軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開いた門が、閉じる頃には

敵国内南部——某中規模町。

「敵襲!!」

その声は、夜を裂いた。

だが——最初に混乱したのは、“敵が来た”からではない。

「伝令だろ!?」

「いや違う!!」

「味方旗だったぞ!?」

「何だ今の!?」

門前の血溜まり。倒れた門兵。

開いたままの門。そして——

「突入!!」

叫びと共に、雪崩れ込む騎兵。

「なっ——!?」

「ま、待て!!」

「閉門!!閉——」

遅い。もう遅い。最前列を切り裂く騎兵。

そのまま真っ直ぐ——ではない。

「右だ!!」

「右回り!!」

「火を放て!!」

「!?」

町兵が、一瞬理解を失う。

普通、敵襲なら。

門突破し、中央制圧し、指揮所を破壊。

あるいは略奪。だが——違う。

「何処へ行く!?」

「右!?右だと!?」

その“理解の遅れ”そのものが、グレゴールの狙いだった。

「敵が迫っている!!」

「南門が危ないぞ!!」

「西もだ!!」

叫ぶ。本当か嘘か分からない。

だが、分からぬ以上——最悪を想定する。

「南門へ伝令!!」

「西壁警戒!!」

「中央の兵を分散しろ!!」

「……!」

守備兵が、割れる。

その瞬間。

パリンッ!!

「……!?」

土瓶発火が倉庫外壁、荷馬車、乾いた藁を焼き尽くす。

「火だぁぁぁ!!」

「倉庫が!!」

「水を!!」

「いや敵だ!!」

「どっちだ!?」

答えは、両方。

「次!!」

グレゴールは、止まらない。

騎兵は、止まらない。

速い。切る為だけではない。

“火を置いて行く”

土瓶を投擲。破裂し炎上。

「門付近にも!!」

「東路地にも火!!」

「何処だ敵は!?」

「多いぞ!!」

多くはない。だが、そう“見える”

夜の悲鳴。複数方向からの火。

そして——町外。

ボンッ!!

ボンッ!!

ボンッ!!

「……っ!?」

壁上兵が、顔色を変える。

「敵の増援だ!!」

「ま、まだ居る!!」

「外にも敵軍!!」

違う。据え置き土瓶発火。だがそんな事は。

今は、分からない。

暗闇。火線。連続。

“軍”に見える。

「囲まれた!?」

「馬鹿な、何騎居るんだ!?」

数十。だが恐怖は数百へ膨らむ。

「指揮官を呼べ!!」

「何処だ!?」

「中央広場です!!」

「いや南だ!!」

「違う西倉庫だ!!」

「どこも火だ!!」

その瞬間。町そのものが、理解する。

これは。防衛戦ではない。

“判断破壊”だ。

何処を守る?門か?倉か?中央か?住民か?

外敵か?内火か?

「……」

そして、最悪なのは、その答えを考える時間そのものが既に、燃えている事。

「逃げろ!!」

「子供を!!」

「水だ!!」

「違う武器を持て!!」

「何処へ!?」

「わからん!!」

「……」

グレゴールは、振り返らない。

目的は、占領ではない。制圧でもない。

“町として機能させない”

それだけ。

「撤収」

短く。

「入口方面」

騎兵が、流れる。来た時と同じく。

速く。だが——帰り際。

更に土瓶。門に荷馬車。

「門が!!」

「閉まらん!!」

炎上し崩落。

「……」

最初に開いた門は、今や。

閉じる為の機能すら、焼かれていた。

遠ざかる馬蹄。残る火。

悲鳴と誤認。

「敵は何処だ……」

町兵の、震える声。その問いに。

もう、意味は無い。敵は去った。

だが——

“敵が何処からでも来る”

その恐怖だけが、残った。

春の夜。町一つが焼かれた。

違う。もっと正確に言えば。

焼かれたのは——

町の“安全圏”そのものだった。そして夜明け前。逃げ延びた者達は、次の町へ走る。

「敵が来た!!」

「門が!!門兵が手引きした!!」

「味方旗で!!裏切り者が居る」

「中が燃えた!!」

噂は、火より早い。

グレゴールが、その夜、本当に焼いた物。

それは建物だけではない。

敵国後方に残っていた、“まだ大丈夫かもしれない”という判断そのものだった。