軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

使える、その一言

「……エドワルド様」

仮陣。

偽装布確認。

泥濘予定の進捗。

大型クロスボウ配置。

確認を続ける中——レオンが、一通の文を持って来た。

「クラウス様より」

「……兄上?」

「はい」

「……」

エドワルドは、少しだけ手を止める。

兄上。今の時期。長文ではない気がした。

「……」

封を切る。紙。短い。

本当に——短い。

「……」

そこに書かれていたのは。

「使える」

「……」

沈黙。

「……」

レオンが、横から少し気になる顔をする。

「……如何でした?」

「……」

エドワルドは、紙を見たまま。

そして。

「……ふっ」

僅かに本当に僅かに、笑った。

「……兄上らしいな」

ぽつりと漏れる。

「……?」

レオンが、首を傾げる。

「それだけ、ですか?」

「……ああ」

「……」

レオンも、思わず苦笑する。

「短いですな」

「……十分だ」

即答だった。

他人なら雑、短い、説明不足。

そう思うかもしれない。

だが——

「……」

クラウス兄上。あの兄が。

「……使える」

そう書いた。それだけで——十分。

「……」

余計な飾りは無い。褒め過ぎも無い。

だが——認めた。

エドワルドは、紙を折る。

「……なら、いい」

小さく。だが、確かに。

「……」

少しだけ。肩の力が、抜ける。

自分では使えると思った。

グレゴールも、動いた。

だが——

「……兄上も、か」

そこは、やはり違う。

戦を見る目。実戦感覚。

その兄が、認めた。悪くない。

「……」

レオンが、少しだけ笑う。

「珍しいですな」

「……何がだ?」

「嬉しそうですよ」

「……」

沈黙。

「……そうか?」

「ええ」

「……」

少しだけ、視線を逸らす。

「……まあ」

否定し切れない。

兄上は、昔から——簡単には褒めない。

だからこそ。

「……重いな」

ぽつり。

「……?」

「いや」

小さく首を振る。

「……悪くない」

風が吹き草が揺れる。偽装布。泥。道。

大型クロスボウ。

一つ認められた。なら——次。

「……まだ、足りん」

ぽつり。

「……!」

レオンが、少し驚く。

「まだ、ですか?」

「……当然だ」

即答。

「使える」

それは——始まり。

「……勝てる、とは違う」

そう。便利、有効、面白い。

だが——勝つには、まだ足りない。

敵は、来る。数。速度。想定外。

なら更に。

「……次を考える」

短く。

「偽装布、歩兵用だけで終わるな」

「……?」

「荷、補給、偽配置」

「……!」

レオンの目が、開く。

「……成る程、見えぬなら——誤認もさせられる」

兵を隠すだけではない。

“ある様に見せる”“無い様に見せる”

使い方は——まだ増える。

レオンは、苦笑した。

「本当に」

「……?」

「その文、一つで終わりませんな」

「……」

エドワルドも、小さく笑う。

「……兄上が悪い」

「……?」

「使える、なんて言うからだ」

一拍。

「……もっと、使いたくなる」

「……」

レオンが、吹き出した。

短い文。たった一言。

だが——その一言は少しだけ、嬉しく。

そして——次の面倒な発想を、生み出すには十分過ぎた。