作品タイトル不明
増える影
「……さて」
グレゴールは、小さく呟いた。
「少し、また様子を見ますか」
人員。倉庫。染料。縫製。
必要な整理は、入れた。
なら——次は。
「……進み具合」
短く言い、再び工房街へ足を向ける。
数時間後。
「……」
工房街。
「……ほう」
思わず、漏れる。
「……これは」
想像より——進んでいた。
布。草。染料。先程よりも、流れがある。
「……」
人手を増やした。
確かに、それも大きい。
だが——
「……それだけでは、ありませんね」
手が、止まりにくい。
迷いが、減っている。
「……」
「アルト指揮官!」
「はい!」
「これは、このままで良いか!?」
「そのままで大丈夫です!」
「おい! こっちは!?」
「それは——もう少し長めに切りましょう!」
「了解!」
「……」
グレゴールは、少しだけ目を細めた。
回っている。
「……」
ただ命令を叫ぶだけではない。
質問。返答。調整。
「……」
早い。しかも。
「……顔見知り、か?」
ぽつり。
領都の職人街。徴兵前からの繋がり。
誰が何を得意か。誰が手が早いか。
それを——アルトは、自然に使っている。
絵描き。確かに人を見る。話す。要望を聞く。
「……」
案外。
「……向いているのかもしれませんね」
人をまとめる事に。
グレゴールは、少しだけ笑う。
「人心掌握」
無自覚かもしれない。
だが——悪くない。
「……アルト殿」
「はい!」
即座。振り返る。
「グレゴールさん」
「……」
“さん”そこもまた、らしい。
「進んでいますね」
「はい!」
少し誇らしげだ。
「順調です!」
「……」
グレゴールは、頷く。
「少々、お尋ねを」
「……?」
「枚数」
一拍。
「どれくらい作る予定ですか?」
「……」
止まる。
「……枚数?」
「……」
アルトの顔に——空白。
「……」
「そう言えば……」
ぽつり。
「何も……」
「……」
「沢山作れ、だった様な……?」
「……」
沈黙。そして——
「……なるほど」
グレゴールは、小さく息を吐く。
非常に——エドワルド様らしい。
具体数無し。使えるだけ。
悪くないが——調整は必要。
「……では」
柔らかく。
「私から、追加で」
「……!」
アルトが、姿勢を正す。
「エドワルド様が、もう必要無い」
一拍。
「そう仰っても——作り続けて下さい」
「……?」
「……え?」
「クラウス様の隊にも私の隊にも欲しいです」
「……!!」
アルトの目が、大きく開く。
「……は、はい!解りました!」
当然だ。消える宿営地。消える兵。
エドワルド様だけの物にする理由が——無い。
「ただし」
グレゴールが続ける。
「戦が始まれば、一旦中止を」
「……?」
「各隊、移動します。受け取り手段も変わる」
「……あ」
理解。
「……なるほど!」
「そこまでに、可能な限り」
「はい!」
「……」
グレゴールは、僅かに頷く。
「無理は、せずに」
「……!」
「ありがとうございます!」
「……」
その返答に少しだけ。
「……いえいえ。初めてにしては——上手く回していますよ」
「……」
アルトが、固まる。
「……え?」
「隠れた才能」
ぽつり。
「……というやつかもしれませんね」
絵描き。徴兵兵。臨時指揮官。
「……」
まだ、ぎこちない。
だが——
「……悪くない」
本当に。
「……」
工房街。
布が増える。草が編まれる。染料が混ざる。
そして——影もまた、増えていく。戦場へ向けて。