作品タイトル不明
誰が門を開けた
敵国内南部——某中規模町、夜明け。
燃え残りの匂い。焦げた木材。黒煙。
そして——
「……誰が」
低い声だった。
「……誰が、門を開けた?」
町内中央。半焼の広場。
集められた門兵、生存者、伝令役、壁上兵。
その中心で、町代官の顔は。
怒りより先に、理解不能で歪んでいた。
「……」
返答出来る者は、すぐには居ない。
当然だ。開けた。確かに、開けた。
だが——
「味方旗でした!!」
門兵の一人が、血走った目で叫ぶ。
「伝令と!!」
「敵が迫っていると!!」
「後ろにも松明が!!」
「……」
別の兵。
「私も、見ました……」
「……領主家紋です」
「……」
空気が、凍る。
「……偽旗か」
町代官の隣。副官が、低く吐く。
「違う!!」
門兵が、半狂乱で首を振る。
「見間違える筈が!!」
「俺達は!!」
「この町を守って……!!」
「黙れ」
短い。静か。だが、それだけで。
門兵は、言葉を失った。
「……」
町代官は、焼けた門方向を見る。
門は、崩落。黒焦げ。閉じる機能すら、失った入口。
「……」
問題は、焼失だけではない。
“判断”
誰が?何故?本当に偽旗だけか?
あるいは——
「……内通者は」
ぽつり。
「……居ないのか?」
「……!!」
その一言で、空気が変わる。
「……!」
門兵達の顔色が、更に変わる。
「お、お待ち下さい!!」
「我々は!!」
「なら何故開いた!!」
別兵が、叫ぶ。
「確認を急がせたからだ!!」
「敵襲と!!」
「だが結果は!?」
「……っ」
責任。判断。恐怖。全てが、今。
“門を開けた者”
へ集まる。
「……」
町代官は、理解していた。
これこそが、最悪。
火災被害?倉庫損失?町損耗?違う。
もっと、深い。
“次から、誰も即断出来なくなる”
「……」
つまり。
次に、本物の急報が来ても。
本物の伝令が来ても門前で、止まる。
疑う。遅れる。
「……」
副官も、気付く。
「……代官様」
「これ、は……」
「……ああ」
低く。重く。
「焼かれたのは、門ではない」
一拍。
「……信頼だ」
沈黙。
「……」
そして命令が下る。
「今後」
全員が、顔を上げる。
「夜間——開門禁止」
「……!」
ざわめき。
「代官様!?」
「本国急報は!?」
「軍伝令は!?」
「……朝まで待たせろ」
「……!!」
「旗だけでは、開けるな」
さらに。
「家紋確認、人数確認、合言葉確認」
「……!」
「不明時は、射抜く事も許可する」
「…………」
静寂。重い。だが、必要。
必要だからこそ——痛い。
副官が、苦く言う。
「物流が……」
「落ちるな」
「伝令速度も」
「落ちる」
「……」
「だが」
町代官の視線は、焼けた門。
「……次は、開けぬ」
その言葉。
強化であり、同時に。鈍化だった。
その頃——周辺各町。
「急報!!」
「昨夜、南方町襲撃!!」
「味方旗を装い、侵入!!」
「……!?」
「夜間開門、厳禁!!」
「……」
町や砦。村。次々と、同じ判断が広がる。
閉門、確認、停滞、疑念。
「伝令です!!」
「朝まで待て!!」
「本国急報です!!」
「合言葉は!?」
「し、知らん!!」
「止まれ!!」
「……」
本物すら、止まり始める。
春の朝。
グレゴールが、一夜で焼いた町は。
一つ。だが——
“その恐怖への対応”
は、敵国内全域へ、静かに広がり始めていた。
門は、閉じられた。
だがそれは、守りを固めたのではない。
疑いを、増やした。速さを、失った。
そして後方全体を、少しずつ。確実に。
“遅い国”へ変え始めていた。
誰が門を開けた?
その問いは、まだ終わらない。
何故なら——次からは、“誰も簡単には開けられない”からだ。