作品タイトル不明
削る為の地
エドワルドは、一人。泥濘予定地を見ていた。
まだ——乾いている場所もある。
完全な泥ではない。だが。
水。地形。堰。導線。
準備は——進んでいる。
目の前に広い平地。開けている。
遮る物は少ない。だからこそ——怖い。
「……」
平原。敵が、本気で来れば。騎兵からの突撃。その後ろには歩兵。更に後方に荷荷馬車。
横一線そして、一直線に。
エドワルドは、目を閉じた。
「……想像しろ」
低く、心で言う。
正面の敵の動き。数。高く上がる土煙。
全速。こちらへ——来る。
距離は、まだ。まだ。
「……」
合図の狼煙を上げる。そして——
「……切る」
堰を切られ、一気に流れ込む。
脳裏で想像。遠くからの轟音。
溜めた水。補助水路。落差。大量。
流れ込む。目の前へ。平地へ。
敵は——驚く。当然だ。地が、変わる。
乾いたと思った場所へ。突然の水。
隊列。乱れ始まる。泥沼で足を取られる。
速度は、落ちる。騎兵なら、尚更。
荷馬車なら——もっと。
そこで。
「……撃つ」
目を開く。配置地点の視線の先。
並ぶ、大型クロスボウ。
兄の助言。領都木工場。
あれは——正解だった。
技術と人数と違う。結果。
「……二十基」
最初より、遥かに多い。
今は——二十基。
「……」
遠距離。重い矢。隊列。
止まりかけた所へ——叩き込む。
「……悪くない」
ぽつりと漏れる。
いや、かなり違う。
「……」
先ず。水に驚き、泥に驚き、速度低下。
そして近付くなら通常クロスボウ。
矢の連射。どこまで、削れるか?
「……そこだな」
接近される前。数差、敵の勢い。士気。
どれだけ壊せるか。
接近戦。そこへ持ち込まれれば——不利。
数と機動力。こちらは、厳しい。
なら近付く前に。
「……減らす」
止める、だけではない。削る。
それが——重要。
エドワルドは、足元を見る。
泥は、まだ静か。だが——
「……ここが、削る地になる」
単なる足止めではない。
ここで敵の“数”そのものを削る。
二十基の大型クロスボウ。
兄の一手の領都木工場。
「……感謝だな」
小さく漏れる。自分だけでは、ここまで揃わなかった。悪くない。
風が吹き、草が揺れる。今は——まだ静かだ。
だが。
「……来るなら」
低く。
「……ここで、減らす」
その言葉だけが、静かに地へ落ちた。