、整列も与えるな」

「はっ!!」

クラウス騎兵、一度突き抜け。

その勢いのまま、左旋回。

「う、うわぁぁぁ!!」

「ま、また来る!!」

「右じゃないのか!?」

「何故左からも!?」

違う。同じ敵だ。だが、混乱した兵には。

“もう、どこからでも来る”

「……」

それで、折れる。

「捨てろ!!」

「逃げろ!!」

「包囲線維持不能!!」

「後退!!」

その言葉が、出た時点で。

もう、包囲は終わりだった。

「……」

クラウスは、走りながら静かに見る。

崩れる敵。押し返す村。裂けた包囲。

煙で、敵枝を折った。

そして今。速度で、包囲そのものを裂く。

「……良い」

ぽつり。

「形が、壊れた」

戦場において、兵数だけではない。

“形”

包囲も、陣も、恐怖も。

形を失えば、兵は数以上に脆い。

春。

その日。

防御村を囲んでいた敵兵達は、兵力差だけで敗れたのではない。

“前しか見ていなかった包囲”

その脇腹へ。突然、速度という牙を突き立てられ。叫ぶより先に——裂かれた。