作品タイトル不明
燃える線へ向ける牙
「……遂に、か」
報を読み終え、
クラウスは静かに地図へ視線を落とした。
第四。七。二。八。各避難村。
父の線へ、敵が触れ始めた。
ここまでは、削り。火、放棄村、偽装、疑念。
進軍速度を落とし、予定を狂わせ、考えさせる。
だが——もう違う。
敵は、線そのものを測り触れ、崩しに来ている。
「……」
クラウスの指が、北側街道をなぞる。
一本の太い線。
「……この流れだと」
ぽつり。
「敵は、一本の線として侵攻している」
先鋒、歩兵、補給、再編。慎重になった。
だが、止まってはいない。
つまり——大きく分散するより。
太く、確実に、北部を押し抜く判断。
「……」
悪くない。
兵力分散を避け、主線突破。
旧領都。旧領主館。
まず、そこへ圧を掛ける。
「……」
グレゴールから、現時点で直接要請は無い。
つまり——領都方面へ大規模分岐は薄い。
まだ。
「……うちに兵力分散する余裕は無い、と見たか?」
敵将も、こちらの広域分散対応力を測っている。なら。
「……先ず北を制圧」
その後、南下し縦断か?
「……上手いな」
短く。だからこそ——侵攻線は太い。
太い線は、強い。だが——
「……曲がりにくい」
ぽつり。
接触を受けている、四避難村。
名目は、避難。だが本質は、違う。
兵と物資の集中し再編。敵の遅延。
そして——敵兵力分散。
本来なら、今の所、四点を気にさせ、薄めたかった。だが敵は、そこへ最低限触れつつも。
本線を、まだ太く保っている。
なら——
「……薄める必要がある」
こちらから、軽く噛む。
問題は——何処で。
早過ぎれば、主線変更。
遅過ぎれば、父線接触増加。
「……」
クラウスは、立ったまま考える。
正面撃破ではない。
“引かせる”
こちらの担当地区。
偽装拠点。投石。火。地形。
そこへ“来た方が良い”と、敵に思わせる必要がある。
「……」
囮。
だが、露骨過ぎれば意味が無い。
「……物資か」
一つ。
補給。あるいは——撤退途中に見える兵。
「……」
敵が、“崩せる”と思えば、線の一部は曲がる。
太い線に、枝を作らせる。
その枝を——折る。
「……副官」
「はっ」
「第四、第七避難村方面」
「……」
「更なる偵察を出せ」
一拍。
「……敵をよく見るぞ」
副官の目が変わる。
「……はい。偵察を出します」
「……ああ」
守るだけでは、太線は太線のまま。
なら。価値ある獲物を見せる。
逃げる物資。薄い護衛。崩せそうな流れ。
敵が、そこへ食い付けば。
「……線は、割れる」
割れればそこから先は——こちらの地。
投石。火。伏兵。既に、用意はある。
「……タイミング、か」
それが全て。早過ぎれば、無視。
遅過ぎれば、被害増。
「……第二避難村」
今、実際に交戦中。なら。敵意識は、そちらへ寄る。その瞬間、別線に、“崩せそうな物”を見せる。
「……悪くない」
クラウスは、静かに地図へ印を置いた。
守る為に、見せる。削る為に、誘う。
「……父上が線を引いた」
なら——
「……私は」
低く。
「……その線へ、牙を向けさせる」
春。
燃え始めた線。
だが——燃えるだけでは終わらせない。
敵が、その線へ触れたなら。
今度は——その手そのものを、噛み砕く番だった。