軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

削られる前

数日。

エドワルドは再び書庫に籠り、本を読み漁っていた。戦記。戦果報告。地図。

読み、比べ、考える。

北部の地形、道の位置。補給の配置場所に、侵攻速度。

何度も頭の中で線を引き直す。

だが——現実は、本より先に来た。

「到着しました」

自隊の一部が、領都へ辿り着いたとの報告。

エドワルドは書を閉じ、そのまま外へ向かった。

姿を見た瞬間、理解する。

泥。

装備も、靴も、外套も。

全てに重く張り付き、兵達の動きそのものを鈍らせていた。

顔色も悪い。

疲労困憊の足取りに、疲れ切った呼吸。

その全てが、自分がここへ来た時と同じだった。

「……そうなるか」

小さく漏れる。

雪より厄介だ。

進めない。乾かない。休めない。

体力だけでは無く、気力まで削っていく。

兵達を見渡す。まだ戦ってもいない。

それなのに——既に消耗している。

ここで無理をさせれば、訓練も判断も士気も落ちる。

「任務、一時解除」

短く告げた。

周囲が一瞬、静まる。

「数日休ませろ」

さらに続ける。

「装備を整えろ。身体を戻せ」

低く、はっきりと。

今必要なのは、数ではない。

使える状態だ。

休暇と食事に湯。一番大事な睡眠。

まず、戻す。

現場復帰は——その後。

兵達の表情が、僅かに緩む。

エドワルドは空を見上げた。

晴れている。だが、地面は違う。

「やはり……」

小さく息を吐く。

「あの泥は、削るな」

敵だけではない。

地もまた——兵を削る。

ならば戦う前に、削らせるな。

書では見えにくかったもの。

だが、実際に見れば分かる。

戦は——始まる前から、もう始まっている。