軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

線、燃え始める

北部方面——旧領主館。

静寂は、終わった。

「急報!!」

扉が、激しく開かれる。

土埃に汗。荒い息の伝令兵。

「第四避難村に、敵先行隊と思われる部隊、確認!」

「……」

間髪入れず、次。

「第七避難村方面にも、敵影!」

「……」

更に別方向。

「第二避難村!」

息も絶え絶え。

「我が方、防衛戦を展開中!!」

「……」

部屋の空気が、一段深く沈む。

そして——

「第八避難村!!敵、包囲行動確認!!」

「……!」

遂に線が——燃え始めた。

これまでは、後退と誘導。じんわりと削り。

時間を奪い、場所を選ばせ、形を整える段階。

だが——違う。

もう、敵は“線”そのものへ触れ始めている。

避難村。

つまり——後退途中。民と集積物資。再編。

そこを突かれる。

「……遂に、か」

低く。

北部領主は、静かに立ち上がった。

焦りは無い。だが——猶予も無い。地図。

第四、七、二、八。一点ではない。

散らしている。

「……」

敵将も、こちらの後退線を測り始めた。

避難線、中継点、弱い場所。

“何処を突けば、流れが乱れるか”見始めている。

「……上手いな」

ぽつり。

褒めている訳ではない。だが——理解はする。

こちらが線を引いたなら、相手もまた線を探る。

当然だ。

「作戦指令」

低く。だが、部屋全体を貫く声。

「徹底させろ」

「……!」

「第二避難村!防衛継続。固定死守!」

「……!」

「民と物資、時間を稼いだ後——後退」

「承知!」

「第四、第七、先行隊規模確認!誘導可能なら予定線へ無理なら即時分散」

「……はっ!」

「第八は、固定防衛せよ!」

一拍。

「しかしこちらから手を出すな!」

さらに。

「人を抜け」

「……!!」

守る対象。村ではない。領だ!民だ!

線そのものだ。

一地点に、全てを賭けるな。

文官、伝令、副官。

全てが、一斉に動き始める。

地図の上には無数の印。そのただの印は、数十名いや、数百名以上の命。

旧領主館そのものが、巨大な指令装置へ変わる。

「早馬!!」

「はっ!!」

「クラウスへ!」

「……!」

「敵、後退線接触開始!先鋒だけと思うな!」

「……!」

「エドワルドへ!」

「敵、避難線探査開始!偽道標のみで足止め可能と考えるな!」

「……!」

「グレゴールへ!」

「偽装村への陽動に注意せよ!」

「……承知!!」

三方。

それぞれの線へ、父の報が飛ぶ。

「……」

北部領主は、再び地図を見る。

ここから先。

もう“整えるだけ”では足りない。

敵は、触れた。

なら——こちらも、受けながら、折らず、削り返す。

窓の外の春。

だが、もはや穏やかな季節ではない。

避難村。後退村。中継村。

その全てが、戦場へ変わり始める。

「……」

全ては、最初から分かっていた。

何処かで、線は燃える。

問題は——“何処で燃やし、何処を残すか”

北部領主は、静かに前を見た。

「……始まったな」

短く。

それは、単なる侵攻開始ではない。

後退線。避難線。補給線。

家が引き、子が守り、臣下が繋いだ線。

その全てを賭けた、本当の意味での——領を残す戦の始まりだった。