軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

道を失わせる

書庫。静かだった。紙の匂い。木の棚。

積まれた記録。

エドワルドは、小さく息を吐く。

来てはみたものの——

「……」

既に、過去の戦果報告書。北部方面。他国戦例。古い侵攻記録。

それらは——ほぼ、目を通した。

「……」

読んだし、考え比べた。

その上で、今がある。

「……なら」

視線を移す。

残るのは——

「……戦記物、か」

想像に脚色。御伽話。

現実性は薄いだろう。

そう思っていた。

「……冊数は少ないな」

ぽつりと漏れる。これなら——早い。

「……試すか」

手を伸ばす。

一冊目。頁を捲る。

「……ほう」

思ったより——悪くない。

派手さはあが、中身は現実寄り。

兵站。疲弊。判断。書いた人物名を見る。

「……元軍人、か?」

断定は出来ない。だが——妙に、生々しい。

将か。あるいは、それに近い者。

「……なるほどな」

想像だけではない。経験が、混じっている。

戦記物も——捨てたものではない。

次。

「……?」

鳥が空から石を落とし、敵を倒す?

「……」

「……無いな」

即座に閉じる。現実味が、薄いと言うかありえん。

次。

偽橋を造り敵を惑わす。

「……?」

意味は、分かる。だが、条件が限られ過ぎる。

次。

火を吹く松明で、敵を焼き尽くす?

迷いの森。敵をそこへ向かわせ迷わせる?

「……御伽話か」

閉じる。

「……」

現実と空想で、当たり外れが激しい。

だが。

「……迷わす、か」

手が、止まる。

迷い森。不可能。だが——

「……待て」

目が細くなる。迷わせる?

それ自体は——別に、森でなくともいい。

脳裏に浮かぶ。

平原。開けた地。森も山も薄い。

目立つ目印は、少ない。

あるのは街道。

そして——

「……道標」

ぽつりと漏れる。

一定間隔に打ち込まれている。

王国管理下、距離表示。それを破壊や抜いたら極刑相当。

「……」

何気なく自分も、使った。

配置予定地まで自然に。何故なら目印はそれだけ。道はあるが距離は道標で確認した。だから迷わす予定地まで着けた。

「……」

なら。敵も——使う。

視線が鋭くなる。

「……増やす」

一拍。

「……抜く」

さらに。

「……位置を、変える」

地形は、変えられない。

森も丘もすぐには無理。

だが——

「……目印は、変えられる」

道。距離。方向。

正しいと思わせ——ズラす。

敵は、平原を進む。しかも敵地。地形に詳しい者も居ないはず。

目立つ物が少ないからこそ——

「……目印に、頼る」

なら。

「……迷わせられる」

低く、静かに。

地そのものではなく——認識を、狂わせる。

しかも道標。今は、ただの目印。

だが——

「……使い方次第、か」

小さく笑う。

抜けば、混乱。

増やせば、錯覚。

偽れば——誘導。そうならないか?

違法。本来なら——重い。

だが今はその罰する側がいない。

「……戦だ」

それだけだった。

防ぐ。止める。刺す。そして——

「……迷わせる」

ぽつりと漏れる。

「……悪くない」

書庫。答えそのものは無い。

だが——時に。答えの“形”は、転がっている。