軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

沈めた物をこちらへ流す

「エドワルド様!!」

泥濘地帯沿い——回収整理地点。

「……どうした」

エドワルドは、倒壊荷車と泥流痕を見渡したまま答える。

「まだ途中ですが——」

伝令兵の声には、僅かに興奮が混じっていた。

「かなりの鹵獲量になりそうです!!」

「……」

差し出された、集計途中の用紙。

泥で少し汚れているが、内容は読める。

「……」

荷馬車——使用可能、八。

修理可能——十六。

廃棄——二十三。

剣——百二十三。

槍——六十九。

弓——三十二。

弓矢——五百六十。

糧食——十日分。

馬——二十八。

負傷馬——五十八。

「……」

副官レオンが、思わず口笛でも吹きそうな顔になる。

「……途中、ですよな?」

「……ああ」

エドワルドも、流石に少し黙った。

途中。つまりまだ増える。思った以上だ。

泥で止め補給を崩す。そこまでは、想定通り。

だが——

“残る”

これほど、残るとは。

「……」

敵は、運べなくなった。

だが、消えた訳ではない。

「……使う」

ぽつり。

「……我々が、使わせて貰う」

「……!」

周囲の兵達の顔が、少しだけ変わる。

壊しただけではない。奪う。

しかも——使う。

「食料は優先仕分け」

「……!」

「馬は軽傷優先、治療」

「……!」

「使用可能荷車は即編入」

「……!」

「修理可能は後方送りだ」

「はっ!!」

泥濘地帯に、新しい意味が生まれる。

敵補給崩壊地点。だが今や——

“自軍再補給地点”

「エドワルド様!!」

別伝令。

「……?」

「領主様より!!」

一拍。

「敵の横腹を——突き刺せ、との事!!」

「……」

数秒。

レオンが、口元を上げる。

「……いよいよ、ですな?」

「……そうだな」

短い。だが——そこで、終わらない。

「……しかし」

「……?」

エドワルドは、再び周囲を見る。

泥と流失物。荷馬車と馬。散乱物資。

「……このまま全部を抱えて進むのは、鈍い」

「……」

当然だ。欲張れば、遅くなる。

今、必要なのは速度。

「……分ける」

低く。

「即運用可能、後回収、廃棄」

「……!」

「三分別だ」

「……」

レオン、一瞬だけ止まり。そして。

「……まあ」

少しだけ、苦笑した。

「既に、その様に指示しております」

「……」

「いつでも、出れます」

「……」

エドワルドは、数秒だけ副官を見る。

「……流石だな」

「恐縮です」

無駄が無い。派手ではない。

だが——速い。

「……では」

エドワルドは、泥流沿いの先を見る。

「……行くとするか」

「はっ!!」

進軍開始。だが、真っ直ぐではない。

「……」

堰を切った水は、敵を襲った。

同時に、地形も変えた。

泥濘中心を、無理に横切れば今度は、自分達が沈む。

「……沿って下る」

「……!」

「水流跡と並行だ。渡れる地点を探す」

「はっ!!」

軍は、泥流に沿って進む。

左右確認、流木、荷箱、遺棄武器、溺死兵。

「……」

春の水は、想像以上に広かった。

所々に、敵兵が横たわる。

鎧ごと、泥に沈み。荷が、枝に引っ掛かり。

箱が、途中で止まる。

「……」

兵達が、確認しながら進む。

「使用可!!」

「後回収!!」

「破損!!」

「馬、生存!!」

「……」

戦場というより、巨大な流失路だ。

「……エドワルド様?」

レオン。

「……ああ」

エドワルドは、既に理解していた。

「……思ったより」

一拍。

「広範囲だな」

「……はい」

少し、想定以上。いや、かなり。

「……」

理論通り。だが、規模が大きい。

最近、そればかりだな。

兄上も、こんな気分だったのだろうか。ふと、

そんな事を思う。

クラウスは煙。

グレゴールは偽旗。

そして自分は——

「……水、か」

ぽつり。

だが、悪くない。

敵が持ち込んだ物資。

敵が運ぶ筈だった糧食。

敵が使う筈だった馬。

それら全てが今。

“こちらへ流れている”

破壊だけでは、足りない。使ってこそだ。

「前進継続」

「……!」

「横腹へ向かう」

「……!」

泥を越え。流れを読み。拾い。分け。繋ぐ。

春。

その日。

エドワルドは、敵補給を沈めただけではない。

沈んだ物、流れた物、止まった物。

その全てを。

“自軍を前へ進める線”

へ、変え始めていた。