作品タイトル不明
見えない戦場
次の日の朝。
エドワルドの前に、約三百名の兵が整列していた。張り詰めた空気。
「小隊長、副小隊長——前へ」
短く言う。
「はっ」
呼ばれた八名が、一歩前に出る。
「……」
エドワルドはその顔を一人ずつ見る。
「いいか、よく聞け」
静かに言う。
「お前たちの前に、箱があるな」
足元に置かれた木箱。
「その中に、木札が入っている」
八人の視線が落ちる。
「十名単位だ。騎兵、歩兵、長槍、槍、クロスボウ」
「それぞれ書かれている」
「……!」
わずかにざわめく。
「それを引け。引いた札に書かれているのが、お前たちの兵力だ」
「……」
沈黙。
「さらに——」
エドワルドは封筒を取り出す。
「地図が八枚入っている」
「ニ枚は、敵の陣が一箇所、示してある。」
「ニ枚は、敵の陣が二箇所、示してある。」
「二枚は——接敵した最初の相手を味方に出来る」
「……!」
「そして二枚は——白紙だ」
空気が、わずかに揺れる。
「……」
「どれを引くかは、運だ」
淡々と言う。
「最初の陣は、俺が指定する。そこが守るべき場所であり——」
一拍。
「相手の攻める場所になる」
「……」
誰も、口を開かない。
「ルールは理解したな」
短く言う。
「はっ!」
声が揃う。
「よし」
エドワルドは顎で示す。
「引け」
八人が、箱へ手を伸ばす。
木札を引く音。木が擦れる。
顔色が、変わる。封筒が開かれ地図が広げられる。誰一人として、同じ状況ではない。
エドワルドはそれを見て、小さく笑う。
「そうだ」
ぽつりと呟く。
「それでいい」
視線が鋭くなる。
「戦場は、最初から整ってはいない。情報も、兵力も、地形も全てが——バラバラだ」
静かに言う。一歩、下がる。
「始めろ」
短く命じる。
「お前たちの戦を、見せてみろ」
その言葉と共に——統一されたはずの隊は、バラバラに動き出した。