軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夜空を裂く火

北部先遣本隊。

夜。

本来なら、進軍を抑え、前方偵察の帰還を待つ時間だった。

焚火。補給確認。簡易整備。

雪解け後の湿った空気の中、騎兵先鋒が確保した休息地点——放棄村。

その報も、既に届いていた。

街道沿い。構造確認。大きな異常無し。

だからこそ、本隊側にも僅かな緩みがあった。

完全な油断ではない。

だが、少なくとも“即座の大損害”を想定する空気ではなかった。

その時だった。

北寄り前方。

夜空が——赤く染まる。

「……!」

最初に気付いたのは、見張り台の兵。

赤。

次の瞬間。火柱。一本ではない。複数。

いや——

「……何だ、あれは」

前方。騎兵先鋒が向かった方角。

放棄村方面。火が、立つ。

村一つが燃えている——そう見えた。

だが、違う。

「……囲まれている?」

副官の声が、低くなる。

炎の位置。

村そのものではない。周囲。輪。

「……」

敵将は、立ち上がった。

経験が告げる。偶然ではない。

焚火の延焼でも、失火でもない。

「……止まれ」

低く。だが、一瞬で空気を変える声。

「全軍、前進停止」

「……!」

「補給隊、防御強化」

「騎兵第二陣、突出禁止」

「……!」

即座。速い。混乱より先に、制御。

「……」

前方。悲鳴。馬の嘶き。風に乗る断末魔。

それで十分だった。

「……罠だ」

短い。

「……」

副官が、地図へ視線を落とす。

「放棄村……」

「……利用されたな」

そう。

村が罠だったのではない。

“休むだろう”という判断ごと、

利用された。

「……」

敵将は、前方火柱を見据える。

派手。残酷。だが——本質は別。

「……速い」

準備。設置。誘導。つまり。

“こちらが来る事を前提に、既に用意されていた”

「……」

歓迎された訳だ。

しかも、狙い撃ちに近い。

「……」

無能な敵ではない。むしろ逆。

地形。心理。休息。夜。全てを利用している。

「……面白い」

ぽつり。

怒りではない。侮りでもない。警戒。

「……」

「生存者は」

「現在、確認中です!」

「……少数でも拾え」

「はっ!」

重要なのは、被害数だけではない。

何をされたか。火か。油か。酒か。矢か。

再現出来ねば、次も刺さる。

「……」

「工兵隊、前へ」

「……!」

「現地確認準備」

「ただし、夜間深入りは禁止」

「……」

ここで焦って踏み込めば、二重罠もあり得る。

「……」

敵将は、そこで更に前進命令を出さなかった。

それだけで——周囲も理解する。

相手を、格下と見ていない。

遠くの火柱。

夜空を裂く様に、未だ燃える。

兵の中には、あれを見ただけで顔色を変える者もいた。

先鋒。騎兵。速さと誇り。

それが、休息中に焼かれた可能性。

衝撃は大きい。

だが——本隊は、崩れない。

止まり、見て、考える。

それが出来る指揮官だった。

「……伝令」

「はっ!」

「全軍通達」

一拍。

「この地を、安全と思うな」

「……!」

「村も、道も、痕跡も」

さらに。

「敵は、“使ってくる”」

「……」

ただ進めばいい戦ではない。

土地。心理。夜。全てが敵になる。

「……」

「進軍速度を、一段落とす」

「……!」

「その代わり」

副官が、顔を上げる。

「見落とすな」

「……はっ!」

速さは、落ちる。

だが——雑さも、減る。

クラウスの火は、先鋒だけでなく。

敵軍全体の“進み方”そのものに、最初の傷を入れた。

夜。

燃える放棄村。

それを見つめながら、敵将は静かに理解する。

これは、ただの国境侵攻ではない。

相手は——待っていた。

しかも、考えて。ならば。こちらもまた、

考えねばならない。

春の戦場。

最初に焼けたのは、

先鋒だけではない。

“いつも通り進めばいい”

という認識そのものが、夜空の下で焼き払われていた。