軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

道を選ばせぬ為に

「……兄上は?」

書庫を飛び出したエドワルドは、そのまま領主館を進む。足が、速い。

思考が繋がっている内に——伝える。

「クラウス様でしたら、執務室に」

「解った」

短く返す。止まらない。廊下を小走りに走る。

扉をノック。

「兄上!俺です!」

一拍。

「……入れ」

即座。

扉を開ける。

「……どうした?」

クラウスは書類から目を上げる。

「何か、あったか?」

「……ありました」

息を整える間すら惜しい。

机へ進み——地図を広げる。

「……?」

クラウスの視線が落ちる。

「道標です」

「……道標?」

「はい」

指が、街道をなぞる。

「平原。森も山も薄い。敵は地理に疎い可能性が高い。目立つ目標も無い」

「……」

「そして、あの地で最も分かりやすい目印は——街道と道標」

「……」

クラウスは黙る。

だが——聞いている。

「なら」

エドワルドの指が止まる。

「増やす。抜く。位置を変える」

「……」

静寂。

「敵を、迷わせられます」

低く、言い切る。

クラウスは、しばし何も言わない。

「……続けろ」

短い。

「……」

「正しいと思わせて、ズラすんです敵は街道を進んでいるつもりで——別方向へ進む」

「……」

「あるいは、予定より遅れる。進んでいる」

「……」

「そして」

一拍。

「こちらの有利な地区へ、誘導する」

「……!」

空気が、変わる。

クラウスの目が、細くなる。

地図。街道。泥濘化予定地。中間拠点。

線が、頭の中で繋がる。

「……ほう」

ぽつりと漏れる。

「迷わせ」

指が、地図をなぞる。

「……遅らせ、進めさせ」

さらに。

「……誘導する、か」

「……はい」

「……」

クラウスは、口元を僅かに歪める。

「……悪くない」

その一言。

だが——それだけで、十分だった。

そして。

「いや」

小さく首を振る。

「……良い」

「……!」

エドワルドの視線が上がる。

「道標だけじゃない」

クラウスが立ち上がる。

「偽の補給跡。偽の車輪跡。偽の野営跡。それに、この領都辺りの道標を引き抜け。草臥具合が演出が出来る」

「……!」

「“正しい”と思わせる材料を増やせ」

「……」

エドワルドが、息を呑む。

「道標だけを弄れば、不自然だ」

淡々と告げる。

「だが——」

一拍。

「他も揃えば、敵は信じる」

迷わせる、だけではない。

信じ込ませる。

クラウスの指が、有利な地域を叩く。

トン。

「こことここ。敵を来させろ。手が回れば北部方面の一部も」

低い声。

「……」

「来た所を、迷わせる」

エドワルド。

「……」

「有利な地区で、止まった所を撃つ」

大型クロスボウ。

「崩れた所を——燃やす」

クラウス。

「……」

沈黙。

やがて——エドワルドが、小さく息を吐く。

「……繋がった」

ぽつりと漏れる。

「……」

防ぐ。止める。刺す。迷わせる。

点だったものが——線になる。

「……兄上」

「何だ」

「……やはり、話して正解でした」

「……」

クラウスは鼻で、小さく笑う。

「当然だ」

一拍。

「一人で考えるな」

「……」

「使える物は——全部使え」

「……はい」

「……」

クラウスは再び地図を見る。

「……面白くなってきたな」

敵に、道を選ばせるな。

選んでいると思わせ——こちらが、選ばせる。

その言葉だけが——静かに、部屋へ残った。