軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄が見る影

「……偽装布、か」

クラウスは、文を閉じた。

領都より届いた追加報告。

偽装布。

「……」

少し、沈黙。

「……本当に、増えるな」

ぽつりと漏れる。

火。道。泥。

次は——布?

エドワルドらしい。使える物を、増やす。

その姿勢自体は理解する。

だが——

「……実物を見るか」

短く言う。

文字だけでは、限界がある。

「一枚、届いております」

グレゴール経由。既に手配済み。

「……そうか」

仮陣。

「こちらです」

差し出された布。

「……」

クラウスは、無言で受け取る。

軽い。

「……」

緑。黒。茶。見栄えは——悪い。

華やかさも無い。むしろ。

「……酷い色だな」

正直な感想。

「ですが」

副官が続ける。

「被ると——」

「……」

「……」

クラウスは、黙って被る。

肩。背。姿勢。

数歩。

「……?」

「少し、あちらへ」

副官に促される。

歩く振り返る。

「……」

沈黙。

「……ほう」

そこに立つ兵。見えている。

……いや。“見えにくい”輪郭。境界。草。土。

完全ではない。だが——

「……初見」

そう。急ぎ、距離と混乱。

その中なら——

「……気付くのが、遅れるな」

「はい」

「……」

クラウスは、布を再度見る。

見た目ではなく——使い道。

歩兵。伏兵。投石器。

「……」

それだけではない。

「……馬は?」

「……?」

副官が、僅かに目を瞬く。

「騎馬だ!馬体!」

「……」

「布面積は増えるが」

一拍。

「草地。林縁。遠目」

「……」

「可能性は、あります」

「……」

クラウスの目が、細くなる。

「……荷馬車もだな」

「……!」

「補給に見せず、伏せる」

副官が、思わず頷く。

「……成る程」

エドワルドは——兵。

だが。クラウスは——運用。

「……」

用途は、一つではない。

「……面白い」

ぽつり。

「……」

さらに。

「夜明け」

「……?」

「薄霧」

「……」

「朝露」

「……」

視界条件が悪ければ——尚更。

「使えるな」

短い。

「……かなり」

「量産は?」

「進んでおる様です。グレゴール様が整理を」

「……そうか」

納得。なら——早い。

クラウスは、再び布を見た。

派手ではない。名誉も、装飾も無い。

だが——

「……勝てるなら、十分だ」

ぽつり。どこか弟に似た言葉。

「……」

少しだけ、口元が上がる。

「……あいつめ」

泥。道。布。

次は、何だ?そう思いながら——

「……悪くない」

素直に、認める。

「伝令」

「はっ!」

「グレゴールへ偽装布、継続増産」

「……!」

「歩兵優先」

「次に、クロスボウ班、騎馬用試作も開始」

「承知!」

「……」

「それと」

一拍。

「エドワルドにも」

「……?」

「“使える”と伝えろ」

「……!」

副官が、僅かに笑う。

「そのまま、ですか?」

「……ああ」

余計な言葉は、要らない。

「……」

使える。それで——十分。

春の風。草原。

火の備え。泥の備え。影の備え。

戦は、まだ始まっていない。

だが——既に。

“どう戦うか”は、少しずつ形になっている。

兄は、影を見る。

そして——その影すら、戦力へ変え始めていた。