作品タイトル不明
止めぬために
工兵には、既に指示を出した。
表向きは治水。裏は、泥濘化計画。
呼び方など、どうでもいいが商人どもから情報が漏れるのも癪だ。
重要なのは——進む事だ。
「……」
机の上には、地図。
計測結果。工期。必要人員。
紙の上で、少しずつ形になっていく。
「……これでいい」
ぽつりと漏れる。
少なくとも——何も無いよりは、遥かにいい。
「……」
治水計画。これは、進める。
それでいい。
「……他は?」
指が止まる。
まだ、何か抜けていないか。
判断は、間違っていないか。
敵。補給。騎兵。地形。
考えるべき事は、多い。
机を指で叩く。
トン。
考える。
だが——同じ所を、回っている気がした。
「……頭だけでは、限界か」
小さく息を吐く。
紙の上は、便利だ。整理出来る。比べられる。
しかし紙だけでは見えぬ物もある。
ふと、思い出す。
「……そう言えば」
兄のクラウス。
「……」
あれから、姿を見ていない。
領主館でも。会議でも。廊下でも。
何処で、何をしている。
ぽつりと疑問が浮かぶ。
先に動いた。
それは、分かる。
だが——
「……何をしてる?」
低く呟く。
偽装村。例の物?中間地点。
幾つかは、見えている。
だが——全体は、まだ見えない。
少しだけ、口元が動く。
「……まあ、いい」
今、追っても仕方がない。
椅子を引く。立ち上がる。
なら——少し、外を見るか。
「……気分転換、だな」
ぽつりと漏れる。
領都。今、自分が守ろうとしている場所。
兵。民。商人。工房。
机から離れれば、見える物もある。
「……たまには、悪くないか」
小さく息を吐く。
戦が近い。
だからこそ——止まらぬ為に、一度視点を変える。それもまた——判断だった。