軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

泥の先

自隊の先発到着組の訓練が、再開された。

号令。足音。槍。クロスボウ。

止まっていた空気が、少しずつ戻る。

エドワルドは、その様子を見渡した。

顔色は、数日前とは、違う。

泥濘を越えて到着した頃より、明らかにいい。

食。湯。睡眠。

休ませた意味は、あった。

「……戻ったな」

ぽつりと漏れる。

久々の領都。

故郷。

知る土地に慣れた空気。

それだけでも——違う。

「……」

多少、気は緩んでいるが。

「……まあ、いいか」

小さく息を吐く。

ずっと張り詰める方が、いずれ折れる。

今は——戻す時期だ。その時。

「エドワルド」

背後から声。

「……?」

振り返る。

「……兄上」

クラウス。

「……」

そして——

「……随分と、泥だけですね」

思わず漏れる。

外套。靴。裾。

乾いてはいる。だが、泥の跡が濃い。

しかも——近場ではない雰囲気。

「……ああ」

クラウスは軽く肩を回した。

「泥は、参る」

短い。それだけ。

だが、その一言だけで十分だった。

遠い道のり、しかも悪路を行軍した様子。

戻った直後。

何処かへ、行っていた。

しかも——かなり。

問いかけようとした、その前に。

「訓練再開か」

クラウスの視線が、兵へ向く。

「……はい」

「いい心がけだ」

短く頷く。

そして大型クロスボウへ視線が止まる。

「……あれは、良いな」

ぽつりと落とす。

「ここの木工場にも、生産を指示しておいた」

「……!」

エドワルドの目が、わずかに動く。

「少しは、数が増える」

思わず問う。

「……余裕が、有るのですか?」

木工場、兵站の調整。表向きの治水。通常の修繕。足りない物ばかりだ。

クラウスは、あっさりと言った。

「そんな事を気にしていたら——」

一拍。

「何も始まらん」

言葉が、止まる。

「……」

確かに足りない。だが——足りるまで待てば、遅い。クラウスは、それ以上語らない。

「……俺達は、少し休む」

それだけ。

「……はい」

短く返す。

去っていく背。

泥。護衛。疲労。

あれ程までに?一体——何処へ。

何を見て何をした?

疑問は、残るが。

「……後だな」

低く呟く。

今は、まだ。

訓練場へ視線を戻す。

兵。槍。クロスボウ。

兄は、先に動く。なら——

「……俺は、止まらん」

それでいい。

泥の先に何を見たかは——いずれ、分かる。