作品タイトル不明
差と今出来る事
領都は、慌ただしい。
伝令兵。補給。荷馬車。その様子を見ている領都民。何かしら始まると感じとっている。
冬の静けさは、既に薄い。
「……」
その中でエドワルドは、地図と報告書を前に小さく息を吐いた。
「……兄上、早いな」
ぽつりと漏れる。
既に——クラウス隊は動き始めている。
中央予定地点。偽装。投石器。先行配置。
距離が最もある。だからこそ、早い。
理解は出来る。
「……」
だが——
「……流石だな」
それでも、そう思う。
判断に準備からの移行。迷いが、薄い。
しかも馬がそれなりに数が揃っている。
伝令に展開に、速度。やはり——強い。
「……羨ましいな」
思わず漏れる。
機動力。あるだけで、出来る事は増える。
速く動ける。速く見れる。速く刺せる。
自分の隊。
歩兵主体。大型クロスボウ。補給。
悪くはない。
だが——速くはない。
無い物を欲しがっても、仕方ない。
今は。
「……その内、だな」
小さく呟く。
馬産と育成に増産。いつかは——増やす。
だが。
「……今じゃない」
今考えるべきは、今ある手。
視線を落とす。
自隊。
まだ——全軍集結には時間が掛かる。
泥濘にまみれ、長距離行軍。疲弊。
どうしても、差が出る。
一部は、既に集結している。
比較的余力有り。
だが——
「……待機、か」
今は、揃うのを待つ形。
ここで待機させるより、先に出すか?
一瞬、考える。偵察に、工兵支援。
使い道はある。
だが——半端に出して、削られるのは避けたい。判断。速さだけではない。
「……難しいな」
ぽつりと漏れる。
ふと視線が、別へ向く。
グレゴール。
ここから最も近い地区、偽装村。国境からも近い、最前線寄り。にも関わらず……落ち着いてるな。
本当に。
警備強化。罠前倒し。見張り増。
やる事は早い。
だが——慌てていない。
「……」
焦りや苛立ち。それが、薄い。
「……経験の差、か?」
各戦場の経験。現場での経験。それらの積み重ね。距離が近いからこそ、本来なら緊張も濃い。それでも——
「……あれは、強いな」
小さく認める。
自分なら、多少は気が急く。
だが——グレゴールは違う。
やるべき事を、やる。
それだけ。少しだけ羨ましくもある。
その時。
「エドワルド様」
声。振り返る。
グレゴールが、一礼していた。
「お茶が入りましたので」
「……」
一瞬。思考が、切れる。
「あ……ああ」
少し遅れて返す。
「……ありがとう」
差し出された茶は、湯気と温かい。
受け取り。
一口。
「……」
ほっと、息が抜ける。
慌ただしい。戦前の敵影。
準備。だが——
「……焦っても、仕方ないか」
ぽつりと漏れる。
今、自分に出来る事。
ある物を使い。集まる兵を整え。間に合わせる。
兄の速さ。
グレゴールの落ち着き。
羨むより——
「……俺は、俺だな」
短く、静かに。
先発隊を出す事を決める。
使い所。治水進捗。再確認。
茶を置く。
「レオン」
「はっ」
「集結してる隊を先発。工兵支援と地形再確認へ回す」
「……!」
「全軍待ちだけでは、時間が死ぬ」
「承知!」
「……」
そうだ。
無い物を欲しがるより。
「……有る時間を、使う」
それでいい。春は——待たないのだから。