作品タイトル不明
影を整える者
領都。
まだ——グレゴールは、この地にいた。
偽装村。警戒。防備。
自らの役目は進めている。
だが。
「……偽装布?」
届いた報告に、僅かに眉が動く。
木工。道標。泥。
そこへ今度は——布?
「……」
エドワルド様らしい。そう思うと同時に。
「……確認しておくか」
短く呟き、工房街へ足を向けた。
工房街。
騒がしい。布。染料。草。糸。
既に——動いている。
「……始まっているのか」
想像より、早い。
布を切る者。染める者。縫う者。
「……」
そこへ完成品らしき一枚。
「……これか」
手に取る。緑。黒。茶。
「……」
派手さは、無い。むしろ——地味。
だが。
「……草むら」
平原。草地。
「……溶ける、か」
ぽつりと漏れる。なるほど。確かに——面白い。近くの職人へ声を掛ける。
「少し、宜しいですか?」
「あー」
振り返る。
「グレゴールさんか」
「……」
既に顔が広い。
「これは完成品ですか?」
「ああ。そうだ」
「偽装布、って言っていたな」
「……」
グレゴールは、小さく頷く。
「指揮官は?」
「おーい!」
職人が、大声を上げる。
「アルト!グレゴールさんが呼んどるぞ!」
「はい!」
駆けて来る若い、徴兵兵。
だが——目が、違う。
「……貴方が?」
「はい!」
少し緊張気味に胸を張る。
「エドワルド様より、偽装布指揮を承りました!本物の命令書も——」
「いえいえ」
グレゴールは、柔らかく止める。
「疑ってはおりません」
「……」
「少し、経緯を」
「……あ!はい!」
アルトは、即答する。
「この布を被り景色へ溶け込むそれが目的です!」
「……」
グレゴールの目が、細くなる。
「……!」
なるほど。布だけではない。
「……顔料も、か」
「はい!その通りです!」
「……」
顔。布。草。輪郭を消すか。
「……面白い」
ぽつりと漏れる。
「……」
少し、周囲を見る。
散っている。染める場所。縫う場所。乾かす場所。悪くないが——
「……惜しい」
「……?」
アルトが、首を傾げる。
「少し、お手伝いを」
「……!」
グレゴールの声色が、少し変わる。
「まず」
周囲を指す。
「染料」
「……?」
「誰でも、ある程度可能でしょう?」
職人が、頷く。
「量測って混ぜるだけだな」
「……なら」
即断。
「そこは、職人さんでは無く他の方を」
「……!」
「人手はこれから手配します。縫製も」
一拍。
「バラバラでは、遅い」
「……」
視線の先に倉庫。
「……あそこへ集約を」
「……!」
「可能な限り同作業は、同じ場所、人を集中し流れを作る」
「……」
アルトの目が、大きく開く。
「……なるほど!解りました!」
「……」
近くの職人も、思わず漏らす。
「……流石だな。グレゴールさん」
「……」
アルトは——発想。
グレゴールは——整理。
考えを、形にする速度が違う。
そこへ年配の職人が、笑う。
「アルトは、頭ん中こんがらがってるからな!」
「……」
「徴兵だが、普段は絵描きだよ」
「……絵描き?」
「腕は良いぞ。家族の絵も描いてもらった」
一拍。
「……だが」
少し、表情が変わる。
「前の戦ん時な。絵描きは、何も役に立たねぇって、そう言ってた」
グレゴールは、アルトを見る。
今、その絵描きは——戦場の布を作っている。
「……」
「周りの反対押し切って行ったと思ったら」
職人が、笑う。
「戻ったら、指揮官だ」
「……」
「早ぇ出世だな!」
「……」
グレゴールも、少しだけ笑う。
「……その様ですね」
「……」
能力の使い道。エドワルド様らしい。
「……なるほど」
ぽつり。
「やはり——エドワルド様」
身分ではない。使えるか。
「では」
グレゴールは、踵を返す。
「人手、回します」
「……!」
「短期生産体制に移行を」
「……!」
「ありがとうございます!」
「……」
工房街は、アルトの発想と職人の技術、そしてグレゴールの整理。影から支える者。その手が加わった事で——偽装布は。“面白い案”から、“戦力”へと変わり始めていた。