作品タイトル不明
繋ぐ者は、時に断つ
北部方面——旧領主館。
報が、止まらない。
「急報!」
「第四避難村接触敵——進行鈍化!」
「……?」
「第七避難村方面!」
「敵補給列、複数停止確認!」
「……」
「第二避難村!」
「敵圧力継続……ですが」
息を切らしながら、伝令は続ける。
「後続補給、遅延傾向!」
「……」
⸻
「第八方面!」
「包囲継続中!」
「しかし——」
「敵歩兵再編、停止多数!」
「……」
旧領主館。
部屋そのものが、一瞬だけ妙な沈黙に包まれた。
領主は、地図を見下ろしていた。
第四。七。二。八。
そして——その更に後方。
補給と歩兵を再編。各所。点々と“停止”
「……」
敵が、止まっている。一部ではない。
複数。それも——広い。
「……敵再編か?」
文官の一人が、慎重に口を開く。
有り得る。慎重化した敵。火。偽道標。接触。
ここまでを踏まえれば、全体速度調整も不自然ではない。
だが——
「……違うな」
低く。短く。
全員の視線が、北部領主へ向く。
「……」
指が、地図上を滑る。
一点停止なら再編。局地停止なら罠。
だが——
「……広過ぎる」
ぽつり。
第四。七。二。八。更に、補給中列。
街道途中。平野。
「……」
「敵判断だけで」
一拍。
「これ程、同時に崩れるか?」
部屋が静まる。
敵将は、少なくとも愚かではない。
火を受け、道を疑い、慎重化した。
なら。
そんな相手が——
「……見通しの良い場所で?複数補給列を?ほぼ同時に止める?」
「……」
有り得なくはない。
だが。
「……不自然だ」
敵都合だけではない。
「……」
領主の目が、僅かに細くなる。
こちらは、まだ総反撃命令を、出していない。
クラウス。エドワルド。
両線とも、大規模反攻段階ではない。
なら。
「……誰が」
止めた?
その瞬間、脳裏に一人。
領都。補給、避難、再配分、工房、偽装。
線を、最も多く扱う者。
「……」
「……グレゴール」
あまりにも小さく、だが——確かに。
文官が、顔を上げる。
「……グレゴール様、ですか?」
「……断定はするな」
即座。
思い込みは、戦場で毒。
偶然?敵策?内部混乱?
可能性はまだある。
だが——
「……確認しろ」
低く。
「領都方面」
「敵補給線接触有無」
「偽装村」
「中継点」
「街道攪乱」
「全てだ」
「……!」
「偶然か」
「敵策か」
さらに。
「……あいつか」
伝令が飛ぶ。
領主は、再び地図を見た。
グレゴール。
繋ぐ者。前線へ、布を。矢を。食を。命を。
滞らせぬ者。
だが——
「……」
もし。その“流れ”そのものを理解する者が。
敵補給線へ、逆から触れたなら。
「……」
口元が、僅かに動く。
笑みではない。理解に近い何か。
繋ぐ者は、流れを知る。
流れを知る者は——
「……断つ場所も、知るか」
ぽつり。
まだ確定ではない。もし、本当にそうなら。
グレゴールは、後ろを支えるだけではなく。
敵の後ろを、崩し始めた事になる。
春。
燃え始めた筈の線。だが今。
その線は、燃えるだけではなく——
何者かによって、途中から断たれ始めている。
領主は、静かに前を見た。
「……面白い」
小さく。
「……だが、確認が先だ」
戦場で、最も危険なのは。知らぬ事そのものではない。“分かったつもりになる事”
だからこそ——見る。
止まった線の先で、誰が、何を、断ったのか。
まだ答えを出さない。
確かに、その名を思い浮かべていた。
グレゴール。